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2/8

2準備

 その人生初デートが今日この日だというのに、メインイベントがドライブだというのに。

「車が使えないなんて」

 尚広は母にぶーぶーと文句を言った。

「本当にごめん。他の車は保険の年齢がね〜」

「なんとかなんないの?」

「ダメよ。アンタ初心者なんだから、事故起こさないとも限らないし」

「え〜」

 母は良い案が無いようで、納豆ご飯をもくもくと食べている。

 父は新聞を読みながらお茶を飲み、テレビを聞いている。

 長男の(はじめ)は漬け物を噛んで、箸を8の字に漂わせる。

 ちなみに次男は遠方で独り暮らし、父方祖父母はキッチンなどが独立した作りの離れに暮らしている。

 尚広が始の好物である鮭を手に取った時、始は言った。

「軽トラは?」

「け、軽トラ〜?」

「そう。軽トラ。アイディア出したんだから、鮭、俺のな」

「けっセコイなあ」

 口を尖らせつつ、鮭を兄の皿にのせる。

「ばあちゃん腰が悪いから、軽トラじゃあ可愛そうだし仕方ないかなぁ」

「そうよ始ちゃんや父さんの車は大きくて、母さんは運転怖いもの」

 母は無理無理、と予防線張った。

「いいぞ、軽トラ。おっきい荷物でも載せてやれば、力持ちアピールも出来てイチコロだろ?」

「現代日本で力自慢なんて効果あるのかな」

「あら、母さんは父さんの力こぶに惹かれたのよぉ」

「平成日本のお話をしています」

「たった二十五年前の話よぉ」

 いままで会話に参加していなかった父がぼそり、と口を出す。

「……母さんサバ読んじゃいかん」

「そうだよ。俺二十六だぞ」

「あっらぁ。バレた? うふふ」

 家族の団らんを横に、尚広は約束の十一時までにすることが山ほどあるな、と考えた。



 普段農業にも使ったりもする軽トラをデートに使うに当たって、なにが必要か。

 まずは洗車。

 四月に入ったからといって、寒い今年は場所を考えて洗わないと周りが凍ってしまう。尚広は軽トラを排水の良い場所に持っていく。

 特にいままで割りと無頓着だった、荷台の泥を徹底的に落とさないといけない。

 高圧洗車機をガーッとかけるだけでずいぶんキレイになった。ビバ、文明の利器。

 その調子で細かい部分も丁寧に洗う。

――こんなに白かったんだな軽トラ……


 圧力に耐えるために変な筋肉を使ったのか、尚広は腕の妙なところが疲れた。


 次に雨や雪が降った時のためのホロの埃落とし。びしょびしょになっても困るので、これは濡れ雑巾で拭いた。


――あ、華恋ちゃんにメールしておかないと。

 朝弱いって言っていたけど、さすがにそろそろ起きてるよな。

 

尚広はスマホを取り出した。

『TO:角田華恋

 SUB:ゴメン(>へ<;)

 今日、車が使えなくなっちゃって、申し訳ないけど、軽トラで行ってもいいかな。

 こ洒落た所だと恥ずかしいかもだけど……』

 これでよし。

 尚広が作業に戻ろうとしたところ、早速華恋から返信が来た。

 『4/1

 FROM:角田華恋

 SUB:Re>ゴメン(>へ<;)

 マジでぇ( ̄▽ ̄;)

 (*≧m≦*)ププッ

 ウチも車ナイから軽トラでもオッケーだよぉ』


 尚広はホッと胸を撫で下ろした。


 作業に戻ろう。もちろん車内の清掃も必須だ。

 二人しか乗れない二人の世界……などと、妄想する間もなく、あまりの埃っぽさに、最初にやっておくんだった、と尚広は後悔した。

 汚い座布団は撤去。

 ホウキで払ったあと、丁寧に水拭き、乾拭き。

――母さんが微妙な柄の座布団を持ってきたけどどうしよう。

 尚広が悩んでいると、始がやってきて有名なキャラの柄のバスタオルを渡してきた。

「これ、やる。明日の鮭も俺多めな」

 尚広は歯がゆく思いながらも、背に腹は代えられず、とりあえず座布団を包んでみた。

 車はとりあえず、これでいいだろう……か?


 デートプランもいっそ変えてしまおうか。


 あれこれやっているうちに、気づくと時刻はすっかり十時を過ぎていた。

 急いで前日用意していた服に着替え、やや手間取りながら髪をヘアワックスで決める。

「よし!」

「気をつけろよ。女の子を乗せるんだからな」

「わかってるよ」


 バタン

 安っぽい音をたてて車のドアを閉じる。

――嫌われないだろうか。 シートベルトをしめて、尚広は華恋との待ち合わせ場所に向かう。

 バス停を兼ねた、G町の道の駅。

――髪型、変じゃないだろうか。

 軽トラの時点で十分変なのだから、仕方ないか。

 嫌がったらバスで行くのも一つの手だな。

 悶々と考えながら、彼はいくつかの坂を越え、充分余裕を持って道の駅にたどり着いた。


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