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零所為Epsilon   作者: 市宮仙浦
1章 別れの先で見た光
3/7

Episode -03 熱こもる少女

--ほんわか回です。(自称)


珍しく1万字を超えました。

Episode 3



「んっ…寒いですっ…。」

『あの時は..気が気じゃなかったから..かな…でもこんなに寒くありましたっけ….』


「あきさん…大丈夫?」

金住は不安そうに少女を見つめる。


「いやいや、全然大丈夫ですよ…誰だって寒い事はあると思いますし…。」


そんな会話を少しして…

「しつれいしまーす」


「ふーっ」

金住は、麗庶がほんのり息をするのを見て少しばかり考えて..。

ぴとっ


麗庶の少し汚れたワンピースを抱きしめた。



「わっ..!」


麗庶の濡れた心にほんのりと、融解熱を満たす程にはあったかいもう一人の少女の温かさがじわっと触れた。


まるで一刻を刻むかのような熱に麗庶はぷわーっと熱くなる。


「えへへ..。」


「寒いかなって、思って..。びっくりさせちゃったらごめん..。」


「...全然大丈夫ですっ!」

『..ちょっとびっくりしたぁ..。』


「...ちょっと疲れちゃいましたかね..。」

麗庶は言葉を歌うように、金住に伝える。


「おふとんさん...一緒に入らない?」

麗庶は続ける

「いいよっ!」

そしてほんのり抱き付いた二人は、そのままゴロンと布団へと落ちていく。

ほんのり空気が泡立つように、ポスっというような音が響いた。


「...あきさん..髪ながい~」

金住は麗庶の髪の毛を一本一本の束を撫でるように触る。


彼女の髪の毛は、戦いの影響で少しばかり汚れつつも手入れはされているような、ドールのような滑らかな触り心地を示す。


「えへへ、ずっと伸ばしてたのですよ..。」


「あっ..忘れてた..!」


「あのとき、ちょっと怖くて...名前とか最後までいえてなくて..」

そういって金住は手の焦点を麗庶の背中にずらしながら..。


「...わたし、かなずみ...まつさきっていうの!」


「かわいいなまえですね..。」


ひとりの少女は、その言葉にほんのりとほほ笑んだ。



金住はさらに布団にもぐりながら、その体温を移すようにぎゅーっと麗庶を抱きしめる。

『...とってもいい子ですね..。』


「んーっ」


「このままずっといたいなぁ..。」

金住はそういってさらに体温を移していく。


「..そうですね..。いっしょに。」




「すー、すー」

『...もうねちゃった。』


『まあ...私も少し疲れたからね...』


そのとき、誰かの声が響いた。

「だれか料理手伝ってぇ!」


『...私の出番ですかね...いきますかっ..!』

そろーっと少女は布団を取る。

…『おやすみなさい...ゆっくり寝てくださいね..。』

麗庶はほんのり声が漏れつつ、寝ている少女に布団をかぶせる。


そして、寝ている少女の額を優しくなでる。

お返しにと言わんばかりに。


「そ、そうだエプロンありましたね..」

少女は再びリュックに手をかけて、あれやこれやと物色する。


「これっ!」

その中から綺麗で可愛らしい子供向けのエプロンのたたまれたのが出てきた。

彼女は少しばかり埃を祓うように、ひとなでした上で素早く着る。


「大丈夫ですかね…これで。」


そして、麗庶は扉を軽く開けて廊下へと飛び出す。

少しばかり小走りの音が地下に響く。



「私が...やりますっ!」


焦点の先はさっきいたリビングで、キッチン。

「あら、麗庶ちゃん..。」



「えっ...大丈夫ですか..?!」

代秋だ。

「...じつは..お料理できなくて..。」

そういう彼女の片腕の近くには包丁が急に落としたように乱雑においてある。

「指..ちょっとだけ切っちゃって..。」


「...手伝って..というより...代わりに作ってだけど..。」


「...は、はい..わかりました。で..何を...」

少女は職員に微かに問う。



「ネギを乗せたうどん」

「みんなに...楽しんでほしくて..。」

少女は、そのまな板に乗ったねぎを少しばかりえいっとジャンプしてどんな状況か観察していく。


まだ全然切れてないような状態だった。


「...わかりましたっ!」

「冷蔵庫..みていいですか?」


「...お願い。私は..手当の道具とってくるから...」

職員さんはほんのり申し訳なさそうに言っていた。


がこっ!

『ちょっと激しく開けすぎました..ごめんなさいっ..。』


『さ~てと..』

彼女は冷蔵庫の無機的な白と暖色が見えないほどにぎゅうぎゅうに詰められた食材を探す



「これ..どんだけ買いだめしてるんですかね..。」

「うどんと..。ねぎとか..。」

彼女は指で一個一個数える。


「こんなにたくさん材料があると..いいものが作れそうですね..。」


「わっ、お肉もいっぱいっ!」


「これは...もったいないですね..。」



「そうだ!」

少女は今度はガサゴソと、棚を開ける。


「あった...今日はお鍋ですっ!」

少女は高らかに、そして自分に何を作るかを植え付けるように高らかと宣言した。

そしてじゃーっと、水道で手を洗い勢いそのままに具材をシュッと素早く取る。


「フーッ、さてここからが本番ですよ…。」

別の鍋をさっとコンロに持っていくと..。

「醤油とみりんさん..後、色々」

「…大体これくらいですねっ」

少女はほぼ目分量で比を測って丁寧に投入する。


『まるで黒糖を煮詰めたような色合い…いいですね』

「隠し味ないかなぁ〜」


少女は冷蔵庫を再び開けてみる。

「あっ、昆布だしありますねっ…市販っぽいですけど…聞いたことないメーカーですね。」

それをちっこい手で、時折体を揺らしながらもどんと置く。


ただ沸騰し切るのを待つには待ち遠しいと、次にセカセカとまな板に移る。


「今日はごちそうさんですからね…具たくさんがいいですね。」

そう言って、最初にネギを手につけた


『じゃあ..こうやって切りますかね』


そのか弱そうな小さな手でネギをしっかりと押さえる。

姿こそ小さくて弱そうだが、そのキレや手際の良さはどこか母親譲りを伺わせる。


ストンストンとキッチンに軽快な音が響く。

その音と共にネギの形はまるで竹取物語の竹のように斜めにシャープに切れる。

微かなズレもなく、ネギの奥の奥の奥まで美しく揃って。



「こんな感じのものですかね..!」

少女は斬り散らばったネギを見てすこしばかりの期待を染める。

次に白菜を一口ほどの大きさに切り刻む。


「うーん、一口…どうなんでしょうか..?」

「ちょっと気持ち小さいくらいがいいですねっ!」


少女は今度は迷いを若干心に囲いながらも丁寧に切っていく。


「..こ、こんなものでしょうかね..?」

もう上出来と言わんばかりのものに対して、若干考えながらもうまく斬り終えた。


「次はしらたき..ですかね?」

少女は手際よく今度も別の鍋を取り出す。


じゃーっ


「煮なきゃいけないですけど..いっぱい食べたいでしょうし…!」

少女はそう言って水をタプンとなるほどに、鍋を持ってまたコンロに運んでいく。


「これも沸騰するのにちょっと時間かかるかもしれないですね..。」


『あっ、沸騰してる!』

少女は、ちょっとばかり余裕ぶってもう一つの鍋に目を向けてなかったことを思い出した。

もう一つの鍋はぶくぶくと音がなってまるで放置されたことを怒るように威勢よく。


「やっば..。」

少女はその手でぎゅっと捻って、火を弱める。

そして、昆布だしをちょっとばかり加える。


「まずはアクとりですかね..。」

少女は丁寧に、だけどどこか軽くおたまを握る。


「えーいっ」

少女は、そうも元気そうな掛け声をそれっぽく言いながらわりかしちょこちょこと、浮かぶ白や灰色のそれらをすくっていく。


どんどんと色合いが元の艶やかで美しい黒に戻っていく。

「やっぱりいいですね..この割下の色合い」


さて、と言わんばかりに少女は割下を取り出して、ボウルに移した。

「…一口だけ。味見、味見っ。」

彼女はどこからか小さなスプーンを手にもち、こっそりと微かに、そーっとそれに黒を移す。


その黒は彼女の微かな腕の震えに敏感に反応して、ぷるんっと跳ねる。

それは生き生きするような勢いの良さ。

まだ熱々のそれは湯気をたぎらせて、まだ食べるなというよう。


まさに、彼女の作る珠玉の味と言わんばかりの芸術品の欠片のようにすら感じる。


「あくまでもとですからね..。ちゃんとフーフーしなきゃっ。」


「ふーっつ、ふーっつ」

彼女のいきが艶やかな銀と黒に染みる。

少しずつその湯気の防衛反応を蕩かすかのように。


「あつあつくらいがいいですから..これで一旦..。」


彼女はその銀色が艶やかな、スプーンの先端と空気の合間にに舌を挟み込む。

だが、それより先に割下に触れたのは彼女の八重歯。

口は思いっきりスプーンの首までを締めて、口の中に封じ込める。


彼女は、そのほかほかの液体に触れる。


「…あっっ…! まだ足りませんでしたね..。」

そして、口全体で、歯の全体で液体を転がす。

口の中にどんどんと味が染み、彼女の八重歯が

「んーっ。ちょっと濃いかも…でも、美味しいしこれくらいでいいかもっ!」




「どーでしょう、にんじんさん..。」

少女は次に食材のニンジンを取り出して、少し悩む


「ニンジンが嫌いなこがいたらあれですからね..。」

「花柄にしてみますか..。昔やった記憶があります..っ」


少女はピーラーを数回ほどニンジンに擦り合わせて、そーっと切り込みを包丁で入れ込む。


「こんな感じでしたっけ…こう?」

「あっ..この形はあんまり..。」


少女は試行錯誤を言語にするように一個一個を丁寧に掘る。

その試行錯誤がだんだんと形になるように、完成度が指数関数的に上がっていく。

「.. 結構いい感じになってきましたね。」

ちょっとばかり喜ぶ声を放つ。


「あっ、しらたきっ。」

少女はちょうど煮切れた水に少しずつ丁寧に白滝を足して行く。


そして、さっとさらうように取っていく。

「いい感じいい感じ…。」


「流石にすき焼きは楽じゃないですね…ちょっと反省です..。」

とほんのりつぶやいた直後に今度はしらたきと焼き豆腐を切っていく。


ストンストンとまな板が音を鳴らす。

少女はだんだんと集中に至るように、口数を減らしていく。


『やっぱりこういうのいいのです』


最後に椎茸にグッと切り込みを入れて…


「ふーっ、」

少女はほんのりにこやかに揃いに揃った具材を見る。その姿はよくできましたと言われた気持ちのよう


『…あっ…でも…。』

少女はそのちょっとした威勢を母を求める心に蒸発させてしまった。

「…そろそろ本番ですから…気は落としちゃダメ…。」


少女は俯き様を手で押すように、また食材に視界を戻す。


「よいしょっっと…。」


これまでよりも一際おっきな鍋をコンロにドンっと置く。


「ふーっ..」

「さっ..いきましょう..。」


カチッ..!


彼女は、ちょっとばかり勇ましいような子供の可愛らしいかっこよさぶりを示して、牛脂の袋を握る。


その熱が、どんどんと明確になっていく雰囲気に心を躍らせながら。

『今ですっ..』


その彼女が袋ごと持ちあげた白をいっこ、にこと巨大な黒鉄に放り込む。

その黒鉄の広大な鍋のそこにポツンとあるそれを箸を持って少女はグッと押し込むように走らせる。


まるで子供を遊ばせるように、でもしっかりと身につくように丁寧に、丁寧に押し切る。


その白はどんどんと溶けていき、無色透明ながらもどこか艶めくような油に変わっていく。


「やっぱりいいですね… この香り。 なんのお肉なのでしょうかね…。」

「さてっ..次はネギですかね」


少女はあまた広がるねぎを思いっきり投入する。

じゅ-っと音がなる。


「いいですね...この音が。」

「少しずつ...じゅわーっと。もう想像するだけでじゅるりって...」


少女は少しばかり灌漑にふける。

ふけっていれば、どんどんと飴色がねぎの白と緑をとっていく。

「あっ、ちゃんと動かさなきゃっ。」


少女は箸でくいっと、うまく火が通るように動かす。

そのたびにするーっと油に乗って動いていく。


それが彼女にとっては猫用のおもちゃのようでたまらなく楽しい。


「さて...そういえばご飯を炊いてませんでしたね..。」

「でも...ごはん炊いてる時間なんか..。」

彼女はあたりをうろうろと見ている。


「...うーん。あっ...うどん使えば!!」


少女は袋麺を取り出し、鍋と向き合う。

「...タイミングは考え物ですが..ちょっと焼きたいですね..。」


「ただ...お肉優先で..。」


彼女はパックされたお肉のパックを少しずつはがしていく。

手際もよく、どんどんとお肉の赤みから露がはがれるように色を取り戻していく。


そしてそれをそのままに黒鉄の黒光りに沈めていく。

じゅーっと、さっきのネギよりもはるかに鮮明な音を鳴らして赤みをより強調していく。


「おぉ...っ..。この音がいいのですっ!」

じゅーっ...


「もっと...もっとですっ..。」

もう一回、何度でもといわんばかりに肉を投入していく。

「ふふっ..私に任せたのがダメだったのですよ..。たくさん作っちゃいますからねーっ..。」


少女はさらに喜びつつもその強調された赤みがどんどんと茶色く、焦げっぽく鮮明に変わる瞬間まで、ひたむきに考える。


『次..どうしましょうかね..。』


そう思いつつもどんどんと色が香ばしく、おいしさを含んだものへと変える。

「えいっ...えいっ」


お肉を裏返したり、ちゃんと中まで火が通るようにていねいにていねいに菜箸を使って赤を茶色く染める


匂いがどんどんと部屋に染み渡る。


「あっ..そろそろ割り下少しだけ..。」

少女は割り下のボウルをちょろっと鍋にこぼす。

あたかも世界を作る一滴をたらすように、そのまだほかほかが冷めあらぬそれを丁寧に丁寧に垂らしていく。


浮き上がっていくのは、肉の少しばかしある...とっても濃厚な油分。

「こういうのなんですよ..っ。さいこうっ..。」


そして垂れていく液に少女はひた向きに目を押し付けるように、瞬きもしないようなほどにたらし終わる機をうかがう。


ネギの下の下のあたりが見事に浸る程度になったその時..。


「これで大丈夫ですっ..。」


少女はその世界を作るような黒い一滴を垂らすのをやめた。


さらに色合いも濃くなって、おいしそうな匂いが響く。


「んーっつ...たまらないですぅ...。」

「そうだ..うどん入れましょう..。」



そう言って彼女はうどんの袋をピーっと裂いて、うどんをどーんっと鍋にぶち込んだ。


「本来であればもうちょっとあとなんですがね..。ちょっと焦げ目が欲しいですから..。」


うどんは勢いよく割り下を跳ねさせるように、黒の上の明確な白になった。

ただ...熱を帯びるうどんは、ただ沈黙する。


ただひたむきに、焼ける機を選ぶように。



「ちょっと時間がかかりそうですよね...。」

そんな中にも湯気が、湿度がまるでおいしさの伝道師となるように部屋に満ちる。


少女はその匂いに心を通わせるように、ただひたむきにうどんに微かな焦げができるのを待つ..。



長いような時間に見えて、彼女にとっては夢のような時間。

『...私の料理を皆に食べてもらえるんです...あんまりないからとっても楽しみです..。』


少女は嬉々として、そのうどんとにらめっこ。


「さ...ってと、そろそろほかのを投入しましょう..っ!」

少女は今度は思っきに、丁寧に下処理された食材を次々と足していく。


「まずはしらたきさんっ..。」

「次にっ..。シイタケを...っ..。」

かざるためのシイタケなどは、ほんのり割り下に漬かるほどに丁寧に箸で飾っていく。


その後はほんのり焼かれたように...黒を帯びたような、硬くて漆喰色を輝かせる豆腐を、崩れないようにしっかりと置いていく。


「次は...白菜ですね..」

一口大の白菜をだんだんと、詰めていく。


最後に花柄ニンジンを、黒と白の彩としてきれいにおいていく。


そして、最後に少女は再びボウルに手をつかみ、くぐらせるようにとばーっと、具材を閉じていく。


「まだです..まだですっ...」

湯気が立ち込める中、彼女はその瞬間を何度とて探す。


「これで..っほぼ完成..。」

少女は最後ににこやかに、流れの周期を区切る。


それはかすかな瞬間に、黒い美味の黒点となってもう黒くなくなった彩の鍋に落ちていく。


最後にぽちゃんとなったような感じで、ついに”すき焼き”の具材は完成した。


「あとはもう少し煮るだけ..。」

少女はそれでも目を離さない。


その湯気が、ぶくっと音を鳴らすようになるまで...目を。

「そろそろ...そろそろ...ですかね..。」

ぶくっ..。


一音に少女はコンロに手をかける。

かちっ..。


「完成しましたっ!!」

彼女は声高に叫んで、みんなを呼ぶ。


「こんなに上手に作れたんですから...せっかくですし..みんなのために持っていきますか..。」

少女は鍋の取っ手に手をかけて、小さな体をおもっきしに動かす。


「えいしょっ..えいしょっ..。」

揺れないように、一歩一歩を踏みしめる。

一見か弱い身体だが、想像以上にしっかりと体感を定めるように一歩を進めていく


「あっ..テーブルが見えてきましたっ..。あと少しっ..。」

「うんっ...しょっ..!」


少女は何とかの勢いで、鍋をテーブルに乗せる。

「はぁ...はぁ...やっぱり疲れますね..。」


少女がそう言ってると..。

「わぁ..おいしそう..!」

「たくさん食べてやるぜ..。」


次々と子供たちがご飯をと目が覚めて行く。


「はいっ...できました!」

そのテーブルのど真ん中にそびえるのはおっきなお鍋とすき焼き。

少しばかりの湯気を部屋にこぼしながらも、つややかに食材が輝くような逸品。


ネギや豆腐はもはや芸術のように細かく切り刻まれているが、最早隙という言葉がないほどに美しく並べられている。

それに彩を足すかのように花柄のニンジンがところどころにアクセントとして組み込まれている。


そして、しっかりと焼きあがったお肉がすき焼きという言葉の意味を踵に返すような風味を醸し出す。


そして、これでもかとぎっしりと詰められた食材が、少女の内なる優しさを体現するかのようにある。

香りも美麗秀逸で、まさしく和といった雰囲気。


まさしく、料理人麗庶至高の料理といえるほど。


「ふーっ」

「ちょっと疲れたので...ちょっと座ります..。」


麗庶はエプロンを脱いで近くの椅子に座る。

『味はどうなんでしょうね...。ちょっと気になります..。』

そうやって少女は少し考えて..とにかくにっこり笑ってみる。


「せっかくだし全員分の茶碗持ってきたぜ..!」

「いやいや...当たり前なんだから..おにーちゃん..。」


「あきさん...おいしそうな料理...ありがとうございます。」

「本当に...見てるだけでおいしそう...。」

職員さんまでどんどんとそろってくる。


「わー..こんなにおいしそうなの..。」

「もしかして...あきさんが..?」


金住も..。

「そうですねっ!」


「...やっべ遅刻した...。」

成取も匂いに誘われたように...やってきた。

「まあ、ゆっくりたくさん食べましょ..」


椅子の音がいくらかなった後に、みんなが思い思いの量を積んでいく。

「俺はこれくらい食べるぜ!!」

小松は思いっきりと言わんばかりに盛り合わせる。


「お兄ちゃんっ...たくもーっ!!」

そんな会話を少しばかり流しながらも、匂いはどんどんと部屋に満ちていく。


「じゃあそろそろいただきますしましょう..!」

職員さんがそう言って全員が手をあわせる。


「「「「いただきます!!!」」」」


そういってみんなは思い思いの具材に箸を突っ込む。


「豆腐おいしい…!」

「このニンジン花柄でかわいらしいね…」


「久々においしいものを食べたよ…」



「それじゃ...私も..。」

「やっぱり...ネギからですね..っ。」


少女は箸をネギにたむけ、軽やかに持ち上げる。

ふーふーとも冷ます暇がもったいないといわんばかりに、口に少しずつ近づけていく。


彼女の八重歯がネギとかすかに触れる。

その直後に、口にねぎをおもっきしほおばり、噛んでいく。


「ん~~っ!!」


その尋常でない熱に思わず息を軽く吐く。

だけど、絶対に食べたいと頑なに口から放さないで咀嚼する。


「ほひひひぃ!!」

口の中にこれでもかとしみただしがねぎを優しく包み込み、少し硬そうなネギでさえ柔らかくもメリハリがあるような触感を醸し出す。


シャキッとする音が、さらに味の深みを説き伏せるように。


そして、その触感や味が口全体に飽和する。


「はふーっ...おいしーっ!!」

「たまらないですっ..。」


次に彼女は手が止まらないと、うどんをおもっきし啜る。


ずるーっ..。


だしが軽快に跳ねるように、それだけ勢いよく口に吸い込まれていく。


口に含まれたそれが、ほんのり焼けたような硬さと柔らかさのハーモニーを奏でる。


「...いいっ..。」

少女はさらに肉を口に詰め込む。


「はふーっ..。」

お肉の質感が、もうたまらない。

一個一個をかみしめると、だしの効いた肉汁がじわーっと口内で広がって、それが音波のようにどんどんと反響するような、そんなおいしさ。


「もういっこ…。」

少女は再びお肉を口に頬張る。

同じく肉汁がどんどんと染みて口の中を熱に埋める。

食べれば食べるほど、口の中に甘さと程よいしょっぱさが飽和してなお食欲を掻き立てる。



「もっといっぱい食べるのですっ..。」

麗庶は料理人としての側面以外のもう一つの側面

そう、食べ盛りの女の子。


それを彼女は嬉々として食べ尽くせることに喜びを微笑むように示し

そして、すき焼きをこれでもかとほおばって..。


どんどんと味をかみしめつつ、食べていく。

丁寧にかみしめつつも、大口で食べていく


『白菜のシャキシャキや豆腐の柔らかさ…しらたきの食感が口の中で混じり合ってまるでミルフィーユのようで美味しいです…。』


少女はそんな感じで大食いを始めると向かいの方から声が聞こえる。


「おい!俺は負けないぞっ!」

「お兄ちゃん、食べるのは勝負じゃないって!!」

小松お兄ちゃんだ。


そう言うと彼は鍋にお玉を突っ込んで自分の器にこれでもかと掻き込む。


「あんまりご飯で競うのは感心しませんが...たくさん食べてくれるなら楽しいですしっ!」

二人はそういって自分の器にたくさん具材を載せて、がつがつと食べ始めた。


ふたりとも、しっかりと味をかみしめながら。


うどんがずるっとすする音が交差したかといえば、白菜を咀嚼する音が聞こえる。

そのどれもが部屋を反響して、おいしそうな鍋をさらに強調する。


「やるなっ…」


「いえいえ…おいしいですし…たくさん食べたくなっちゃいます。」


時折箸を止めて話す。

そんな感じで楽しげな雰囲気がどんどんと飽和していく。


「おとうふうまい…。」

時折金住や職員さんが一言おいしいと言って喜ぶ。


『とってもうれしい…ですっ!』

そのたびにガツガツと食らう少女は心のなかで喜んだ。

…。


「うっ…俺は一味を入れるぞっ!」

少年はそうやってどこからともなく取り出した七味をすき焼きにふりかける。


ところがタガが外れたのか、どさーっと降り注ぐ。


「やっべ…かけすぎた…。」


「うわぁ…まっかっか!」


「小松君…ふふっ」


「はひーっ…かっら…」

小松はそんなすき焼きを辛そうに頬張る。

「…はぁ…はぁっ…かっら…」

「でも辛いのもいいな…!」

小松は辛さの中毒性の虜に一瞬になってしまって、さらに一味をとんでもない量搔き込みながら…。


少年のシャキッとズルっとした咀嚼音が響く。


「じゃあ私も少しだけ…」

と麗庶は少しばかりぱっぱと振りかける。


「あーむっ。」


「ふ…ひっ…からいっ…」

彼女はその口内で辛さを受け止める。

その辛さは彼女の口全体に遍くよう。


そこに豆腐が飛び込んでくる。

歯で少しばかり噛むと豆腐のほんのりとした甘さと柔らかさが体を中和するよう。


そしてその豆腐とともにやってきた味の染みた肉がまさに引き立て役になるよう。


辛さと肉の味が甘さとしょっぱさの世界を新たな次元へと昇華させていく。


「か…辛味と…ひぃ…味の相性が…とっても」

「おいしいっ!」


彼女の口内ではまさに新たな世界創造のような、未知の美味がビッグバンを起こしていた。


「でも…ちょっと辛い…。」

そう言いつつもこのハーモニーをとどめておくなんて勿体ないとペースアップするようにもっとと口の中に放り込んでいく。


そんな一幕もありつつ…

…..。


「おしかったぁ..。」

金住の声が響く頃には...


「くっ...食べ過ぎた..っ!」

小松は半ば隣の妹の座席に倒れかからんとするほどに食べすぎた様子。


「…だが最後まで、なんにもかもがおいしかったぞ!!」


「お兄ちゃん食べすぎなんだからっ..!」


「いえいえ..。いっぱい食べてもらえてうれしいのです..。」

おなかはもうパンパンと言わんばかりに腹部を撫でて麗庶は八重歯を見せるようにほほ笑んだ。


「本当にふたりとも~!」


「だが…今回はドローだぞっ…負けてないっ!」


「たしかに…でもあんまり早食いはよくないですけどね…。」

互いにもうお腹が一杯になるほどに食べすぎて、誰が勝ったかも分かってない様子だった。




「君たち...いいね..。」

成取がほんのり笑いながら、ごちそうさまと手を合わせる。


「じゃあ、みんなでごちそうさまをしましょうね。」


その声とともに職員さんは手を合わせる。そしてそれにこたえるように、みんなで一緒に手を合わせて一言。


「「「「ごちそうさまでした!」」」」


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