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ほんと、自分の事が嫌になる

作者: ひいらぎ

 ほんとなんでこうなんだろう……。

「すみません。……はい。よろしくお願いします」

 ……。

「ありがとうございました」

 無理いってかけさせてもらった電話。

 はあ……。


「うん。だからごめん。電話でれないから。……うん」

 公衆電話かたかかってきたらそりゃあ困るよね。

 はあ。

 

 社会人六年目。

 初めての異動で、なにもかもが初めてで。

 わからん世界で。

 ほんと無理ってなっているところで。

「なんで、忘れるかな……」

 携帯電話を外部の会議で忘れるとか……。

 そういうところは確かにあって。

 自転車で職場に行ったくせに、歩いて帰るとか。

 お財布を職場の引き出しに忘れたり。

 携帯電話だって、引き出しに忘れたことあるけれど。

 それは今まで職場だったから、とりに帰ることもできたんだけれど。

「外部はほんとだめだわ」

 なんでこんなに自分はダメなんだろう……。

 上司には連絡して、朝一時間休みもらって取りに行きたいって伝えてるから、それ以上できることはないんだけれど。

 ほんとだめで。

「絶対馬鹿だと思われたぁ……。まあ。馬鹿なんだけれど」

 その日その日の仕事をどうにかするので精一杯で。

 入社から五年間同じ部署で仕事してきたから、まじで前の部署がいいってなってて。

 人間関係は問題ないんだけれど。

 正直、興味ないから無理ってなってて。

 てか。

 携帯電話がめざまし時計だから、めっちゃなるじゃん。

 私も起きれるか自信ないから、上体起こして寝るか……。

「はぁ……」

 嫌になる。

 夕ご飯を食べて、お風呂も入って。

 メンタルガッタガタの状態だから、ちょっとでも回復したい。

 最近小説投稿サイトで書き溜めていたものや、その時の気分で書いているものをあげている。

 ああ。だれか読んでくれたかなぁ。

 ……あ。

 感想きてる。

 やった。

 短編も連載もどっちもしているけれど、感想は全然なくて。

 だから、来ているのが嬉しくて。

 テンションあがったわ。

「ありがとうございます」

 ふふふ。

 嬉しい。

 名前もどこのだれかもわからない。インターネット上での関わり。

 一日に数えられないくらい投稿される作品のなかで、私の作品を読んでくださって。

 感想も書いてくださって。

「は?」

 テンションが戻ったところで。

「え?」

 部屋に。

 目の前に。

『はじめまして。僕は天使。あなたの彼氏です』

 とかなんとかほざく男がいた。


 その人は……人っていうか。

「は? まじで意味わからんが。ってかどうやって入った? え?」

 むりむりむり。

 え。

 まじでわからん。

 さすがにどんなに注意力のない私でも、さすがに人が入ってきたら気づくわ。

 ドアあくんだよ。

 ってか。窓開けてないし。ドア鍵かけてるし。

 どう考えでも人が入るとかありえないし。

 見た目もなんかおかしくない?

 私よりも背はだいぶ高い。

 ……170はありそう。

 ですらっとしてて。

 いわゆるイケメンなわけなんだけれど。

「天使なん?」

 羽はない。

 白い服をしているとかそういうこともない。

 足がないとかそういうこともない。

 どっからどう見てもただの人で。

 ……まあ。

 こんだけきれいな白髪の長髪はいないんだろうけれど。

 ……。

 …………。

 どうしよ。

 意味わからんけれど。

 めっちゃ好みなんだが?

『天使ですよ。そして彼氏です』

 にっこりと笑っている。

 ……。

 まじで二次元的好みなんだけれど。

 漫画とかアニメとか。そういうのだと色素薄めの長髪キャラ推しがちなんだよなあ。

 で。

 今目の前にいるようわからんものは、それに当てはまるわけで。

「えぇーと。なんで? え? 天使で彼氏?」 

『はい。天使で彼氏です』

 だからほんとわからん。

 けれど。それ以上の説明がないから、きっとそれ以下でもそれ以上でもないんだろうけれど。

「……天使だから音もなくここにいるってこと?」

『はい』

「天使ってなに?」

『神の使いです』

「……神様があなたに私のところにいって、彼氏になれっていったの?」

『ええ。神はあなたを見ています。あなたを愛しています』

 ……。

「えーと意味わからないですが……。あなたは」

『るりと申します』

「るり? 瑠璃? 宝石?」

『僕はなんとよんだらいいですか』

「えーと。じゃあ。ひーで」

『ひーさん』

「うん。るりさん」

 って。

「なにしてんの私」

 考えることを放棄したレベルで、名乗ってしまっているけれど。

『まあまあ落ち着いて』

「落ち着けなーい」


 それは嘘でも、夢でもなくて。

 るりさんはそこにいて。

「まじでおかしくなったのかな……」

 とうとうおかしくなったのかな。

『正常ですよ』

「んなこといわれても」

 見た目はまじで好みの推しの男がそこにいて。

 ただただいるんだけれど。

 それで天使で彼氏とか。

 無理なんだが。

「ねえ。ほんとに天使なの? 神様はどうしてあなたをわたしに?」

 朝お休み一時間もらってるからちょっとゆっくりしているのだけれど。

『ええ。あなたは前の部署でもがんばっていましたから。だからあなたに神は手を差し伸べたのです。それが僕です』

 ……。

 確かに前の部署で繁忙期、ちょっと病んでいたけれど。

 吐き気とかして苦しかったけれど。

「そうはいっても。どうして彼氏なの?」

 こういってはあれだけれど。

 無神論者というわけではないけれど、普段から積極的にしている信仰しているというわけではないけれど。

 それでも、お参りとか初詣とか神頼みとか。そういうのはある。

 その程度なのに。

 こんなにも、ご加護があるのだろうか。

『今のあなたにとって、心を穏やかにできる相手として彼氏がいいのではないかと』

 ……。 

 確かに穏やかにはなると思うよ。

 彼氏っていっても人じゃないから。

 他の人に見えるわけ……。

「え。まって。他の人にあなたはどう見えているの?」

『? 見えませんよ? 僕が見えるのはひーさんだけですよ』

 ひーさんって呼ばれた。

 ってかほんとなんでそんなこと言ったんだろう。

 一晩たって冷静になって考えるとまじで意味わからん。

 てんぱってなにしてんのってなってる。

「え? ならどうして過ごすの?」

 だれにも見えなくて。

 私だけだとしたら。

 彼氏って言われてもなにもなくない?

『僕はここでひーさんの帰りを待っていますよ。ひーさんの彼氏ですから』

 ……。

 やめよう。

 考えたところでもうわからん。

 さっさと携帯電話回収して、仕事いこ。

 で、はたらこ。

 しなきゃいけないことがある。

 とりまどうにかしないといけないものがいくつかあるから。

 で。

 帰ってきたら考えよう。

 この男の事を。


 ……。

「快適なんだが」

 天使で彼氏のるりさんは家からでることはないのか、部屋にいて。

 掃除とか片付けとかしてくれていて。

「部屋がきれい」

 すぐさぼって何もしない私だから、部屋がぐちゃぐちゃ。

 それが保たれてる。

「実態がないわけじゃないのはわかったけれど。食事はとらないよね」

『人のものを天使は口にできませんから』

 というのに、ご飯作って待ってくれている。

 私が食べているとき、必ず横にいて。

 ニコニコ見ている。

「今日もおいしい」

『よかったです』

 にっこり笑っている。

 ……るりさんは絶対笑っている。

 それ以外の感情を見たことがない。

 初めましてから二週間がたって。

 仕事も忙しくて、バタバタしてて。

 残業もしているなかで。

「帰ったら部屋はキレイで、ご飯もできてて。……神様は私を本当に甘やかしている?」

『だから神はあなたを愛していると言ったでしょう』

 ……。

 それがちょっといやだなって思ってしまう自分が嫌だ。

 この二週間。

 私の仕事の愚痴だったり、なにもしなくてだらける私に優しくて。

 どんどんるりさんに依存していってるのがわかる。

 自覚している。

 何をいっても、うなづいて聞いてくれて。

 何をいっても、否定はしなくて。

 優しく私の横にいてくれる。

 だから嫌になる。

 何が彼氏だ。

 天使なんでしょう?

 神様に言われたからなんでしょう?

 それって結局、疑似恋愛で。

 本物にはならなくて。

 それに私にしか見えなくて。

 デートとかないし。

『どうかしましたか?』

 まっすぐ私を見ている。

 その瞳に私が映っているのがわかるぐらい近い。

 ……。

 顔キレイだな。

 髪サラサラしてる。

 私にはないものがそこにはあって。

「ねえ。るりさん」

『なんですか?』

「いつまで彼氏でいてくれるの?」

『ひーさんが望む限り』

 ……。

 なんて耳障りがいいのだろうか。

 私から手放さない限り、るりさんはいてくれる。

 側に。

 ここに。

 彼氏として。

「るりさん」

『はい』

「ありがとう。もういいよ。ばいばい」

『ひーさん?』

「この二週間楽しかった。嬉しかった。いい時間を過ごせた。だからもういいよ。いい思い出で終わらせて」

 このままいけば。

 るりさんのいうように、私が望む限り彼氏でいてくれるのなら、きっとそれに終わりはない。

 でも。それだと、結婚もなく。ただこの部屋にいるだけ。私だけが知っている彼氏になる。

 ……それはダメだ。

 髪のご加護はありがたい。

 でも。

 それに頼ってはいけないし。

 甘えてはいけない。

「本当にありがとう」

『いいんですか?』

「うん。いいの。ありがと」

『では。……さようなら。ひーさん』


 ほんと、自分の事が嫌になる。

 前部署でメンタルやったのも、今思えば自己嫌悪だ。

 今のメンタルもそうだ。

 私は弱いから。

 すぐもたれかかる。

 このままいけば、ずっとるりさんに甘える。

 もたれて、しがみついて。

 きっと離れられなくなって。

「これ以上ダメになったらきっと私は私じゃなくなるから」

 自分ができる人間だと思ったことはない。

 今の部署で自分が一番できなくて。

 ダメなんだ。

 だからこそ。

 私を肯定してくれて。 

 受け止めてくれたるりさんに甘えてはいけない。

 天使で彼氏。

 だってそれは、神様に言われてなんだもんね。


「もうこれ以上好きになったら私は自分の事が嫌になるから」




 おつかれさん。

 お疲れ様です

 あの子どうだった?

 そうそうに僕から離れましたよ。

 みたいだな。つよいなあ。

 どうしてでしょうね。

 何が?

 僕に依存すれば、彼女はもっと楽だろうに。

 はあ。わかってないなあ。

 え?

 あの子はお前の事を本気で好きになったから、離れたんだよ。

 本気で好き?

 ああ。俺たちの上司の神様は加護を与えられたってだけだろうけど。

 ええ。僕たちは神の命のままに。

 だからこそ。あの子は自分のなかで、ダメだと思ったんだろうね。

 どういうことですか?

 好きだからこそ、自分が傷つく未来が見えたから、離れただな。

 ……。

 わからんて顔してるな。まあいいんじゃない?

 ……。

 俺たち天使は人間の事はわかんないから。

 ……。


『僕はひーさんのことを、神の命のままに。……だけだったんだろうか』

よくわからなくなってしまった気がします。

最後までお読みいただきありがとうございます。

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