第21話 ホームセンターを探索2
洗剤コーナーを見つけ、歩みを止めた。
リュックを下ろし、洗濯洗剤と柔軟剤を入れていく。
「そういえば、海月がアロマなんとかっていう柔軟剤がいいって言ってたな……アロマっぽいのなんてねぇぞ。フレッシュグリーンの香りでいいだろ」
『ゾンビゲーで柔軟剤とかw』
『こだわりが強くて草』
「わかる。ホント草だよな。こんな世界で柔軟剤とか贅沢だよな」
コメントに苦笑したときだった。
『こちら天ケ瀬、蒸気を噴く者がそっちに向かってるわ……!』
「え……!?」
インカムから聞こえてきた報告にぎょっとする。
「は、早く逃げないと……!」
リュックを背負い、俺はインカムのスイッチを押した。
「佐竹さん! 逃げましょう!」
『ああわかった、裏手で合流しよう。聞こえてるね? 天ケ瀬さん』
『了解、すぐに向かうわ』
通信を聞きつつ、俺は中央通路に出た。
右の通路に視線を向けると、奥の商品棚から佐竹さんと青井の姿が見えてくる。拠点強化用の資材なのか、小さな木材を持っていた。
俺は左を向き、退路を確認する。
死体が転がっているが、俺たちを妨げる者はいない。
「佐竹さん、先に退路確保してきます」
『ああ、任せた――』
佐竹さんの声がインカムに聞こえてきたその瞬間、正面駐車場の方から大きな音が響く。
ガシャアアアアアアアアアアアアアン!
(ガラスが割れる音だ!)
そう思った直後、俺と佐竹さんたちの間に大柄の化け物が割り込んできた。
「ミ、見ツケタ、生存者」
片言だが、腹の底から響くような不気味な声だった。
蒸気を噴く者だ。ごつごつした太い足を動かし、俺の方に近づいてくる。
「こいつ、喋れるのか……」
俺は声を震わせながら後ずさる。
怖い。ゾンビなんてかわいく思えるほど目の前の化け物から凄まじい圧を感じる。
「池崎……! このっ!」
青井が鎧のような身体に向かって射撃する。
ダンッ!
減音器がついていない銃声だ。これは蒸気を噴く者のために用意したL115A3スナイパーライフルで、使用する弾は.338ラプアマグナム弾。俺たちが用意できる一番強力な銃だった。
「――グッ」
背中に当たったのか、蒸気を噴く者が小さくよろけた。
効いてる。これなら――
蒸気を噴く者が振り向き、背中から白い蒸気を噴き出した。
ダンッ!
青井が二発目を放つが、蒸気を噴く者は一気に距離を詰め、拳を振りかぶる。
「マズ一人目」
「ガハッ」
紙くずのように青井が殴り飛ばされ、床を転がった。
「ひ、ひぃぃ……」
その隣にいた佐竹さんが木材を落とし、蒸気を噴く者を見上げてガタガタと顎を震わせている。
「青井ッ、佐竹さん……ッ!」
俺はサブマシンガンを構えた。
(このままじゃ全滅だ! でも青井のライフルでも倒せなかった奴をこんな豆鉄砲で――)
はっとして奴の背中を見る。肩甲骨のところから小さな蒸気が出ている。
あそこから身体の熱を逃がしているのか。それなら!
トクッ、トクッ、トクッ。
弾は鎧のような外殻に弾かれる。だが、やはりそこが弱点なのだろう。蒸気を噴く者が振り向いてくる。
「サ、サッキノヨリモ弱イ攻撃。ヒヒヒ」
「こいつ俺を笑ったのか……」
不気味に笑われ、俺はたじろいだ。
だがこれで注意を引けた。俺は走り出す。背後から大きな足音が走り寄ってきた。
(このままじゃすぐに追いつかれる! 直線で走っては駄目だ!)
通路を曲がった。さっき通った洗剤コーナーに入る。
そこで液体洗剤の詰め替えパックが目に留まった。
「あ! これを使えばいけるか!?」
俺は棚から詰め替えパックをばら撒き、サブマシンガンで撃ち抜いた。
液体洗剤が床にまき散らされる。
ゴツゴツした巨体が洗剤コーナーに入って来ると、俺は壁際まで走りながらレインコートの上に着けたベルトポーチから手榴弾を取り出した。
「逃ゲテモ無駄ダ」
ぞっとするほど低い声が近づいてくる。
ゴンッ!
倒れ込む音が聞こえた瞬間、俺が振り向くと蒸気を噴く者が蹲っていた。
洗剤でこけてくれたようだ。
「これでも食らえ……!」
手榴弾の安全ピンを外し、投げつける。小さくバウンドし、ごつごつした手に当たって止まった。
「ナンダ? コレハ?」
蒸気を噴く者が手榴弾を拾い上げ、立ち上がると、唇のない顔を近づける。
俺は棚に隠れるように伏せた。
ボォォォン!
爆音が響いた。棚から洗剤コーナーを覗くと、蒸気を噴く者が倒れていた。
「よっしゃ! ざまぁ見ろ!」
『池崎君! 今の爆発は!?』
インカムから佐竹さんの慌てた声が響いた。
「蒸気を噴く者を手榴弾で吹っ飛ばしてやりました!」
『よくやった! だが正面入り口からゾンビたちがかなり入ってきてる。君も早く撤収するんだ』
「はい!」
佐竹さんに頷くと、反響した叫び声が店内に響いた。
(やばい……! 早く逃げないと――こいつまだ生きてるのか……!?)
痙攣しながらぎこちなく起き上がろうとしている蒸気を噴く者を見て驚愕する。だがダメージが大きいのか床を這っていた。
これならたぶん奴は追ってこないだろう、と思いながら俺は裏手の出入り口に急いだ。
「ガアアアアアアアア!」
「もうここまで来たのか!」
右に視線を向けると、中央通路から十数人の男女が走ってきていた。
「池崎君、早く……!」
出入口でサブマシンガンを構えている佐竹さんが俺を援護し、追って来ているゾンビたちを足止めする。
俺が自動ドアを抜けると、佐竹さんも一緒に走り、すぐそこに止まっていた白いハイエースバンに急いで乗り込む。
「あれ?」
眉をひそめ、俺は車内を見渡す。後部座席にはタイジュが乗っているだけで青井の姿はない。
「おい、青井はどうしたんだよ」
「これで全員だ、早く車を出してくれ!」
「わ、わかったわ……!」
タイジュの問いに答えずに佐竹さんが急かすと、天ケ瀬がアクセルを踏み込んだ。
ハイエースバンが急発進し、駐車場から車道に出たとこで、俺は恐る恐る口を開いた。
「佐竹さん、やっぱり青井は……」
「死んだよ……奴に殴られて……」
薄々わかっていた。
青井の姿が見えなかったから。あんなのに殴られてタダで済むわけがないから。
「まさか青井が……」
窓の外でうごめくゾンビを見ながら俺は重々しく呟いた。
「面白かった!」
「続きが気になる!」
「今後どうなるの!」
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