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兄弟(2)

 城を去るホスタの大きい背中を見送りながら、兄弟の和解は難しい、とデモフォルトは感じていた。

確かにミューが斬殺された事件は不可解だが、キリエは最愛の家族を二人失っており、さらに残った次男も人質にとられている。その悲しみがホスタに対する憎悪に変わってしまった。

一方でホスタは真実を見極めようとしてはいるが、キリエは取り合わない上に、仮に話し合ったところで真実はわかるまい。一人が感情的になっている時に、両者が把握していない出来事について冷静に話し合い議論し合うことは難しい。

 兄弟の仲が悪化すること自体はデモフォルトにとってはどうでもいいことではあるが、問題は今の南領の状態をどう治めるかである。水霊の力が必須なのだ。

「力ずくで奪ってくるか。」

 デモフォルトは水霊のウサンを呼び出した。ウサンは小柄な体の背中を丸めて上目づかいでデモフォルトを見ながら黄色い歯を見せてにたにたと笑っている。

「兄さん、今度はどんな用事で?」

ずる賢く物欲ばかり強い小者に兄さんと呼ばれるのは気にくわなかったが、機嫌を損なうと面倒なのでデモフォルトは用件を切り出した。

「ウサン、できるだけ多くの水霊を南領に連れてきてほしい。話し合いや金で肩がつくのなら結構だが、事態が事態だ。どんな手を使っても構わない。」

「多少手荒になってもいいんですかい?そりゃ楽しみだなあ…。」

「しかし、水霊にはこちらで働いてもらわねばならないから傷つけないように気を付けろ。

それからホスタ様に気取られないようにな。」

「隠れてこそこそ動くのは得意中の得意でして。それより報酬は?」

デモフォルトは黙って金貨の入った皮袋を放り投げた。ウサンが袋を受け取り、片目で袋の中を覗いて吟味している。

「これっぽっちで何人連れてこられるかなあ…。」

「つべこべ言わずに連れてこい!残りは成果次第だ。」

「しかし、兄さん、こっちも生活が苦しくて今日明日の銭が必要なんですよ。」

 デモフォルトの黒い瞳が俄かにギラギラとした光を帯びた。

「ウサン、私は知っているぞ。ミュウ王子の亡骸を発見したのはお前だった。その時、王子は何一つ身に付けていなかったという。誰かが身ぐるみを剥いで売り飛ばしたのだ。」

「へえ、それが何か?」

「お前は今日明日の銭は十分に持っているはずだ。それでも金が無いと言い張るなら、ミュウ王子の身の回りの品が今どこにあるのか調査して、その出所を王に報告する。」

 ウサンは目を細めながら、ずる賢い表情でデモフォルトを見上げた。

「成果が上がれば報酬も上がる、と。お約束は確かですね。」

「くどい!」

デモフォルトが剣を抜こうとするとウサンは丸い背中をさらに丸めて両手で顔を覆い、後ろに飛び退いた。小さいだけに敏捷だ。

「おお、こわ!兄さん、うまくいった時にはどんどん請求書を回しますから、よろしくたのみますよう。ひひひ。」

「お前の笑い声は聞きたくない。去ね!」

デモフォルトはウサンを睨み付け、手の甲で追い払うような仕草をした。

 ウサンが去ってから一抹の不安を感じたが仕方がない。南領で結界を超えられるのは、今やウサン唯一人なのだから。


 北の城では、ミヅキが泣きながらリョウの背中をトントンと軽くたたいて慰めている。

「リョウ、可哀相。叔母様がいなくなって私も悲しいよ。でも私も母様も本当にリョウのことが大好きだから元気を出して。」

 母様、母様、と、リョウは震えながら呟くばかりだ。ラネールが静かに話す。

「リョウ、これからは私たちと一緒に暮らすのよ。最近の不幸続きは本当のところ何が起こっているのかよくわからないの。貴方の身も危険だわ。何があっても私とミヅキはリョウの味方なのだからそれだけは信じてね。」

ミヅキが嬉しそうにはしゃいだ。

「一緒に住むの?じゃあ、これからリョウは私のお兄さんね。」

 リョウはきっと顔を上げて尋ねた。

「伯父さまは?ホスタ様も僕の味方でいてくれる?」

心配そうな顔をしているミヅキの隣でラネールは頷いた。

「もちろんです。王様も貴方の味方ですよ。いずれは父様の元に帰れるようにしてあげます。寂しいかもしれないけれど少しの間、辛抱してくださいね。」

 「そのとおりだ。私もリョウの幸せのために全力を尽くす。」

振り返ると笑顔でホスタが立っていた。

「あなた。キリエと直接、話しができたのですか?」

「いや。会うことは出来たが、取り付く島も無かった。」

 不安そうに見上げるリョウの肩にホスタは手をかけて言った。

「大丈夫だ。何か良からぬことが起きているがここは安全だ。仮にキリエが何か仕掛けてきても私はお前を守る。そして真相が明らかになったら警護を付けて南領へお前を帰すつもりだ。」

「その、真相っていうのがわからなかったら僕はどうなるの?」

「その時はここでしばらく暮らして…そうだな、お前が強くなって自分の力で結界を乗り越えられるようになったら独りで帰るがいい。リョウは自由なんだよ。」

「わかった。僕、それまで頑張るよ。」

リョウは涙を拭って立ち上がった。


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