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零所為Epsilon   作者: 市宮仙浦
1章 別れの先で見た光
6/7

Episode -06 出会い

最近書く文字数減ってますね

これから投稿頻度落ちます


今後ともよろしくお願いします。

やがて、取り残された四人はただ孤独に明日を待つことにした。

職員さんの、後続の人が何らか伝えに来てくれるはずと言う言葉に。


「…」


「全員で待つのもあれだな…」


何とも言えないどんよりの言語が漂う。

「じゃあ…寝ますか…。」


みんなどこか疲れたようで、やはり本心を隠しうるものじゃない。


麗庶は金住と二人で、取り敢えず仮止めの明日を迎えようと部屋に閉じこもった

「やっぱり少し寂しいですね…」


少女が心配するのは、金住の精神状態。

あんなに元気に振る舞っていたのに、いなくなってしまえばとても寂しそうで。


「がんばったの…でもやっぱりかなしい」


金住は、どうも悲しそうにつぶやく。

少女は、ただそれを撫でて

「うん…わかるよ…とっても頑張ったのですね。」


と、優しく声を掛ける。


眠りこけるかのように、二人は熱を帯びたままやがて心象附して、そのまま横になった。


しばらくは静かに時が流れたが、金住はどこか麗庶に触れながら

金住は、ふと言葉をこぼす。

「私のママ…病気だけど…元気かな」


「えっ」

麗庶は初めて聞いたその情報にびっくりする。

「…つらい話かもしれないけど…少し聞いていいですか?」


「…私のママ、びょうきなの…」

「だから、私を産んでからずうっと、あったこともないし、周りのおとなの人は合わせてくれなかった。」


「そう…」

麗庶は、その少女の不幸をどこか感じつつ、そこまでしてほしかったものをやすやすと捨てたような、そんな自分の行動を重ね合わせた。


ずきっと刺さるような、子供の切実な声だった。

『…私はなんてことを。』



「…きっとね、会ったことはないけど…ママは痛かったんだと思うの。痛かったってのはうーんと、うーん…とにかくそんなのだったと思うの」


少女はその声を聞いて涙をぼたぼたとこぼす。


雫がどうも透明には見えないほど、感情の色が映るようだった。


『…私がいとも容易くしてしまったことが…ああぁ…っ。』


「…うん」

麗庶ははやる感情をギリギリに抑え込んで、一言。


それを聞いた金住は

「…お話を聞いてくれて…ありがとう……お姉ちゃん。」


「…お姉ちゃんのお悩みを聞きたいな……私のお話聞いてくれたし。」


その言葉に悪意は一切なかった。

でも…


『でも…そんなお母さんを私が半ば捨てて行ったような話は…しちゃいけないですよね。』

『そんなこと…伝えたら…うっ』


言葉と涙が詰まる。

「ふーっ、ふーっ」


荒く、深く呼吸をする。

埃をぐっと吸い込むようだが、それでも。


「…お、お姉ちゃんだいじょうぶ?」


「…ありがとう…。」

「でも、私はだいじょうぶ。今こんなときに悲しい話をしすぎちゃうと…重なって、さらに悲しくなっちゃうの。」


「だから…今日は私のお話はおあずけ…でどうですかっ」

少女はなんとかして舌と言葉を繋いだ。



「たしかに!…じゃあ…。」

金住はそう言って…


少しばかり眠たそうに目を撫でる。


ぴとっ

「わっ…」

麗庶のぷにぷにほっぺに金住の可愛らしい手がタッチダウン。


そして、ぎゅーと片手で麗庶を自分に寄せて一言呟く。

「お姉ちゃん…だぁい好き…。おやすみなさい…」


そう呟いてすやぁと眠ってしまった。

麗庶は、どこかほっぺを赤らめつつもそのまま一緒に布団にこもってしまった。


「…」


無言の明日がやってきた。

後続の人はまだ来ない。


今日ばかりはおはようという言葉ですら億劫で、ただ布団で冷ました目を温める。


「…んっ…っまだっ…」


「さ…むっ…」

麗庶は何度も剥がれそうになる布団をぎゅっと握っては離す。


何かの繰り返しを象るように、ただ布団にすがる。


金住にとってのお姉ちゃんじゃない姿を、本当は見せたくないと強がりながらも。


ただ、耐えられずまた布団を手で引きずって無理やりに顔をうずめた。


zzz…

麗庶は、やっぱり眠気に耐えられず二度寝してしまった。



「ここは…」

ただ暗い世界。

「布団の…中ですかね?」

まるで突如としてよくわからない世界に疲れていかれたかのように。


「なんか…怖い…」


暗さの中には、どこか光があって、どこか闇がある。

日も通さぬ漆黒から見れば遥かに明るい。

でも日の側で生きる人類にとってはとうに真っ暗闇そのもの。


「あれ…でも立ってる?」


少女はちとちとと歩みを始める。


「うわっ…なんか歩きごこちがよくない…」

歩けば歩くほどぼたぼたと裸足の足に何かがひっつくよう。


「うわっ」

少女は足をぎゅっと寄せて手でその何かを落とそうとぱっぱと払う。


「あれ…取れない…」


少女はその不気味さとやむを得ず共に進むことにした。



しばらく進むと


微睡みに飲まれた、コントラストの擬人化のような人が立っていた。


まだ小さくて、見ても何ら力がない。

ひ弱なのは目を見れば明らか。


視界に寄せる目もない、まるで影のよう。


「なんですかね……とりあえず…っ」


少女はどこかあたふたとしながらも

「大丈夫ですかー」

と一声。



何も返ってこず、来るのは反響だけだった。

「うーん。」


「…じゃあちょっとだけ。」

彼女は影に思いっきり手を伸ばす。


「…まって…えっ」

なんと、急にレールの転轍に触れるが如く彼女の体は影に吸い寄せられる。


ずでんっ


「あっ!…まずぃ…っ」


少女はその小さな身体をずてんと思っきしに、床に満ちる貪とした黒に落としそのまま顔に黒い何かをつけたままに吸い込まれていった。


「た…たすけてっ!!!」

黒の先でそう叫ぶ。

一寸先にはもはや何にもない。


「はぁっ…!」

目が覚めると、そこは明るい地下の空だった。


「夢か……まってっ」


彼女はその何処か恐怖からかの不安をみるために布団を触る。


「お漏らしは…してないっ…。」

ふーっ、と一息吐いてまた布団をかぶろうとする。


しかし、おはようがどうも脳内に聞こえたらしく

「あぁ…おきなきゃっ…おきないと…。」


熱量を増すように、なんとか必死に布団をめくろうと、力をぐーっとためる。



「…っはぁっ!」


まるで泥水の沼から起きるように少女は布団をバッと飛ばして起き上がった。


金住はまだなんともないとすやすやと寝ていた。


「あっ…。申し訳ないですっ…」

そう言って少女は追い払った布団を再び彼女にふわぁと掛けた。


「そうだ…朝ごはん作らなきゃっ」


枕元においてある料理本と、いつものエプロンをぎゅっと握る。

そのまま、少女は寝ている女の子を目に止めずにリビングに向かおうとドアノブを開ける。


ガチャッ…


『体感だいぶ寝すぎたかも…っ…。』

そして、彼女は思いっきり廊下をドタドタと走る。

「…はぁっ…間に合いますかねっ…」


目もくれずただ…ひたむきに走っていくと…

ごつんと、何かとぶつかる音がした。


「いっ…すみません…」


「って…あなたは誰でしょうか…」

目を開くと、目にその大柄がめいいっぱい広がる。


「おや、ずいぶんと活発な娘だね。」

「それとも…無礼で迷惑な娘かなぁ?」

微かに振り向いて苛立ちを顔に向けさせる。


むちゃくちゃ厳つくて、結構ゴツいその顔は彼女を焦らすには十分だった。


「あぁぁ…す…すみませんっ」

少女は顔を青に染めて必死に頭を下げる。


「やっべ...そこまで激しく謝られると逆に困るな..。」


「すまない...。」


「えっ…」



「まあ職員だ。よろしく」


そう言って片手でサムズアップしたあと

職員と名乗る屈強な男は、そう言ってまた別のところへ行ってしまった。


「…ん…許された?」


『あれはいったい何だったんでしょう...夢ですかね...寝ぼけてる?』

少女は自分の肌をむにゅーっとつねる


「いっ...」

どうやら、夢ではないようだ。


「まあいっか...というよりかは早くお料理しなきゃっ!」

少女は再び走り出す。厨房はもう目の前。

「ふーっ」

『危ない危ない...なんだ、いつもと同じ時間でしたか..。』


そう思った少女は、いつものように

少女はそのまま厨房について食事を作る。


今日は、焼き鮭定食。

『ふーっ...これで最後ですかね。』

少女は一つ一つを丁寧に配置していく。


配置していくまでが料理だと、彼女の母親は言っていたから。


「にしても、この作業も随分と板についてきましたね..。というか、二人いなくなっちゃったから...かもしれないけども..」


少女は、食卓の思い出をぎゅっと握りしめるように回想する。

みんなはきっと勝手に起きると思って、ただ待つことにした。


『結構、こうやってご飯を作ることで見れた景色が...いっぱいありましたね。』

腰掛けながら、思い出に手を染める。


まだ数週間ほどなのに、もう走馬灯を凝視するように。

くだらないことから、楽しかったことまで。


「ふーっ」っとまた息をついて、今度は今を見る。

テーブルに残された定食は4人分。


きっと、これからも減っていく。

それは本来”いいこと”のはずなのに、どこか寂しい。


『ひとつ考えるなら...金住ちゃんを一人にはしたくない...』

そう思って、どこかそわそわしたように無人のリビングで独り考えるのだった。



「おはようっ!」

突如として威勢のいい声が、そのリビングにこだました。

小松だ。


ちょっとカッコつけたようなお兄ちゃんの後ろからひょろりとその妹が。

「あきちゃん...早起きして偉いね...それに比べて私のおにーちゃんは..。」


「...はぁっ?! ちゃんと今日は起きただろうが!!」


相変わらず元気な兄弟だ。

「あ、お姉ちゃん...おはよう..。」

眠気交じりの枕を抱きしめた少女が、その喧騒に覚まされて扉からひょこっと姿を見せる。



…そこから数分もしないうちに、リビングには人が増えてまた食卓とともに一日が始まる。

「いただきますっ」


「ああ…今日も食欲があまりわかないな…。」

「お兄ちゃん…流石にわかる…」


みんなどこか食欲もわかずに、どこか寂しそうに箸でご飯をつつく。

並んだ料理は4つほど。今日ばかりは麗庶も大食いをやめたといわんばかりの量しか持っていない。


『うーん...どこか味気ないですね..』

味の調合を間違えたわけでも、ただ何にも変えたりはしていない。


「そういえば…今日…新しい職員さんを…。」

「えっ…まじかよ。だいぶ遅れたな…」



「…だいぶ強くて怖そうでした…。」

「えっ…」

小松は、少しばかり震えた。


少年と少女が昨日よりすくない定食の上で言葉を交わすと、廊下あたりから人影が見える。


「…ああ。それが俺だが」

その人影が、話題の本人であることは廊下を見ずともそこにいる全員は理解した。


「あっ..。」

みんな、露骨なほどにビビり散らかしていた。

あからさまなほどにゴツくて怖い。


リビングの蛍光灯に照らされてその背中の雰囲気はなおさら屈強になる。


「...あ、こんにちは..。」



「あー、俺はまあ...職員と呼んでくれ。」

みんなはおろおろとして、それで若干びくっとしながら挨拶をする。

「よ...よろしくおねがいします..。」

『やっぱりこの人ちょっと怖いのですっ..。』


一方で、金住だけはどこか冷静そうに、いやなんも考えてないか、そんなよくわからない表情でなぜか普通な感じに挨拶をしている。

「よろしくおねがいします!」


職員は続ける。

「前のおねーちゃんからは引継ぎを受けている。大したもんでもないが、まあ...よろしくな。」


「そう、そこのおねーちゃん。」

指をさされたのは麗庶。


「は...はいっ..!どうしましたか..!」

『さっきの件...いわれるんじゃ..』

少女は、どこかじりじりと熱っぽく焦りを感じていた。

ただ手をぎゅっと足に向け、動き出さんと逃げ出さんとするような足をどうかとなだめる様に。


作った豚汁の湯気だけが、その沈黙で時を数えていた。

数刻の間の無言の後、少女は汗をぽたりとこぼす。


その時沈黙は破られた。

「随分とおいしそうな料理を作るじゃないか...ほぉ~」


『えっ』

「ごちそうさまでしたっ!」


並ぶお盆は5個になっていた。それは、少しばかりの安堵になったように思えた。

『おいしかったですっ...。』


少女は喜びながら、でも自分たちも移動する時間が近いのかなと悟りながら一日を歩み始めた。


ただ、次の別れは思いのほか近かった。


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