第12話‐③ アイル視点
アンデッドはアイルによって身体が術式が描かれた円形の魔法の陣によって拘束され、身動きが取れずずっと呻き声を上げて抵抗していた。
「葵さん、葵さんのタイミングで殲滅して下さい」
「…………」
「葵さん?」
葵が怪我をしているところを見ると本調子ではないと思ったアイルは急かさないように優しく言った。
だが、隣にいる葵は何も言わない。
不思議に思ったアイルは隣にいる葵に視線を移した。
すると、葵はバツが悪そうに目線を逸らした。
そのあからさまな態度にアイルはむっとしながら葵に詰め寄る。
「葵さん?何か都合の悪いことでも?」
「い、いや……別に……」
あからさまな嘘である。
目が泳いでる上に口と行動が一致していない。
「葵さん。凄い分かりやすい嘘をついてますけど、わざとですか?」
「…………」
さすがの葵もそんなことは分かっているのか何も言わない。
だが、何かを言いかけたけれどすぐに口を閉ざしてしまった。
いつもは何を考えているのかすぐに分かるアイルでも、今回は何を考えているのか分からなかった。
「葵さん?大丈夫ですか?」
「っ……だ、大丈夫です」
「……大丈夫な様には見えないのですが……」
「じ、じゃあ見ないで下さい!」
そう言うと、ぷいっとそっぽを向いてしまった葵にアイルは目を見開いた。
こんなに可愛い仕草で感情を顕にする葵を初めて見たのか、アイルの口角が自然と上がる。
今とてつもなくからかいたいと思っているアイルがいた。
「どうしたんです?照れてるんですか?」
「なっ……照れるとか誰に照れるんですか!?」
「おや?わたしではないのですか?」
「なっ何故貴方なんかにっ………………って危ない!」
『ギャァァァオオオオオ!!!!!』
仲良くお話をしていた時、後ろから大きな声と気配を感じた。
葵の叫ぶ声が聞こえすぐさま魔法を発動しようとしたアイルは何故か葵に突き飛ばされそうになったのを拒否して葵を自分の元に引き寄せて抱きとめた。そしてそのまま炎の魔法を発動して動きを止め、間髪入れずに拘束の魔法を発動して再度拘束した。
「はぁっはぁはぁはぁ……ま、間に合った……」
「葵さん大丈夫ですか?怪我はありませんか?」
「……ない、です……そ、それよりあの……離して、貰えませんか?」
「え?嫌ですね」
「は……」
この状況に困惑している葵に嫌だと否定するアイルは、内心ではとても焦っていた。
自分がいながら葵に怪我などさせた時には恐らくアイルの何かがプツンと切れるだろう。
片腕で葵の身体をガッチリ抱きとめているアイルは、無事でよかったと腕に力を入れた。
そして、先程から自身のことを「貴方」と呼んでいる葵に言った。
「あの離して下さい」
「アイル」
「え……?」
「あの時、アイルと呼んでくださいと言いましたよね?呼んでくれないのですか?」
「嫌です」
「じゃないとこのままですよ」
「………………」
卑怯だとは分かっている。
あの時もそんな様なことを言って無理やりにでも自分の名前を呼ばせた気がする。本当は葵から呼んで欲しかったのだが、あの時はとてもイライラしており半ば強制的に言わせてしまったのだ。
後悔はしていないし、なんともいえない感情にとても優越感にしたっていたのは言うまでもないのだが、それでもその時の名前呼びはアイルにとって無効に近い。
やはり、彼女自身から呼ばれたいのだ。
するとその時、何かの気配を感じそちらに顔を向けた。
「葵さん、少し黙っていて下さい」
「……え?」
アイルの目線の先には熊の屍と思われるアンデッドが立っていた。
どうして一匹ならぬ二匹目までもが拘束具が解除されているのか、アイルは疑問に思っていた。
他のアンデッド達は今も尚拘束をされて身動きが取れず呻き声を上げている。
ただ、先程のアンデッドといいこのアンデッドだけが力が強い?いや、例え動物の個体に体力差はあれど、そう易々と拘束を自力でとくことは出来ないはずだ。
先程の襲ってきたアンデッドも拘束具を解いて襲ってきた……襲ってきた?
いや、拘束具を解くところなど見ていないし、拘束具をしていなかったから解かれたと思っただけだ。
ここにいるアンデッドは拘束具をしているはずであって、拘束具をしていないアンデッドがいたらそれは拘束具を解いたのだと思わないはずがない。
だから疑いもしなかったが……
この穴に落ちる前、この上で見た黒い球体はもちろんここには無い。
大きな穴の上に浮いている黒い球体からはアンデッドが生まれるわけで、自分もさっきここに来るのにそれを利用して下に来た。
となると……先程のアンデッドといい、今目の前にいるアンデッドといいその黒い球体から落ちてきたと考えれば全てが納得できる。
そして、落ちてきたのではあれば、拘束具も付いていないのは当たり前だ。
長くはいられないという警告でもあるのかもしれない。




