第42話 勝利のメール
『蒸気を噴く者の討伐おめでとうございます。参加者には賞金千二百五十万を贈呈いたします。この賞金は、プロジェクトセブンデイズ生存報酬に加算されます』
運営からのメールを読み返し、俺は微笑む。
場所は閑静な住宅地の一軒家。そのリビングのカーペットに俺――瞬也たちは座っている。
今日はもう最終日でデイリー任務も達成していた。そういうわけで、軽トラでゾンビたちから逃げながら話し合ったところ、どこかの家に立て籠もってゆっくりしようと話がまとまり、ここにきたわけだ。
「やっぱりあれだな。討伐報酬は山分けだから、オッサンが死んで分け前が増えたな。ざまぁねぇぜ」
「佐竹さんには悪いけど、あの人がしたことを考えたら当然の報いよね」
タイジュが悪びれる様子もなく言うと、天ケ瀬も冷たい表情で口を開いた。
この二人がこんな感じなんだから、クソサイコ女に至っては、
「報酬おいしいー。ニ百五十万も余分に貰えるなんて、おじさんの生命保険の受取人になった気分」
と言ってへらへら笑っていた。
平気でプレイヤーを襲っていた椎名だから今さら佐竹が死のうが大したことないのだろう。
(あらためて考えると死んだのが佐竹だけって奇跡だろ。あんな化け物を相手にしたんだから)
俺はため息交じりに呟く。
「ふぅー、討伐賞金五千万なだけあって、蒸気を噴く者は強かったな……」
「マジそれな。俺なんてほぼサポートしてただけだからよぉ。ちゃんと戦ってたお前ら二人はすげぇよ」
「いや、タイジュも十分やってたって。椎名を復活させてくれなきゃヤバかったし」
「あのときはありがとね。ホント、助かったよ」
「へっ、よせよ。当然のことをしただけだろ」
俺と椎名に褒められて照れたのか、タイジュはそっぽを向いた。
(爆破作戦が失敗したときは焦ったが、皆が臨機応変に動いたことで勝利をつかめたんだよな)
そう思ったところで俺はウェーブがかかった長い金髪に視線を向ける。
「助かったといえば、天ケ瀬にも助けられたな。白いバンで蒸気を噴く者を跳ね飛ばすとか、すげぇ思い切ったよな」
「あははは……確かに思い切ってたわね。アタシがなんとかしなきゃ池崎くん死んじゃうって」
めちゃくちゃいい子だ。俺を命がけで助けてくれるなんて。
俺は感激しながら口を開く。
「一歩間違えば天ケ瀬の方が死んでたかもしれないのに……もう感謝しかねぇよ」
「どういたしまして。でもあれよ? アタシ、運転上手いから助手席を犠牲にするように跳ねればなんとかなるって思ったからやったわけだし」
「いや、それでもすげぇよ」
得意げに話す天ケ瀬を俺が褒めていると、隣から不満そうな声が上がった。
「むぅ、瞬くん私は? 間違いなく一番活躍してたと思うんだけど?」
「椎名もよくやってくれてたよな。正直お前がいなかったら勝てなかったし、あのときお前が庇ってくれなきゃ俺死んでたし……あれ? 天ケ瀬のときといい俺ってすげぇ死にかけてるな」
「どうだった? 死が眼前に迫った瞬間に生き残れた感覚は? すごいスリルあったでしょ」
ずいっと身体を寄せ、椎名が俺の耳元に怪しく囁いてきた。
「そんなスリルいらねぇよて……」
「アドレナリンがドバドバ出て気持ちよかったよね?」
「気持ちよくねぇよ、二度とごめんだ」
椎名め。俺を変態みたいに扱いやがって。
ニヤニヤと笑いながら言ってくる椎名をあしらったところで、俺はリビングを流し見た。
俺と椎名のやり取りを見て天ケ瀬が微笑み、タイジュは感慨深そうにカーテンの方を向いている。
すべてが終わった感じで少し寂しいが、俺にはまだひとつ言いたいことがあった。
「まぁ感想会はこれくらいにして……」
課金メニューを開き、購入履歴を睨みつける。
「ポットレモンが三百万とか足元みすぎだろ……! あとギャンブルアビリティのせいで余計金かかったし、蒸気を噴く者につかった焼夷手榴弾も合わせたたら一千万の出費だぞ、ふざけんな……!」
「そういうことなら俺も言いてぇことがある」
俺が愚痴を言うと、タイジュも仏頂面で話し始めた。
「回復キットの価格設定もぶっ飛んでるだろ。あれ一千万もするんだぜ? さすがに高いだろ」
「そうよね。私も池崎くんに使ったけど、討伐賞金のほとんどを持ってかれたわ……」
「私は瞬くんと戦ったときに二本使って今回は一本だから三千万円使ってるね。ひー大金だ」
そういえば、椎名と戦ったときに回復キット奢られたけど、あれ一千万もするのか……。
俺は苦笑しながら椎名を見つめる。
「大丈夫か? さすがに赤字じゃ……」
「大丈夫、プレイヤーをたくさん襲ってたからね。それで結構稼げてるし」
「なんというか、このゲームを一番楽しんでるのって椎名な気がするな……」
椎名の収入源がちょっと怖いが、俺はため息交じりにそう答えた。