79話 ディア様の策
「なるほど、話はわかった」
私はナディアさんから聞き及んだ情報を、すぐさま執務室にいるディア様へと報告した。
「で、それについてどう思うロンベルト」
ついでにこの話を共有して相談する為に、ケイトリンさんとシルベスタさん、それにロンベルト兄様もこの場に集まってもらった。
「その身体的特徴は、間違いなくそれは父上だろうな」
「ロンベルト、言葉」
「……父上です」
ロンベルト兄様の言葉遣いにケイトリンさんがすぐに睨みを利かすと、兄様は以前よりも素直に敬語になった。
「そうか。では何故アルメリアのお母様を連れ去ったんだと思う?」
「アルメリア様を利用してディアブルス様を従わせる為でしょう」
ロンベルト兄様は淡々とそう答えた。
やはりそうなんだわ。
「だろうな。シオン陛下が失脚したことを知れば、リインカーネル家が動かないわけがない」
ディア様の言う通り、あのお父様が目をつけたものはどんなものであろうと必ず手に入れにこようとする。
「ディア様。きっとお父様はダリアお母様をネタにして私を返せと要求してくるはず。返さないならば、自分に従えと命令してくるでしょう」
「うむ。ロンベルトの時と同じだな」
「どうしましょう……」
「案ずることはない。私はアルメリアを手放すつもりはないし、かといってリインカーネル家に従うつもりもない」
「しかしそれではきっとお母様が……。お母様に何をするかわかりません!」
「そうだな。話を聞く限り、アルメリアのお父上のソルベント卿は何をするかわからん」
「はい。なのでお母様を救い出したいのです!」
「だが現状では、ただ修道院から実家に連れ帰っただけだと言われ、なんの罪にも罰にも問えない。それを命令したとされるシオン・リードハルトも今や権力を持たないしな」
「で、ではお母様は見殺しにするのですか!?」
「安心しろアルメリア」
ディア様は落ち着きはらった様子で、私に微笑む。
「もう、すでに手は打ってある」
「え?」
「おそらくだが、ソルベント・リインカーネルがなんらかのアクションを取ってくることは、リードハルト王家の失脚と共に予想していた。だから、キミと修道院に赴いていたあの日、私はキミのお母上に密かに手渡しておいた物がある」
それは初めて聞いたわ。
ディア様は一体何を……?
「もしやディアブルス様、あれを?」
「ああ、そうだ。シルベスタ」
シルベスタさんは何かに勘付いているようだ。
「なるほど。それでしたらまず安心ですな。しかし、どうされるのですか?」
「ああ。アレには録音機能もある。証拠として保存したのち、私の魔力でマーキングされたアレに飛ぶ」
「ははあ。では少し泳がせていたのですか?」
「いや、この提案は私からではない。実は……」
「ちょちょ、ちょっと待ってくださいディア様、シルベスタさん! 話が見えないのですけれど!」
私は思わず彼らの会話に割り込んだしまった。
本当に話が見えてこないからだ。
「申し訳ございませんアルメリア様。私が割り込んでしまったからですな。ご安心ください。ディアブルス様は、それはもう完璧に対策されてありますから」
「それはどういう……?」
「すまなかったなアルメリア。だがこれは無駄にキミを不安にさせたくなくてあえて黙っていたのだ」
ディア様がそう言って、執務室の引き出しから何かを取り出した。
「実はキミのお母上に私の魔力で作り上げた、折り紙型の形代を手渡してあってな。この小さな紙片はキミのお母上に手渡した物の片割れなのだ」
「形代、ですか?」
「ああ。その形代には強い魔力を練り込んであってな。いざという時、形代から放出される魔力で敵を屠る力を持っている。私は念の為、これをキミのお母上に手渡しておいてある。もし、命の危険が迫ったらこれを使うようにと話しておいたのだ」
「で、でもお言葉ですが、それなら最初からお母様に危険が及ぶかもしれないとお話しして、ここに連れて来ればよかったのでは……」
「……私もそう思った。だが、お母上に拒否されてしまったのだ」
「確かにあの時、お母様は修道院に残ると言っておりましたけれど、こうなるかもしれないとディア様がわかっていたのなら、少し強引にでも連れてきてしまえば……」
「違うのだアルメリア。実は修道院で宿を取ったあの晩の日。私は深夜にもう一度キミのお母上と二人きりだ話をしたのだ。それこそ、キミの言う通りソルベント卿の危険さについて話し、お母上をどうしても連れて行きたいのだと」
「え? そ、そうだったのですか?」
「うむ。だが、それを頑なにダリアお母上は断ったのだ。そうしてキミのお母上から提案されたのが、今の現状なのだ」
「ど、どういうことなのですか?」
「キミのお母上は……ダリア殿は、ソルベント卿を社会的に陥れる為の策を、私に提案してきたのだ。私のこの力を見込み、そして自分という釣り餌を利用して」




