50話 リードハルトの終わり。そして〜
「あなた様が勝手に鉱石の物流を再び止めてしまわれたせいで、周辺国は激怒。そしてついにはディアブルス魔導卿からの加護、つまり魔導和平協定からも外される通達をされてしまった」
リードハルト王国、実質ナンバー2ともいえる内政の実権を持つダルトン宰相が冷酷に言い放った。
「それがなんだと言うのだ!?」
「ここ数年、ギレン陛下の敏腕なる政策のおかげでリードハルトは過去例にないほど豊かに経済成長を遂げておりました。これは周辺近隣国との関係性の良好さがそれを示しておりました。しかしそれがたったこの二ヶ月弱で急速に悪化してしまった」
私も話に聞いている。
その最たる原因はリードハルトが再び鉱石の輸出を止めてしまったからである。
「その上、魔導和平協定からも外されてしまっては、もはやリードハルトに生き残る術はないと言えます」
「ば、馬鹿なことを! この大国リードハルトがたかがそんな協定ひとつで……」
「あなた様は何も知らないのです。リードハルトが大国で強国だったのはほんの20年前くらいまで。ギレン陛下の先代、つまりあなた様のお祖父様の代くらいまででした」
リードハルトの希少資源によりこの国は魔導以外での武力に特化していた。それがリードハルトが強国である理由でもあった。
「しかしこの10年、他国での魔導技術の急激な進歩によりリードハルトは徐々に衰退しておりました。それをギレン陛下の英断、つまり長年行われていた鉱石の独占を解放したことにより大幅に解消されていたのです」
リードハルトが傲慢であった時代を終わらせたのは、国民のことを思う人格者ギレン陛下のおかげであった。
だがしかし、シオン現陛下がまた元に戻したせいでそれを全て台無しにしたのである。
「いいですか陛下。アドミラルの、ひいてはディアブルス魔導卿を代表とする魔導和平協定無くして、生き残る術はもはやございません。そのくらい魔導技術は今、我々の生活に必要不可欠なものとなっているのです」
そしてディアブルス様がアドミラルにおける国王に次ぐ権力者である証拠。
それこそがこの魔導和平協定にあった。
この協定の最高統括責任者がディアブルス・フィンガロン様であるからだ。
とはいえ、それは一切公にはされていない。
「そこに加えてギレン前陛下を暗殺するという悪虐な行為。もはやあなた様にリードハルトは任せておけません」
「わ、私が父を暗殺したという証拠があるのか!?」
「ええ、こちらのディアブルス魔導卿が全て暴いてくださいましたから」
ディアブルス様はおかしくなったリードハルトを探る為にこの一ヶ月近く、他国へと使者を送ったり、アグナス様に協力をしてもらったり、または自らの足を使って調査を進めていた。
そうして様々な情報と証拠を集め、シオン陛下の悪事を見つけ、それを宰相のダルトン様に伝えたのだ。
こうしてシオン陛下たちを除く水面下で、リードハルトの一部の宮廷貴族らとディアブルス様は、下剋上を起こす下準備を進めていたのである。
「リードハルト王国は今日、この日をもってアドミラルの属国に入ることを我ら宮廷貴族一同、そしてフレイヤ様の意向で決定とする!」
ダルトン宰相がそう高らかに宣言した。
「フ、フレイヤ母上が!?」
「シオン陛下。フレイヤ様はあなた様の愚行を嘆き、このような結末となってしまった責任を取って、この国の実権を全てこのダルトンに委ねてくださいました。あなた様の処遇についても私に一任されております」
「ば、馬鹿な……そんな馬鹿なことが……」
「他にもあなた様には多くのことを伝えねばなりますまい。が、それはまたおいおい、牢獄の中で説明致しましょう。このような場で続ける話ではありませんからな」
「ろう……ごく……」
ガクン、と膝から崩れ落ちたシオン陛下は絶望した表情でうなだれた。
「……ディアブルス魔導卿。これで魔導和平協定の件は元に戻してくださいますかな?」
「うむ、わかった。苦労をかけたなダルトン」
「こちらこそディアブルス魔導卿には大変助けられました。ありがとうございます」
ダルトン宰相並びに衛兵たちはディアブルス様に向かって敬礼をした。
「ね、ねえ! わたくしは関係がありませんわ! わたくしはこのシオン陛下に騙されて……。それにわたくしには聖女としてのお仕事もありますのよ!」
「あなた様も同罪ですロゼッタ様。聖女はすでにその代わりをアドミラル王国から派遣される予定でございます。あなた様もシオン陛下同様、しばらく牢獄に閉じ込めさせていただきます」
「い、嫌よ……そんなの嫌よォッ!」
「あッ!?」
発狂したロゼッタ様は突然走り出して披露宴の会場から飛び出して行ってしまった。
「追え! 逃すな!」
ダルトン宰相の指示で数名の衛兵が彼女を追いかけて行った。
「……シオン・リードハルト」
崩れ落ちるシオン陛下の前に歩み寄ったディアブルス様が彼を見下す。
「何故……こんなことになった……」
「何故か? 簡単なことだ。貴公は私を怒らせた。私の最愛の妻であるアルメリアに対して行なった非人道的行為。それが私の逆鱗に触れたからだ」
「アルメリア……何故、貴様はそれほどまでにあんな女に執着を……? あんななんの価値もないような女を……」
「あんな? 価値がない!? この愚か者めが。アルメリアがどれほど優れた人材であるか、どれほど素晴らしい人間性であるかも全く理解せず、馬鹿な選択をしたこと。一生、自身を呪い続けるがいい」
「く、くそ……私が間違っていたとでも言うのか……?」
「そうだ。だが、貴公をこの場で私が殺処分しないのはたったひとつだけ貴公に感謝しているからだ」
「感謝、だと……?」
「貴公の目が節穴であったおかげで、私は最高の女性、アルメリアと結ばれることができたのだからな」
「……く、嫌味な」
「嫌味ではなく本当に、ほんの僅かにそう思っているからこそ、貴公を生かしたままダルトン宰相に全てを委ねたのだ。本来なら貴公を生かしておく選択肢などないのだからな」
ディアブルス様はそれだけを言い残すと、私の肩を優しく抱いて私を連れ、披露宴会場を去って行ったのだった。
●○●○●
――こうしてシオン陛下の悪事や失態はディアブルス様の手によって公に暴かれ、リードハルト王国はリードハルト王家の手から離れ、実質上王国の崩壊となる。
その後、幾度かの協議の末、リードハルトはその王国名だけは残す形となった。
ギレン前陛下が築き上げた文化は大切にしたいという宮廷貴族らの願いでもあったそうだ。
またフレイヤ様は完全に隠居する予定だったが、シオン陛下やロゼッタ様があのようなこととなった為、次の王を決めるまでの短い間、リードハルト王国の代表として仮女王となることとなった。
とはいえフレイヤ様は実質お飾りのようなもので、実情のリードハルト王国を引っ張っているのはダルトン宰相やベレッタ尚書官等の宮廷貴族らである。
リードハルト王国はディアブルス・フィンガロン様の手によって本当に崩壊させられたが、それはある意味この国を生まれ変わらせる為の改革であるとも言えた。
そしてこの件以降、ディアブルス様に対する世論の評判は大きく変化を見せることとなる。
けれど、これらはまだ先の先のお話。
「さあ、帰ろうアルメリア」
「はい、ディアブルス様」
リードハルト王宮を出て、彼の手に導かれながら私は頷く。
リードハルト王国で私が過ごした苦い時間は、きっとこれからその何倍もの幸せとなって私に返ってきてくれるだろう。
何故なら、まだ私たちの優しい契約結婚は始まったばかりなのだから。




