第43話 エンドロール
ピピピピピピピピ。
「こ、この音は……!」
俺はベッドから飛び起きた。
朝日が窓からこぼれる部屋で俺はきょろきょろと周囲を見回す。
「ペナルティアラームか……!? いや、これは……」
目の前にテキストウィンドウが開いた。
『プロジェクトセブンデイズをクリアしました。おめでとうございます』
「なんだよ、ゲームクリアのお知らせかよ……うおっ!?」
ぴかっと光ったかと思うと銀色の球体が突然現れた。
「ああ、お迎えってわけか」
俺がベッドから立ちあがった直後、銀色の球体が光り出す。
「最後はやっぱりここか……」
光りが収まったところで目を開き、俺は辺りを見渡す。
講堂だ。ステージを囲むように半円を描く階段席がそこにはあった。
周囲には椎名と天ケ瀬、それとタイジュの姿があった。
(どうやら同じタイミングでみんなも転送されたみたいだな……)
そう思いながら二階席を見ると、古今東西の衣装を着た男女がいた。このゲームのパトロン、つまり神々だ。
「あいつら神らしいけど、いい気なもんだよな。こっちは命がけでやってたのに高みの見物とか」
「そうだねぇ。お前たちはゲームの駒って言われてるようでムカつくよねー」
俺が二階席を見上げていると、椎名が隣に立ってきた。
その直後、壁のスピーカーからアナウンスが流れる。
『それでは皆さん、席に着いてください。エンドロールを始めます』
「エンドロールってもう終わりってことか……ん? おいおい、俺らしかいねぇぞ」
きょろきょろと見回し、タイジュが驚きの声を上げた。
天ケ瀬が階段席に手をかけ、ステージの方に視線を向ける。
「見て、誰か出て来たわ」
『現在は、神々もおられるので諸々の事情により、配信禁止となっています』
ステージに立っているのは藍色の軍服っぽいブレザーを着た少女だ。後ろのスクリーンに、その少女の空色の長髪と整った顔が映っている。
「レイラか……」
俺が呟くと、タイジュが一歩前へ出た。
「あいつはゲームの管理者だったよな? エンドロールの司会もやるってことか?」
「そういうことだろ。まぁとりあえず座ろうか。俺たち待ちっぽいし」
「おう、そうだな」
タイジュと俺が近くの席に着く。
俺の前を通って椎名が隣に座ってきた。
「エンドロールって退屈そうだね。文字がいっぱい流れるあれでしょ」
「まぁな。これって実況だと感想を話すところだけど、今は配信外だし、ゆっくりできていいな」
「うん。本当にもう終わりっぽいし……」
椅子の背に深く腰を預け、完全にリラックスしている俺に頷くと、椎名は寂しそうに呟いた。
確かにもう終わりだ。みんなともこれでお別れか……。
なんだかしんみりしてきたが、ステージではレイラがこちらを見て不敵に笑っていた。
『まずは、生存おめでとうございます』
レイラを映していたスクリーンが切り替わり、今回のゲームに携わった人の名前が流れていく。
『参加者百十七名中生き残ったのはたったの四名。この過酷なゾンビサバイバルから生還したあなた方四人の活躍を神々もお喜びです』
「椎名ちゃんよかったよ! 笑顔でプレイヤーを狩る姿に痺れたよ!」
「蒸気を噴く者戦の最後に見せたあの流れるようなナイフさばき! とても人間技じゃなかった! 天寿を全うしたらぜひ戦乙女に転生してもらいたい!」
「たしかに椎名の活躍は目を見張るものがあった。しかしゾンビが溢れた街中を走り抜けた天ケ瀬の運転技術こそ称賛すべきことだろう」
「一番成長した者といえば池崎瞬じゃないか? 平凡だった青年があれだけ強くなるなんて、バトルモノの王道展開だったぞ」
二階席から興奮した声が飛び交った。
『このように熱気が冷めやらぬご様子です』
レイラがそうまとめると、椎名が俺を見てニヤニヤした顔を向けてくる。
「よかったね、瞬くんも褒められているよ」
「お前なんてスカウトされてるぞ。来世も安泰だな」
「死んだあとのことなんて考えたくないけどねー」
ため息交じりにそう言うと、椎名はレイラを冷めた目で見た。
「でも戦乙女ってあの子みたいに神様たちのご機嫌取りしなきゃいけそうだし、あんまりやりたくないなー」
『この一週間で出会った仲間たちともこれでお別れです』
エンドロールが終わったところで、レイラがこっちに向けて手を振るった。
すると天井の照明が光り、俺たちを照らす。
『これより彼らは元の生活へと戻ります。皆さん、盛大な拍手でお見送りください』
「じゃあな、お前ら。短い間だったけどよ、なんだかんだ楽しかったぜ」
パチパチと拍手が響くと、タイジュが立ち上がった。
それにつられて俺も腰を上げた。
「タイジュ……俺も楽しかったぞ」
「みんながいなかったらアタシは死んでたかもしれないわ。本当にありがとうね」
天ケ瀬が歩み寄ってくる。
「お前がいなかったらもっと危ねぇ目にあってたと思うぜ」
「そうそう、天ケ瀬には感謝してるよ」
「うん……」
タイジュと俺の言葉に天ケ瀬が微笑んで頷くと、銀色の球体が光とともに姿を現し、俺たちの転送の準備を始める。
椎名が小さく手を振ってくる。
「瞬くん、じゃあね。バイバイ」
「おう。じゃあな」
俺が手を振り返し、椎名が微笑み返した瞬間、銀色の球体が光った。
こうして俺たちは転送され、元の世界に戻ったのだった。