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第八話 父

なんかこっちの方がわかりやすいかなと思い、タイトルを変更しました。

混乱させてしまい申し訳御座いませんが何卒よろしくお願いします

「じゃあねー」

「うん。また明日」


 カラオケの滞在時間は二時間程度、少しだけ枯れた声で別れを告げ合った僕達は、長い一日を終えて、ようやく帰路についた。

 人生初めての友人とのカラオケ。

 意外と悪くない時間だった。

 アイドルなんて仕事をしているだけあって、彼女はやはり歌が上手かった。聞いているだけで楽しかったし、そんな彼女に指導されながら歌う歌は……少し、きつかった。

 彼女、基本的にヘラヘラしている人種の癖に、歌唱に関しては滅茶苦茶スパルタだった。


 歌に関して、こんなに怒られたのは中学時代の合唱コンクール以来かもしれない。

 ただまあ、トータルで考えれば、十分楽しめた。


「……明日はどんなことが起きるかな」


 おかげで、少しだけ明日を楽しみにしている自分がいることに気が付いた。

 ……学校生活を楽しいと思う日が来るなんて、思ってもみなかった。


 学校とは勉強をする場所だと自分を厳しく律し、勉学に励んできた過去が間違っていた、とは到底思わないけれど、こういう側面もあるのだな、と感じることが出来た。


『君は、表現者になるべき人間だよ』


 ただ、楽しかった、と総評を下すだけではいけないことも存在した。

 響詩が語ったセリフが、脳裏にこびりついて離れない。


 表現者、か。

 ……小さい子供を見た大人は、その子供の些細な良いところを見つけて、褒めて、おだてて、将来の明るさを喜ぶ。

 僕も小さい頃、色んな人に、色んな場所で、色んな職業をおススメされた。


『凄いね、ハル君は!』


 今は亡き母からも、僕はよく褒められた。


 褒められた内容は、多岐に渡る。

 掃除を丁寧にしたから、だとか。

 家事を手伝ったから、だとか。

 ありがとうを伝えてあげたから、だとか。


『ハル君、今日もテスト百点だったんだ!』


 ……色んなことを褒められたけど、やっぱり一番褒められたことは、勉強が出来たことだった。

 五歳の時に入塾して以降、小テストの度に百点を取る僕を、母は熱心に褒めてくれた。


 後になって思うと、母が勉強に関して僕を熱心に褒めてくれた理由は、僕が勉強嫌いにならないようにするためだったのかもしれない。

 塾に通っている間、子供の内から勉強漬けの毎日に不満げな愚痴を漏らす同い年の子を見た回数は数知れない。


 ただ、勉強を疎ましく思っていた子とは違って、僕は勉強が嫌いではなかった。

 自分が知らないことを知ること。学びを深めて、出来ることを増やしていく時間は……子供ながらに、楽しかったのだ。


 そんな僕の性格も相まってか、毎日のように母に勉強に関して、僕は褒めてもらった。

 そして、同学年の中でも特筆した成績を残す僕を見て、母はある日、こう漏らした。


『こんなに勉強が出来るのなら、将来、お父さんのようにお医者様になったらどうかな?  お父さん、きっと喜ぶよ?』


 ……多分、親馬鹿だった母の何気ない提案が、僕の人生の最初のターニングポイントだった。

 医者になったら、という母の提案を受けて、すぐに僕は思った。


『えー、ヤダ』

『えー……どうして?』


 ……あの頃の僕は、父と同じ仕事を志す気なんて、更々なかった。

 五歳という、まだまだやりたいことがたくさんある年齢だったが故に、将来の夢を固定させたくないという考えもあったんだけど……ただ、一番は。


『お父さんなんて、嫌いだ』

『……』

『だってお父さん、全然家に帰ってこないんだもん』


 僕は、家庭を顧みず、仕事にかまける父のことが嫌いだったのだ。

 そして、そんな父が生業にしていた医者という仕事も、等しく嫌っていたのだ。


「……ハル。おかえり」


 家に帰ると、珍しく父が帰宅してきていた。


「ただいま、お父さん」

「うん。……声ガラガラだな。どうした?」

「友達とちょっとカラオケに……」


 僕は頭を掻いて、苦笑した。


「そうかそうか」


 父は嬉しそうに微笑んだ。


「入学二日目なのに、もう友達が出来たのか」

「……まあね」


 その友達は、自称タイムスリッパーだと伝えたら、父は一体、どんな反応を見せるだろう……?


「夕飯作ってあるけど、もう友達と食べてきたか?」

「ううん。一緒に食べよう」

「わかった」


 父はキッチンへと向かった。


「ハルは先に着替えてきたらどうだ?」

「あ、……じゃあ、そうする」


 父に促されて、僕は二階の自室に向かった。

 制服を脱いで、ハンガーにかけて、部屋着に着替えると、またリビングへ戻った。


 リビングに到着すると、父は既に夕食の盛り付けを終わらせていた。

 夕飯はカレーだった。


「いただきます」

「いただきます」

「……ごめんね。今度は、帰りが遅くなったら連絡するようにする」


 僕は言った。


「どっちでもいいぞ? そのくらいの年頃だと、親に干渉されるのも嫌なもんだろ」

「全然、そんなことないよ」

「そうか?」


 かつては抱いていた父への嫌悪は、既に払拭されていた。


「それより悪かったな。入学式に出れなくて」

「全然大丈夫だよ」

「答辞、ちゃんと読めたか?」


 勿論。と、答えかけて、そういえば答辞の直前に、邪魔が入ったことを思い出した。


「なんだ。失敗したのか?」

「うーん。……まあ? そうかも?」

「あれだけ一生懸命練習したのになあ。まあ、次頑張ればいいんだ」

「……うん」


 あれはどうしようもない気がするが、話すのも面倒だし、この場では僕の失敗ということで終わらせておこう。


「それで、どんな子と友達になったんだ?」


 父に尋ねられた。


「……うーん」

「どうした?」

「どんな子、と説明したらいいんだろう?」


 響詩という人間のことで僕が知っていることは……現役アイドル。歌が上手い。歌を教える際はスパルタで、カラオケで自分の所属グループの曲を熱唱してどや顔をかまして。……そして、自称タイムスリッパー。

 うん。上手く説明出来そうもない。


「……花蓮ちゃんの友達とか?」

「違う」

「……まあ、今度ウチに連れてきたらどうだ?」

「え」

「なんだ、嫌なのか?」

「……まあ、考えておくよ」


 父は不思議そうに首を傾げた。

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