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罠(2)

  豪雨の森を抜けた。画像が切り替わったかのように視界が開け、空に太陽がギラギラと輝いている。振り返るとすぐ近くに水の壁があった。

イカルガが陽の眩しさに目を細める。

「随分、局所的な雨だったなあ…。」

ユリウスとリョウは顔を見合わせる。違う。これは雨ではない。これは…。

 前方に幾つもの人影が立っていた。

「火霊の軍です。」

ユリウスが咄嗟に鞘に手をかける仕草をしたが剣は無い。街の者を装うために置いてきたのだ。

「どういうことです?」

イカルガは泣きだしそうな顔をして今にも座り込んでしまいそうだ。ユリウスが穏やかに答えた。

「背後にあるのは雨ではない。結界だ。我々は自ら結界を抜けて、今、南領に踏み込んでしまった。」

 火霊たちの影を背負いながら、小さい鼠のような男が一人、近付いてきた。

「水霊の皆さま、ようこそ、南領へ。長い道程、御苦労さまでした。」

男は黄色い歯を剥き出しにして、ひぃひぃと耳障りな声で高らかに笑った。

 「どうする?ユリウス。ここは勝負してみるか。」

「しかし多勢に無勢です。私とリョウ様なら勝算はあるやもしれませんが他の者を巻き添えにすることが心配です。二人だけなら逃げ帰ることもできますが、彼らを見捨てるわけにもいきません。」

「確かに、それは王様も望まないよ。」

少々準備不足だったかな、とリョウは反省しながらも、旅の目的は果たしたという満足した気持ちもどこかにあった。自信が彼の落ち着きを支えている。

その時、背後の結界から大地を震わすような低い音が幾重にも重なって聞こえてきた。轟々と津波のような音をたてて迫って来る。

リョウは水霊たちを招いて音の道から遠のくように脇にそれた。ウサンも不思議そうに首を傾げて結界の方を凝視している。

地響きが耳をつんざく程に大きくなり水霊たちは耳を塞ぎ火霊たちは警戒しながら剣を抜いた。次の瞬間、水の壁を打ち破って飛び出して来たのは、多くの騎馬兵だった。大量の水を帯びながら、まさに洪水のように押し寄せてくる。リョウたちの両脇すれすれに馬たちが駆けて前方へ進んで行く。

「ユリウス!リョウ!加勢に来たぞ!」

馬の蹄の音の向こうでホスタの声が響いた。

「どうしてホスタ様が?」

ウサンが震える両手で口の周りを何度も拭いながら後ずさりを始める。ユリウスとリョウが同時に宙に浮かんでウサンに向かって水を放った。

「私たちは北領の城の者だ。」


火霊軍と水霊軍が敵味方わからない程に入り乱れて剣を交わしている。火霊たちは術を使う戦士ではなく単なる兵士のようだった。

(雑魚だな。)

 リョウは空中から水弾を次から次へと撃ちだして火霊たちを倒していく。水霊たちは既に結界へと逃げ込んだのか一人もいない。ウサンの姿も見えなくなっていた。

「ユリウス、洪水を起こさないか。一人一人攻めるのは楽だけど手間がかかる。」

「それも、よろしゅうございますね。」

 私も手伝おう、とホスタが馬から降りたその時、ホスタの背後を小さい影が横切った。

「王様!危ない!」

 ホスタが振り向きざまに影に向かって水弾を浴びせる。

「あたしに水弾は効きませんよ。」

ウサンだった。ウサンがホスタの右側に回る。やばい、王様はパメラに刺されて以来、右腕が使えない。リョウは慌てたが剣は無いし火術も間に合いそうになかった。ウサンが剣を深々とホスタの右脇腹に突き刺した。倒れたホスタにウサンが馬乗りになる。ユリウスが駆けながらウサンに向かって指から火を放つと、その火が波のようにうねりながらウサンの頭上を襲い、ウサンの髪の毛が燃え上がった。悲鳴を上げながら走り回るウサンを更に炎が龍のように追って行く。

「王様!」

リョウが駆け寄って膝の上に抱き上げると、ホスタは苦しそうに胸を大きく上下させながらそれでも笑ってみせた。

「あいつは水霊だったのか。油断したな。」

「王様、大丈夫ですよね。傷は浅いのでしょう?」

ホスタはそれには返事をせずに、ミヅキを頼む、と一息で言ってリョウの手を握った。膝の上のホスタの重みが一段と増すのと同時に握っている手の力が緩む。ホスタの身体の温もりが少しずつ冷めていくのにリョウはなす術もなかった。


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