5焼き肉
G町のT公園は雪が高く積まれたところ以外は、だいたい融けて、芝生が見えていた。花はほとんど咲いていないけれど、所々ふきのとうやら小さな花が咲いていた。
公園には焼き肉ができる屋根つき施設があって、尚広は今朝電話をして使用許可をもらっていた。
「今朝電話した、多田野井です」
尚広は事務所に声をかけた。施設利用と炭で千円。炉と椅子はもともと設置されていて、網や鉄板は自前だそう。
ジンギスカンには断然鉄板だ。
「手際いいね」
「そうかな」
「そういう手配ができるのはモテポイントじゃありませんか?先生」
「誰が先生だよ!」
ちゃかす翔子に尚広も気分が上向いてきた。
「翔子だってジュース注いでくれたり、焼けてるよって教えてくれて、さりげに女子力高くない?」
「鍛え方が違いますから」
「四兄弟の長女だもんな」
「そうそう。高校ではたまにお母さんってアダ名だし」
「女子力を超越しているぞ」
炭の温かさが二人を包み、和やかな一時を過ごした。
「ちなみに焼き肉の時は事前に知らせたほうが、女子からポイント高いのよ?」
「そうなの?」
「ニオイが服に移る〜って友達が言ってた」
「へえー。翔子は?」
「あんまり気にしないかな。後で香水とかつけるけど」
「女子力高いな」
「ふふふー」
鉄板をゴシゴシ洗いながら翔子はご機嫌だ。尚広はかなり食べたようで動きがにぶっていた。
「サイクリング、すぐ行くのにはお腹きっついね」
「だな。ちょっとドライブして普段行かない所を自転車乗ろうろよ」
「運転眠くならない?」
「大丈夫」
尚広は軽トラに乗り込んだ。毎度ビリビリと開け閉めの音が響き過ぎるのが欠点だ。
「エンジン音が大きいだろ? だからあんまり寝そうな気がしない」
「これからどこへ行くの?」
「Dダムはどうかな」
「そこ出るって噂じゃない!」
翔子は両手を下に向けて垂らし、うらめしや〜と軽く揺らした。結構嫌そうだ。
「あー。でもDダムの周り、景色が綺麗なんだよな」
「そうなの? 私、行ったことないから」
「じゃあ行こうぜ」
Dダムまで二十分。二人は最近の音楽やテレビの話をした。意外に翔子が音楽に詳しく、尚広は不思議に思った。
「翔子さ、中学の時はそういう話題にすっごく疎かったよな」
「あ〜。今も得意じゃないけど、ファッションとか気にしてたらさ、行き着いたわけ」
「そうなんだ?」
「だからいまだに芸人さんとかは全然だよ」
「明るくなったよな。翔子は」
「尚くんだって背だって伸びたし、モテオーラあるじゃない」
「あるかなぁ? 今朝振られた俺に」
尚広は翔子があまりにもホメるから、照れくさくなって頭をかいた。