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雑多な小噺

やさしさ

「はぁ、疲れた…」


 私は、ただの学校嫌いの女子高生。行きたくもない学校に通う日々に、ちょっとうんざりしている。

 嗚呼、帰って早くお昼寝したい…


「…ん?」


 なんか、少しだけ、いい匂い…

 でも、早く寝たい…

 けど…

 …


「…お、お邪魔しまーす…」

「ん、いらっしゃい」


 …ほんのりといい匂いのするカフェに、吸い込まれるように入店した。お手伝い、かな?中学生くらいのちっこい女の子が、カウンターからひょこっと顔を出して迎えてくれた。


「てきとうなとこ、すわって」

「あ、はい」


 取り敢えず、適当なとこに座らせてもらった。メニューが置かれていたので、見てみる。

 …

 選択肢は少なめだけど、どれも魅力的だ。取り敢えず、カフェオレと、シフォンケーキを注文しようかな。


 ………


 厨房の方から、色々な音が聞こえ出す。


「おねえさん、がっこう、かよってるの?」

「えっ?ああ、はい」


 …急に質問されたから、びっくりした…


「…と言っても、学校は嫌いなんですけどね。みんなガヤガヤしてて、うるさいし」

「なんで、きらいなもの、ずっとつづけてるの?」

「…」


 返答に詰まった。確かに、私はどうしてわざわざ行きたくもない学校に行き続けているんだろう。両親も「学校が嫌なら行かなくてもいい」と言っているのに。

 数秒考えた末、出た答えは。


「…なんか、行かないといけない気がして。何となくだけど」

「…そっか」

「そういえば、あなた以外の店員さんは?」

「いないよ。わたしがてんしゅ」

「えっ?…わっ!?」


 …飛んできた。名刺が。あ、本当に店主だ…ん?


「…何歳?」

「じゅうろく、はやうまれ」

「ひとつ下…」


 …の割には小さくない?下手すれば小学生に見られるよ?

(あ゛?)

 ひっ、明後日(宝石・鉱石売り)の方角から殺気が飛んできた…誰かの地雷踏んじゃったのかな。ごめんなさい


「はいどうぞ」

「えっあっ、ありがと。…いい匂い」


 一口飲んでみる。あちっ…あ、甘くて、優しくて…


「…美味しい」

「よかった」


 ずぞぞ…


「…店主さん。夢って、好きですか?」

「ゆめ?すきだけど…あなたも?」

「はい。…うるさい現実から、目を逸らせるから」

「…なるほど」


 シフォンケーキも美味しい。もぐもぐ…


「さっきのはなしの、つづきだけど」

「あ、はい」

「すきなひとが、たんさくしゃ、やってて。だけど、あるときから、あんちが、ふえてきて」

「…?」

「そのひとは、そのこめんとに、くそまじめに、むきあったんだ。みたくもないのに」

「…ぁ」


 先の話というのは、私の学校の話のようだ。


「…その人は、どうなったんですか」

「おいこまれて、おいこまれて…ぜんぶ、どうでもよくなって。そしたら、じぶんのことが、きらいになってきて。いっかいだけ、じぶんのいのちを、なげだそうともしてた」

「えっ…」

「いまは、かんぜんにかいふくしてるから、きにしないで。でも、これはあくまで、きょくたんなれいだけど、いやなこと、きらいなことを、つづけるって、こういうこと」

「……私のは、そこまでじゃないから」

「ゆめをみることで、げんじつからにげているのに?」

「………ッ」


 痛いところを突かれた。


「そうだ、さわがしいとき、ねむくなったりしない?」

「えっ?…まぁ、しますが…」

「たぶん、それ、はんぶんむいしきの、じえいはんのうだとおもう」

「…??」

「つまり、それだけ、げんかいがちかい、ってこと」

「え…」

「このままだと、たぶん、あなたはつぶれる。そうなるまえに、どうにかしないと」


 …どうやら身体は正直だったみたい。


「でも、もう学費とか、払っちゃってるし…」

「がくひをむだにしてでも、おやにこころからのえがおをみせるのと、がっこうにかよいつづけて、せいしんけずりながら、おやにむりしたえがおみせるの、どっちがいい?」

「………」


 ………


「…電話、此処でしてもいいですか?」

「わたしにきかれても、だいじょうぶなら」


プルルルル…


「…もしもし?お母さん?」

『あら、電話なんて珍しいわね。どうしたの?』

「実は…学校、辞めたくて」

『…そう、やっぱりそうだったのね』

「えっ?」

『ずっと気づいてたわよ。時々、辛そうにしてるの。でも、あなたは「何ともないよ、学校楽しいし」としか言わないから、どっちなのか分からなくて…ごめんなさい、声かけてあげられなくて』

「…私が話さなかったから、お母さんたちは悪くないよ。むしろ、こっちこそ話さなくてごめんね」


 …ようやく、ちょっとだけ楽になれた。

 その後は、いくつか他愛も無い話をして。


「…そろそろ切るね」

『あ、ちょっと待って。結夢(ゆめ)が学校辞めたいって言い出せた切っ掛けの人に、ちょっとお礼を言いたくて…』

「…あれ?言ったっけ?」

『意固地なあなたが考えを変えるなんて、誰かに唆されるくらいしか原因が思い付かないからねぇ』

「………電話代わるね」


 店主さんにケータイを渡す。


「もしもし。おたくのむすめさんをそそのかした、ちょうほんにんです」

『あら、聞こえてましたか?』

「みみのよさには、じしんがあるので。でも、ぬすみぎきしてしまって、ごめんなさい」

『いえ、いいんですよ。…娘を救ってくださり、ありがとうございます』


 それから、2人でそこそこ話して。

 ケータイが私に返ってきた。


「…そうだ、お母さん。流石に何もしないのはマズいから、バイトしたいんだけど…」

『そう言うと思って先回りしておいたわ。明日からそこのカフェでバイトよ!あらやだ、私そろそろ行かなきゃ。明日から頑張ってねぇ』


ブツッ。ツー、ツー、ツー…


「………」

「あしたから、よろしくね。ゆめ」

「……………よろしくお願いします。…あ、あと」

「?」

「…ありがと」

「どういたしまして」

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