女性と話すのが苦手な俺。ゲームの相棒は美人の同期だった件
「そっち、二人いる」
『奥のやつ、あと一発』
「俺から見えなくなるぞ」
≪もち≫さんが角を曲がった。体力がごっそり減って、すぐに戻ってくる。
『ごめん、回復!』
「だから言っただろ」
回復を当てた途端、追ってきた敵に俺まで撃たれた。建物の陰へ逃げると、≪もち≫さんもついてきた。
『危なかったー』
「俺も危なかったんだけど」
『ごめんって』
横から味方が敵を倒してくれたので、そちらへ回復を向ける。≪もち≫さんはもう前へ出ようとしていた。
「ちょっと待って。こっち先」
『はいはい』
今度は待った。
味方と一緒に出ていった彼女を、俺も追いかける。今度は誰もやられず、そのまま押し切れた。
勝利の表示が出る。
『ほら、勝った』
「俺を盾にした甲斐があったな」
『そんなつもりじゃなかったって!』
笑いながら言うので、反省しているかは怪しい。
俺はぬるくなった麦茶を飲んだ。
『もう一回?』
「やる」
次の対戦を待ちながら、グラスを机に戻した。
≪もち≫さんと組むようになって、半年になる。
初めて会ったときも、俺は回復役だった。彼女が前に出て、危なくなったら俺のところへ戻ってくる。回復すると、また出ていく。
忙しかったが、やりやすかった。
勝ったあとにフレンド申請が来たので、そのまま承諾した。もう一戦くらいやりたいと思っていたし、次もこの人と組めるならありがたかった。
それから時間が合うと一緒に遊ぶようになり、俺から通話に誘った。
『聞こえる?』
女性の声がした。
「……聞こえる」
『女だと思ってなかった?』
「うん」
何となく、男だと思っていた。
女性と二人で何を話せばいいのか。考えている間に対戦が始まり、彼女が敵の位置を知らせてきたので、俺も返事をした。
あとはいつもどおりだった。前に出すぎるから呼び戻して、間に合わなくて、二人でやられた。
『私、知らない人とはボイチャしないんだよね』
終わったあと、≪もち≫さんが言った。
『女だって分かると、変に絡んでくる人いるから』
「そうなんだ」
『まだやる?』
俺は、やると答えた。
以来、二人で組むときは通話もつないでいる。
ゲームの話から動画の話になり、夜更かしした翌朝に寝坊しかけた話になる。俺が帰りの電車で寝過ごしたと言えば、彼女はどこまで行ったのか聞いてきた。
会社では、女性との会話なんて用件が済めば終わる。
この人とは、寝ると言ってから十五分くらい話してしまう。おかげでまた翌朝眠い。
『そういえば、あの人、新しい動画出したよ』
「新キャラの?」
『そう。あれ見たら使いたくなる』
彼女が使いたがるキャラクターは、だいたい敵に突っ込んでいく。
「先に練習してくれよ」
≪もち≫さんが言い返す前に、次の対戦が始まった。
動画は明日、昼休みに見よう。
*
「佐伯さん、今いいですか?」
翌朝、小野寺さんが書類を持って俺の席へ来た。
同期だが、部署は違う。俺のところへ来るのは、だいたい数字が合わないときだ。
今日もそうだった。
「ここの数字、先月のままみたいで」
「あ、すみません。直します」
「お願いします。今日中なら大丈夫です」
書類を受け取ると、小野寺さんは笑った。
綺麗な人だ。
後ろでまとめた髪も、白いブラウスもよく似合っている。こんな人に毎朝笑ってもらえたら、出勤も少しは楽しくなりそうだ。
数字を間違えれば来てもらえるが、それはまずい。
「佐伯、眠そうだな」
小野寺さんが戻っていくと、向かいの先輩が言った。
「ちょっと夜更かしして」
「ゲーム?」
「はい」
先輩も昨夜はドラマを見ていて、寝たのは二時だったらしい。
「人のこと言えないでしょう」
「だから分かるんだって」
先輩には、普通に返せる。
小野寺さんに同じことを言われたら、たぶん「すみません」で終わる。眠いことまで謝ってどうするんだとは思うが、ほかに出てこない。
*
昼休み、昨日教えてもらった動画を見ていた。
配信者が新しいキャラクターで敵の背後へ回り込み、あっという間に倒している。
これは確かに、≪もち≫さんが使いたがる。
「あー、新しいの出たんだ」
隣のテーブルに荷物を置いた小野寺さんが、俺のスマホを見ていた。
片方のイヤホンを外す。
「この人、見るんですか?」
「うん。私もそのゲームやってる」
「俺もです」
言ってから、スマホを見た。
「……見れば分かりますね」
「動画だけ見る人もいるじゃん」
彼女は向かいの椅子を指した。
「ここ、いい?」
「あ、はい」
動画を止め、イヤホンを外す。小野寺さんが座ると、いつもより小さいテーブルに思えた。
「新キャラ、使うんですか?」
「使ってみたい。昨日、一緒にやってる人にも練習しろって言われた」
「まあ、難しそうですよね」
俺も言った。
あの動画を見て使いたがる人は、みんな同じことを言われるのかもしれない。
「佐伯くんは何使うの?」
「サポートです。小野寺さんは?」
「タンク。最近、同じ人とよく組んでるんだ」
話が続いている。
何か聞かなくてはと焦らなくても、次に聞きたいことがあった。
「その人もサポートですか?」
「そう。佐伯くん、名前何でやってるの?」
「≪さば≫です」
小野寺さんが俺を見た。
「……魚の?」
「はい」
何かまずかっただろうか。名前をつけたときは、晩飯が鯖だった。それ以上の理由はない。
彼女はスマホを取り出し、少し操作してから俺に向けた。
画面に、≪もち≫とあった。
「え」
「私も、え、なんだけど」
もう一度、名前を見る。
昨日、俺を盾にして逃げた人だ。勝ったら「ほら」と言っていた。
「……≪もち≫さん?」
「うん。≪さば≫さん?」
頷くと、小野寺さんが笑った。いつもの笑い声だった。
どうして今まで気づかなかったのだろう。会社でも声は聞いていたのに。
「全然、分からなかった」
「私も。会社だと、あんまり話さないもんね」
「……いつも、すみません」
敵を追うなとか、戻れとか。俺を盾にするなとか。
全部、この人に言っていた。
「何が?」
「いや、色々言ってるんで」
「私も言ってるけど」
それはそうだ。俺が回復に間に合わなかったときなど、結構なことを言われている。
「次から敬語にならないでよ」
「気をつけます」
「もうなってる」
確かに。
昼休みの終わりを知らせるチャイムが鳴った。彼女が立ち上がる。
このまま仕事に戻って、夜になったら、どうすればいいのか。
いつもは俺からも誘っていた。今日だけ待っているのも変だ。
「……今日も九時?」
「うん。新キャラ試していい?」
「練習でな」
小野寺さんが笑った。
「分かってるって」
俺もスマホをしまい、席へ戻った。
午後はまず、先月のままにしていた数字を直さなくては。
*
その夜は、最初の十分くらい敬語になった。
『佐伯くん、今日静かだね』
「そうですか」
『そうですか、じゃないよ。昨日はあんなに文句言ってたのに』
覚えている。昼にも思い出した。
「いや、顔が分かると、ちょっと」
『私だって分かったけど、普通に話してるじゃん』
それはそうだが、同じようにはいかなかった。
ただ、遠慮していられたのも最初だけだった。
『ごめん、またやられた』
「さっきと同じところで?」
『今度はいけると思ったんだって』
俺まで巻き添えでやられた。
「一回目もそう言ってたぞ」
『覚えてなくていいから』
結局、その日も寝る時間まで遊んだ。
それからも、時間が合えば一緒にゲームをした。勝った日はもう一回やりたくなり、負けた日は勝ってからやめたくなる。どちらにしても夜更かしだった。
会社で会うと、少し妙な感じはした。
昨夜、俺に「そっちじゃないって!」と叫んでいた人が、会議室の場所を尋ねられて丁寧に案内している。
目が合えば挨拶をする。たまに「昨日、眠れた?」と聞かれる。
「寝たけど、夢でも負けた」
「それは重症だね」
そのくらいなら、返せるようになった。
正体が分かったときはどうなることかと思ったが、意外とどうにかなっている。
そう思い始めた頃だった。
*
『佐伯くん、金曜って残業?』
「たぶん、ない。何で?」
『ご飯食べに行かない?』
次の対戦を始めようとしていた手が止まった。
ご飯。会社の飲み会ではなく。
「……誰と?」
『私と』
それは、そうだろう。
聞く前に分かりそうなものだった。
『駅の近くにパスタの店あるじゃん。あそこ行ってみたいんだよね』
「ああ、あるね」
『どう?』
え。マジか。
さっきまで普通に話していたのに、返事をする声まで変になりそうだった。
「行く」
『じゃ、金曜ね』
小野寺さんは次の対戦を始めた。
俺はキャラクターを選び損ねそうになった。
*
金曜の朝、普段どおりの服で家を出た。会社へ行くのだから、それでいい。
それでいいはずなのに、駅の窓に映る自分を二度見た。
仕事が終わると、小野寺さんが俺の部署まで来た。
「佐伯くん、帰れる?」
「あ、はい」
「じゃあ、行こ」
周りの人に挨拶をして、彼女についていく。
駅へ向かう道は、いつもと同じだった。隣に小野寺さんがいるだけで、歩く速さが分からなくなる。
「今日、忙しかった?」
「まあ、普通」
「そっか。私も今日は定時で帰れてよかった」
会話が終わった。
まだ会社を出て二分くらいだ。
ゲームなら、敵が来る。味方が危なくなる。何か言うことがある。
ここには何も来ない。
信号は赤になった。
「その店、行ったことある?」
「ないよ」
「私も。いつも通り過ぎちゃうんだよね」
俺も、と言えばよかった。
頷くだけで済ませてから気づいた。
*
店に入り、向かい合って座った。
メニューがあって助かった。少なくとも、どこを見ればいいかは分かる。
「何にする?」
「カルボナーラにしようかな」
「私、こっちの辛いやつ」
注文を済ませると、メニューを持っていかれた。
困る。
「昨日さ、最後の対戦、惜しかったね」
小野寺さんが言った。
「あれ、俺が先に死んだから」
「私も戻ればよかった」
「戻れって言っただろ」
言ってから、彼女を見た。小野寺さんは笑っていた。
「聞こえてたよ」
「じゃあ戻れよ」
「あと一人だったんだって」
俺もそう思ったから、ついていってしまったのだ。
「二人いたけど」
「奥のやつ、見えてなかった」
それで俺たちは二人とも死んだ。昨日は悔しかったが、今話すと笑えた。
料理が来ても、話は続いていた。小野寺さんはパスタを食べかけて、フォークを止めた。
「……これ、結構辛い」
「辛いやつ頼んだじゃん」
「ここまでとは思わなかったの」
彼女が水を飲んでいる間に、俺もカルボナーラを食べた。
「とりあえず行ってみるの、ゲームだけじゃないんだな」
「佐伯くんは慎重すぎるんだよ」
それには反論できなかった。ここへ来るだけで、信号待ちの間に話すことまで考えていた。
店の話から、会社の近くで昼に何を食べるかという話になった。
小野寺さんは、時間がないといつも同じパンを買うらしい。俺も知っているパンだった。
「あれ、おいしいよね」
「うん。でも、三日続いたときはさすがに飽きた」
「別の買えばいいのに」
彼女の返事を聞きながら、俺はもう一口食べた。
何を話せばいいか、さっきまであんなに考えていたのに。
パスタを食べ終えても、まだ話の途中だった。
「デザート、どうする?」
小野寺さんに聞かれて、テーブルの端のメニューを取った。
「小野寺さんは?」
「ティラミス食べたい。でも、一人だけ頼むと待たせるかなって」
帰る理由は何もなかった。
「俺も頼む」
「じゃあ、決まり」
彼女が店員を呼んだので、慌ててメニューを見る。俺もティラミスにした。
運ばれてくるまで、会社の話をした。同期の誰がどの部署へ異動したとか、入社した頃の研修で何をやらされたとか。俺が忘れていたことを、小野寺さんは覚えていた。
「佐伯くん、あのとき発表係だったよね」
「誰もやりたがらなかったから」
「声、全然聞こえなかった」
それは覚えている。終わったあと、講師にも言われた。
「前の方にいたのに?」
「うん。何か言ってるな、とは思った」
「内容は?」
小野寺さんが笑い始めた。
「ごめん」
ティラミスが来たので、俺はそちらに逃げた。
*
店を出ると、来たときより少し寒くなっていた。
駅までの道でも、研修の話は続いた。信号が赤になっても困らなかった。
「今日、楽しかった」
「俺も」
今度は、ちゃんと言えた。
小野寺さんがスマホを取り出す。
「そうだ。LINE交換しない?」
「うん」
「ゲーム開かないと連絡できないの、不便だし」
画面を出してもらい、友達に追加した。
新しく増えた名前を見ていると、メッセージが届いた。
〈もちです〉
「知ってるよ」
「一応ね」
改札の前で別れた。
電車に乗ってから、もう一度LINEを開いた。
〈今日はありがとう〉
そこまで打って、止まる。
楽しかった、と入れていいだろうか。
さっき言った。彼女も言っていた。それでも、文字にすると妙に大げさに見える。
迷っている間に、向こうから届いた。
〈また行こうね〉
俺は打ちかけの文に、〈また行こう〉と足して送った。
*
家に着くと、小野寺さんからLINEが来ていた。
〈今日やる?〉
〈風呂入ってからなら〉
〈私も。あとでね〉
風呂を済ませ、パソコンの前に座った。
食事をして別れたばかりなのに、また一緒に遊ぶ。
通話がつながると、彼女が言った。
『まだお腹いっぱい』
「デザートまで食べたからな」
『佐伯くんも食べたじゃん』
店では普通に話せた。LINEも交換した。また行こう、と言われた。
それを順番に思い出しているうちに、対戦が始まった。
『佐伯くん?』
「え?」
『動いて』
慌てて操作した。
*
昼休みにも小野寺さんと話すようになった。夜にあれだけ話しているのに、まだ話すことがあった。
仕事帰りにご飯を食べることも増えた。俺から誘うこともあった。
飯を食って帰り、風呂に入って、また二人でゲームをする。
寝るのは少し遅くなったが、毎日楽しかった。
*
「お前、小野寺さんと付き合ってるの?」
昼飯から戻る途中、先輩に聞かれた。
「え?」
「最近、よく一緒にいるじゃん」
さっきも一緒だった。
小野寺さんが俺の皿を見て、そっちにすればよかったと言っていた。それで今度は同じものを頼む、と話していた。
あれを見て、付き合っていると思ったのか。
「いや、違いますよ」
「そうなの?」
「ゲーム友達なんで」
先輩は、へえ、と言った。
俺は聞かれてもいないのに続けた。
「たまに飯食いに行くくらいで」
「それで付き合ってるのかと思ったんだけど」
そういうものなのか。
でも、俺が?
小野寺さんの隣にいるのが、俺でいいのか。
「そんなんじゃないです」
先輩はそれ以上聞かなかった。
席に戻ってスマホを見ると、小野寺さんからLINEが来ていた。
〈さっきの動画、送って〉
動画のリンクを送ると、すぐにスタンプが返ってきた。
また夜に、この話をするのだろう。
楽しみだった。
それなのに、さっきは何をあんなに否定したのか。
付き合ってはいない。嘘は言っていない。
だが、ゲーム友達だからと説明しただけでは、何か足りない気がした。
その夜も、やっぱり小野寺さんとゲームをした。
昼に送った動画の話をして、二回負けて、三回目で勝った。
『もう一回?』
「やる」
返事をしてから、先輩に聞かれたことを思い出した。
こんなふうに毎晩、俺と遊んでいる。でも、それは俺と付き合いたいという意味ではない。
俺だって、そういうつもりでフレンドになったわけじゃなかった。
『佐伯くん、準備できた?』
「あ、ごめん」
今は違うのか、と考えかけて、ゲームに戻った。
*
次にご飯へ誘ったのは、小野寺さんだった。
〈金曜、何か食べて帰らない?〉
行く、と返すだけなのに、少し時間がかかった。
金曜は仕事を片づけながら、今日は何時に出られるだろうと考えていた。小野寺さんから〈こっちは終わりそう〉と来たので、俺も〈もう終わる〉と返した。
パソコンを閉じたところで、先輩が声をかけてきた。
「佐伯、今日飲みに行かない?」
「今日は用事があるんで」
「お前、ホントは飲みに行きたくないだけだろ」
先輩は先週、彼女と別れたばかりだった。今日は誰かと飲みたいのだろう。
「いや、そうじゃないです」
「いいじゃん。寂しい者同士つきあえよー」
いつもなら、俺まで勝手に入れないでくださいよ、と返せる。
今日は、誰と出かけるのか聞かれたくなかった。
先輩には、そんなのじゃないと言ったばかりだ。それなのに、俺は今日の約束を楽しみにしている。
「先に約束してて……」
「私と予定があるんです」
小野寺さんが来ていた。
先輩は彼女を見て、すぐに俺を見た。
「え? マジか。ごめんな、言い過ぎたわ」
「いや、大丈夫です」
俺は鞄を取った。
「佐伯くん、帰れる?」
「うん」
「じゃあ、お疲れさまでした」
小野寺さんと一緒に部署を出る前に、先輩へ振り返った。
「来週なら行けます」
「おう、またな」
*
「先輩と行きたかった?」
会社を出ると、小野寺さんが聞いた。
「いや、今日は小野寺さんと約束してたし」
「でも、何か困ってたじゃん」
「この前、付き合ってるのかって聞かれたから」
口に出してしまってから、彼女の方を見られなくなった。
「私と?」
「うん。違うって言ったけど」
そこでやめておけばよかった。
「ご飯行くくらいで、そう思われてもさ」
小野寺さんが何も言わなかったので、俺も黙った。
「……私だけ楽しみにしてたみたいじゃん」
今度は彼女を見た。
「いや、俺も楽しみにしてた」
「そうなの?」
「うん」
これは、ちゃんと答えなくてはいけなかった。
「今日、残業にならないように、昨日のうちに少し進めたし」
言うつもりのなかったことまで出た。
小野寺さんが笑った。
「じゃあ、そう言ってよ」
言ってよかったのか。
彼女の顔を見る限り、よかったらしい。
「また誘ってもいい?」
「いいよ。私も、誘っていいのかなって思うことあるし」
「何で?」
思わず聞き返した。
俺が断ることなんて、考えたこともなかった。
「付き合いで来てくれてるのかなって」
そんなわけがあるか、と思った。
だが、さっきの俺は、そういう言い方をした。
「行きたいから来てるよ」
「うん。分かった」
店の看板が見えてきた。
俺は入口の前で、もう一度彼女に話しかけた。
「次、休みの日でもいい?」
言ってから緊張した。
それでも、会社帰りにご飯を食べるだけで終わらせたくなかった。
「いいよ。いつ空いてる?」
俺は鞄からスマホを出した。
*
『もう一回?』
俺もやりたかったが、時計を見ると日付が変わっていた。
「いや、まずい。これ以上やってたら朝起きらんない」
『休みじゃん』
「明日十時だぞ」
小野寺さんが笑った。
『覚えてた?』
「忘れるわけないだろ」
『じゃあ、今日は終わろっか』
ゲームを閉じても、通話はつながっていた。
「小野寺さんも寝ろよ」
『佐伯くんが切ったらね』
「じゃ、おやすみ」
返事を聞いて、通話を切った。
スマホのアラームを確認する。九時半には駅へ着いていたかった。
明日、何を話そう。
さっきまで一時間以上、話していたのに。
END
初めて現実世界の恋愛ものを書いてみました。
最近のオンラインゲームには触れていない作者の妄想から生まれたお話です。
ゲームまわりの描写に「今はそうじゃないよ」というところがあったら、そっと教えていただけると助かります。




