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女性と話すのが苦手な俺。ゲームの相棒は美人の同期だった件

作者: 小笠原ゆか
掲載日:2026/10/02

「そっち、二人いる」

『奥のやつ、あと一発』

「俺から見えなくなるぞ」


≪もち≫さんが角を曲がった。体力がごっそり減って、すぐに戻ってくる。


『ごめん、回復!』

「だから言っただろ」


回復を当てた途端、追ってきた敵に俺まで撃たれた。建物の陰へ逃げると、≪もち≫さんもついてきた。


『危なかったー』

「俺も危なかったんだけど」

『ごめんって』


横から味方が敵を倒してくれたので、そちらへ回復を向ける。≪もち≫さんはもう前へ出ようとしていた。


「ちょっと待って。こっち先」

『はいはい』


今度は待った。

味方と一緒に出ていった彼女を、俺も追いかける。今度は誰もやられず、そのまま押し切れた。

勝利の表示が出る。


『ほら、勝った』

「俺を盾にした甲斐があったな」

『そんなつもりじゃなかったって!』


笑いながら言うので、反省しているかは怪しい。


俺はぬるくなった麦茶を飲んだ。


『もう一回?』

「やる」


次の対戦を待ちながら、グラスを机に戻した。


≪もち≫さんと組むようになって、半年になる。


初めて会ったときも、俺は回復役だった。彼女が前に出て、危なくなったら俺のところへ戻ってくる。回復すると、また出ていく。


忙しかったが、やりやすかった。


勝ったあとにフレンド申請が来たので、そのまま承諾した。もう一戦くらいやりたいと思っていたし、次もこの人と組めるならありがたかった。


それから時間が合うと一緒に遊ぶようになり、俺から通話に誘った。


『聞こえる?』


女性の声がした。


「……聞こえる」

『女だと思ってなかった?』

「うん」


何となく、男だと思っていた。

女性と二人で何を話せばいいのか。考えている間に対戦が始まり、彼女が敵の位置を知らせてきたので、俺も返事をした。


あとはいつもどおりだった。前に出すぎるから呼び戻して、間に合わなくて、二人でやられた。


『私、知らない人とはボイチャしないんだよね』


終わったあと、≪もち≫さんが言った。


『女だって分かると、変に絡んでくる人いるから』

「そうなんだ」

『まだやる?』


俺は、やると答えた。


以来、二人で組むときは通話もつないでいる。

ゲームの話から動画の話になり、夜更かしした翌朝に寝坊しかけた話になる。俺が帰りの電車で寝過ごしたと言えば、彼女はどこまで行ったのか聞いてきた。


会社では、女性との会話なんて用件が済めば終わる。

この人とは、寝ると言ってから十五分くらい話してしまう。おかげでまた翌朝眠い。


『そういえば、あの人、新しい動画出したよ』

「新キャラの?」

『そう。あれ見たら使いたくなる』


彼女が使いたがるキャラクターは、だいたい敵に突っ込んでいく。


「先に練習してくれよ」


≪もち≫さんが言い返す前に、次の対戦が始まった。


動画は明日、昼休みに見よう。



*



「佐伯さん、今いいですか?」


翌朝、小野寺さんが書類を持って俺の席へ来た。

同期だが、部署は違う。俺のところへ来るのは、だいたい数字が合わないときだ。


今日もそうだった。


「ここの数字、先月のままみたいで」

「あ、すみません。直します」

「お願いします。今日中なら大丈夫です」


書類を受け取ると、小野寺さんは笑った。


綺麗な人だ。

後ろでまとめた髪も、白いブラウスもよく似合っている。こんな人に毎朝笑ってもらえたら、出勤も少しは楽しくなりそうだ。

数字を間違えれば来てもらえるが、それはまずい。


「佐伯、眠そうだな」


小野寺さんが戻っていくと、向かいの先輩が言った。


「ちょっと夜更かしして」

「ゲーム?」

「はい」


先輩も昨夜はドラマを見ていて、寝たのは二時だったらしい。


「人のこと言えないでしょう」

「だから分かるんだって」


先輩には、普通に返せる。


小野寺さんに同じことを言われたら、たぶん「すみません」で終わる。眠いことまで謝ってどうするんだとは思うが、ほかに出てこない。



*



昼休み、昨日教えてもらった動画を見ていた。

配信者が新しいキャラクターで敵の背後へ回り込み、あっという間に倒している。


これは確かに、≪もち≫さんが使いたがる。


「あー、新しいの出たんだ」


隣のテーブルに荷物を置いた小野寺さんが、俺のスマホを見ていた。

片方のイヤホンを外す。


「この人、見るんですか?」

「うん。私もそのゲームやってる」

「俺もです」


言ってから、スマホを見た。


「……見れば分かりますね」

「動画だけ見る人もいるじゃん」


彼女は向かいの椅子を指した。


「ここ、いい?」

「あ、はい」


動画を止め、イヤホンを外す。小野寺さんが座ると、いつもより小さいテーブルに思えた。


「新キャラ、使うんですか?」

「使ってみたい。昨日、一緒にやってる人にも練習しろって言われた」

「まあ、難しそうですよね」


俺も言った。

あの動画を見て使いたがる人は、みんな同じことを言われるのかもしれない。


「佐伯くんは何使うの?」

「サポートです。小野寺さんは?」

「タンク。最近、同じ人とよく組んでるんだ」


話が続いている。

何か聞かなくてはと焦らなくても、次に聞きたいことがあった。


「その人もサポートですか?」

「そう。佐伯くん、名前何でやってるの?」

「≪さば≫です」


小野寺さんが俺を見た。


「……魚の?」

「はい」


何かまずかっただろうか。名前をつけたときは、晩飯が鯖だった。それ以上の理由はない。

彼女はスマホを取り出し、少し操作してから俺に向けた。


画面に、≪もち≫とあった。


「え」

「私も、え、なんだけど」


もう一度、名前を見る。

昨日、俺を盾にして逃げた人だ。勝ったら「ほら」と言っていた。


「……≪もち≫さん?」

「うん。≪さば≫さん?」


頷くと、小野寺さんが笑った。いつもの笑い声だった。

どうして今まで気づかなかったのだろう。会社でも声は聞いていたのに。


「全然、分からなかった」

「私も。会社だと、あんまり話さないもんね」

「……いつも、すみません」


敵を追うなとか、戻れとか。俺を盾にするなとか。

全部、この人に言っていた。


「何が?」

「いや、色々言ってるんで」

「私も言ってるけど」


それはそうだ。俺が回復に間に合わなかったときなど、結構なことを言われている。


「次から敬語にならないでよ」

「気をつけます」

「もうなってる」


確かに。


昼休みの終わりを知らせるチャイムが鳴った。彼女が立ち上がる。

このまま仕事に戻って、夜になったら、どうすればいいのか。


いつもは俺からも誘っていた。今日だけ待っているのも変だ。


「……今日も九時?」

「うん。新キャラ試していい?」

「練習でな」


小野寺さんが笑った。


「分かってるって」


俺もスマホをしまい、席へ戻った。

午後はまず、先月のままにしていた数字を直さなくては。



*



その夜は、最初の十分くらい敬語になった。


『佐伯くん、今日静かだね』

「そうですか」

『そうですか、じゃないよ。昨日はあんなに文句言ってたのに』


覚えている。昼にも思い出した。


「いや、顔が分かると、ちょっと」

『私だって分かったけど、普通に話してるじゃん』


それはそうだが、同じようにはいかなかった。

ただ、遠慮していられたのも最初だけだった。


『ごめん、またやられた』

「さっきと同じところで?」

『今度はいけると思ったんだって』


俺まで巻き添えでやられた。


「一回目もそう言ってたぞ」

『覚えてなくていいから』


結局、その日も寝る時間まで遊んだ。



それからも、時間が合えば一緒にゲームをした。勝った日はもう一回やりたくなり、負けた日は勝ってからやめたくなる。どちらにしても夜更かしだった。


会社で会うと、少し妙な感じはした。

昨夜、俺に「そっちじゃないって!」と叫んでいた人が、会議室の場所を尋ねられて丁寧に案内している。

目が合えば挨拶をする。たまに「昨日、眠れた?」と聞かれる。


「寝たけど、夢でも負けた」

「それは重症だね」


そのくらいなら、返せるようになった。

正体が分かったときはどうなることかと思ったが、意外とどうにかなっている。


そう思い始めた頃だった。



*



『佐伯くん、金曜って残業?』

「たぶん、ない。何で?」

『ご飯食べに行かない?』


次の対戦を始めようとしていた手が止まった。

ご飯。会社の飲み会ではなく。


「……誰と?」

『私と』


それは、そうだろう。

聞く前に分かりそうなものだった。


『駅の近くにパスタの店あるじゃん。あそこ行ってみたいんだよね』

「ああ、あるね」

『どう?』


え。マジか。


さっきまで普通に話していたのに、返事をする声まで変になりそうだった。


「行く」

『じゃ、金曜ね』


小野寺さんは次の対戦を始めた。

俺はキャラクターを選び損ねそうになった。



*



金曜の朝、普段どおりの服で家を出た。会社へ行くのだから、それでいい。

それでいいはずなのに、駅の窓に映る自分を二度見た。


仕事が終わると、小野寺さんが俺の部署まで来た。


「佐伯くん、帰れる?」

「あ、はい」

「じゃあ、行こ」


周りの人に挨拶をして、彼女についていく。

駅へ向かう道は、いつもと同じだった。隣に小野寺さんがいるだけで、歩く速さが分からなくなる。


「今日、忙しかった?」

「まあ、普通」

「そっか。私も今日は定時で帰れてよかった」


会話が終わった。


まだ会社を出て二分くらいだ。

ゲームなら、敵が来る。味方が危なくなる。何か言うことがある。

ここには何も来ない。


信号は赤になった。


「その店、行ったことある?」

「ないよ」

「私も。いつも通り過ぎちゃうんだよね」


俺も、と言えばよかった。


頷くだけで済ませてから気づいた。



*



店に入り、向かい合って座った。

メニューがあって助かった。少なくとも、どこを見ればいいかは分かる。


「何にする?」

「カルボナーラにしようかな」

「私、こっちの辛いやつ」


注文を済ませると、メニューを持っていかれた。


困る。


「昨日さ、最後の対戦、惜しかったね」


小野寺さんが言った。


「あれ、俺が先に死んだから」

「私も戻ればよかった」

「戻れって言っただろ」


言ってから、彼女を見た。小野寺さんは笑っていた。


「聞こえてたよ」

「じゃあ戻れよ」

「あと一人だったんだって」


俺もそう思ったから、ついていってしまったのだ。


「二人いたけど」

「奥のやつ、見えてなかった」


それで俺たちは二人とも死んだ。昨日は悔しかったが、今話すと笑えた。


料理が来ても、話は続いていた。小野寺さんはパスタを食べかけて、フォークを止めた。


「……これ、結構辛い」

「辛いやつ頼んだじゃん」

「ここまでとは思わなかったの」


彼女が水を飲んでいる間に、俺もカルボナーラを食べた。


「とりあえず行ってみるの、ゲームだけじゃないんだな」

「佐伯くんは慎重すぎるんだよ」


それには反論できなかった。ここへ来るだけで、信号待ちの間に話すことまで考えていた。


店の話から、会社の近くで昼に何を食べるかという話になった。

小野寺さんは、時間がないといつも同じパンを買うらしい。俺も知っているパンだった。


「あれ、おいしいよね」

「うん。でも、三日続いたときはさすがに飽きた」

「別の買えばいいのに」


彼女の返事を聞きながら、俺はもう一口食べた。

何を話せばいいか、さっきまであんなに考えていたのに。


パスタを食べ終えても、まだ話の途中だった。


「デザート、どうする?」


小野寺さんに聞かれて、テーブルの端のメニューを取った。


「小野寺さんは?」

「ティラミス食べたい。でも、一人だけ頼むと待たせるかなって」


帰る理由は何もなかった。


「俺も頼む」

「じゃあ、決まり」


彼女が店員を呼んだので、慌ててメニューを見る。俺もティラミスにした。


運ばれてくるまで、会社の話をした。同期の誰がどの部署へ異動したとか、入社した頃の研修で何をやらされたとか。俺が忘れていたことを、小野寺さんは覚えていた。


「佐伯くん、あのとき発表係だったよね」

「誰もやりたがらなかったから」

「声、全然聞こえなかった」


それは覚えている。終わったあと、講師にも言われた。


「前の方にいたのに?」

「うん。何か言ってるな、とは思った」

「内容は?」


小野寺さんが笑い始めた。


「ごめん」


ティラミスが来たので、俺はそちらに逃げた。



*



店を出ると、来たときより少し寒くなっていた。

駅までの道でも、研修の話は続いた。信号が赤になっても困らなかった。


「今日、楽しかった」

「俺も」


今度は、ちゃんと言えた。

小野寺さんがスマホを取り出す。


「そうだ。LINE交換しない?」

「うん」

「ゲーム開かないと連絡できないの、不便だし」


画面を出してもらい、友達に追加した。

新しく増えた名前を見ていると、メッセージが届いた。


〈もちです〉


「知ってるよ」

「一応ね」


改札の前で別れた。

電車に乗ってから、もう一度LINEを開いた。


〈今日はありがとう〉


そこまで打って、止まる。


楽しかった、と入れていいだろうか。

さっき言った。彼女も言っていた。それでも、文字にすると妙に大げさに見える。


迷っている間に、向こうから届いた。


〈また行こうね〉


俺は打ちかけの文に、〈また行こう〉と足して送った。



*



家に着くと、小野寺さんからLINEが来ていた。


〈今日やる?〉

〈風呂入ってからなら〉

〈私も。あとでね〉


風呂を済ませ、パソコンの前に座った。


食事をして別れたばかりなのに、また一緒に遊ぶ。

通話がつながると、彼女が言った。


『まだお腹いっぱい』

「デザートまで食べたからな」

『佐伯くんも食べたじゃん』


店では普通に話せた。LINEも交換した。また行こう、と言われた。

それを順番に思い出しているうちに、対戦が始まった。


『佐伯くん?』

「え?」

『動いて』


慌てて操作した。



*



昼休みにも小野寺さんと話すようになった。夜にあれだけ話しているのに、まだ話すことがあった。

仕事帰りにご飯を食べることも増えた。俺から誘うこともあった。


飯を食って帰り、風呂に入って、また二人でゲームをする。


寝るのは少し遅くなったが、毎日楽しかった。



*



「お前、小野寺さんと付き合ってるの?」


昼飯から戻る途中、先輩に聞かれた。


「え?」

「最近、よく一緒にいるじゃん」


さっきも一緒だった。

小野寺さんが俺の皿を見て、そっちにすればよかったと言っていた。それで今度は同じものを頼む、と話していた。


あれを見て、付き合っていると思ったのか。


「いや、違いますよ」

「そうなの?」

「ゲーム友達なんで」


先輩は、へえ、と言った。

俺は聞かれてもいないのに続けた。


「たまに飯食いに行くくらいで」

「それで付き合ってるのかと思ったんだけど」


そういうものなのか。


でも、俺が?


小野寺さんの隣にいるのが、俺でいいのか。


「そんなんじゃないです」


先輩はそれ以上聞かなかった。

席に戻ってスマホを見ると、小野寺さんからLINEが来ていた。


〈さっきの動画、送って〉


動画のリンクを送ると、すぐにスタンプが返ってきた。

また夜に、この話をするのだろう。


楽しみだった。

それなのに、さっきは何をあんなに否定したのか。

付き合ってはいない。嘘は言っていない。


だが、ゲーム友達だからと説明しただけでは、何か足りない気がした。



その夜も、やっぱり小野寺さんとゲームをした。


昼に送った動画の話をして、二回負けて、三回目で勝った。


『もう一回?』

「やる」


返事をしてから、先輩に聞かれたことを思い出した。

こんなふうに毎晩、俺と遊んでいる。でも、それは俺と付き合いたいという意味ではない。


俺だって、そういうつもりでフレンドになったわけじゃなかった。


『佐伯くん、準備できた?』

「あ、ごめん」


今は違うのか、と考えかけて、ゲームに戻った。



*



次にご飯へ誘ったのは、小野寺さんだった。


〈金曜、何か食べて帰らない?〉


行く、と返すだけなのに、少し時間がかかった。


金曜は仕事を片づけながら、今日は何時に出られるだろうと考えていた。小野寺さんから〈こっちは終わりそう〉と来たので、俺も〈もう終わる〉と返した。


パソコンを閉じたところで、先輩が声をかけてきた。


「佐伯、今日飲みに行かない?」

「今日は用事があるんで」

「お前、ホントは飲みに行きたくないだけだろ」


先輩は先週、彼女と別れたばかりだった。今日は誰かと飲みたいのだろう。


「いや、そうじゃないです」

「いいじゃん。寂しい者同士つきあえよー」


いつもなら、俺まで勝手に入れないでくださいよ、と返せる。


今日は、誰と出かけるのか聞かれたくなかった。

先輩には、そんなのじゃないと言ったばかりだ。それなのに、俺は今日の約束を楽しみにしている。


「先に約束してて……」

「私と予定があるんです」


小野寺さんが来ていた。

先輩は彼女を見て、すぐに俺を見た。


「え? マジか。ごめんな、言い過ぎたわ」

「いや、大丈夫です」


俺は鞄を取った。


「佐伯くん、帰れる?」

「うん」

「じゃあ、お疲れさまでした」


小野寺さんと一緒に部署を出る前に、先輩へ振り返った。


「来週なら行けます」

「おう、またな」



*



「先輩と行きたかった?」


会社を出ると、小野寺さんが聞いた。


「いや、今日は小野寺さんと約束してたし」

「でも、何か困ってたじゃん」

「この前、付き合ってるのかって聞かれたから」


口に出してしまってから、彼女の方を見られなくなった。


「私と?」

「うん。違うって言ったけど」


そこでやめておけばよかった。


「ご飯行くくらいで、そう思われてもさ」


小野寺さんが何も言わなかったので、俺も黙った。


「……私だけ楽しみにしてたみたいじゃん」


今度は彼女を見た。


「いや、俺も楽しみにしてた」

「そうなの?」

「うん」


これは、ちゃんと答えなくてはいけなかった。


「今日、残業にならないように、昨日のうちに少し進めたし」


言うつもりのなかったことまで出た。

小野寺さんが笑った。


「じゃあ、そう言ってよ」


言ってよかったのか。

彼女の顔を見る限り、よかったらしい。


「また誘ってもいい?」

「いいよ。私も、誘っていいのかなって思うことあるし」

「何で?」


思わず聞き返した。

俺が断ることなんて、考えたこともなかった。


「付き合いで来てくれてるのかなって」


そんなわけがあるか、と思った。

だが、さっきの俺は、そういう言い方をした。


「行きたいから来てるよ」

「うん。分かった」


店の看板が見えてきた。

俺は入口の前で、もう一度彼女に話しかけた。


「次、休みの日でもいい?」


言ってから緊張した。

それでも、会社帰りにご飯を食べるだけで終わらせたくなかった。


「いいよ。いつ空いてる?」


俺は鞄からスマホを出した。




*




『もう一回?』


俺もやりたかったが、時計を見ると日付が変わっていた。


「いや、まずい。これ以上やってたら朝起きらんない」

『休みじゃん』

「明日十時だぞ」


小野寺さんが笑った。


『覚えてた?』

「忘れるわけないだろ」

『じゃあ、今日は終わろっか』


ゲームを閉じても、通話はつながっていた。


「小野寺さんも寝ろよ」

『佐伯くんが切ったらね』

「じゃ、おやすみ」


返事を聞いて、通話を切った。


スマホのアラームを確認する。九時半には駅へ着いていたかった。


明日、何を話そう。

さっきまで一時間以上、話していたのに。





END


初めて現実世界の恋愛ものを書いてみました。

最近のオンラインゲームには触れていない作者の妄想から生まれたお話です。

ゲームまわりの描写に「今はそうじゃないよ」というところがあったら、そっと教えていただけると助かります。

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