第12話‐① アイル視点
屋敷を後にしたアイルは森の中を猛スピードで走っていた。
葵の居場所を示すあの魔道具は手元にはない。
アイルにはそんなものは必要なかった。ナディル達に説明するために魔道具を発動させたのであって、アイルにとっては魔道具を使わなくとも葵の居場所など考えればすぐに分かる。
「はぁはぁはぁはぁ……」
こんなに無我夢中で走ったのはいつぶりだろうか。
生い茂る草木をかき分けながらアイルは洞窟を目指した。
ただ一心に葵の影を追って。
しばらくしてアイルの視界に湖が見えてきた。
その湖の横を通りすぐそこにある洞窟に向かう。
「ここですね……」
荒い呼吸を整えてからふぅと息を吐いた。
既に日が落ちて辺りが暗くなる中、アイルは火の玉を自身の周りに浮遊させる。
灯りは心許ないがあるだけマシだ。
アイルはゆっくりと洞窟の中に入った。
ジメッとするその温度感に顔をしかめながら歩みを進める。
暗闇からカサカサと音がしたり、何かの鳴き声が聞こえるが全て無視して通り過ぎる。
こんな、暗くてジメジメしていて、虫の音が聞こえる洞窟の中を葵さんが通って行ったのだと考えると葵さんはやはり勇敢な女性だなと少し表情が和らいでいく。
そして、道が左右に分かれている空間に出た。
右の道と左の道を交互に見る。
「…………」
既に葵が来ているのならどちらかの道を行ったはずだ。
葵さんならどちらを行くか……と少し考えて決めた。
「左に行きましょう」
アイルは迷うことなくそう呟くと左の道に歩みを進めた。
理由は簡単だ、感である。
足早に歩みを進めると、遠くの方に何かが浮かんでいるのが見えた。
さらにそれに近づいて行くと、どす黒い瘴気を発している黒い球体が宙に浮いていた。
その球体が浮かんでいる下は奈落の底のように暗くて何も見えない。
周りにアンデッドの姿がないことから、恐らくこの下、見えない奈落の底にいるのだろうと考えた。
地上に蔓延る訳ではなく地下に落下しているからまだいいのだが、どうやってこの下に行くのが正解かとアイルは首を傾げた。
一番手っ取り早いのはロープなどで降りることだが今ここにロープはない。
風の魔法で風に乗って降りることも出来ないこともないが、魔法は完璧ではない。
やったことの無いことをやるにはリスクがあるし、葵に会ってさえいないのに怪我をするのは避けたい。
……となると…
アイルは黒い球体に目を向ける。
黒い球体が現れる時アンデッドが姿を現す。
あの時、湖で見た黒い球体からアンデッドが湧き出ているのをこの目で見た。
この黒い球体も恐らくアンデッドを生み出しているのだろう。
ただ、宙に浮かんでいる球体から出るとなれば普通に考えて下に落ちる。
ならそれを利用して、危険ではあるがアンデッドの背に乗り下に降りればいいのではないか。
アンデッドを下敷きにすれば多少の衝撃は免れるだろうし、保険として風の魔法で身体を保護すれば行けなくは無い。
「悩んでいる時間はないようですね……」
現在進行形で球体からアンデッドが出てきたところだった。
それを見逃さないアイルはすかさずオオカミのアンデッドと思われる背中に飛び乗った。
『ウガァァァァアア』
呻き声をあげながら暴れるアンデッドの首を、風の魔法で締め上げながら振り落とされないように奈落の底へと落ちていった。
なんとも嫌な浮遊感を感じるがわがままは言っていられない。
最初は暗闇しかなかった奈落の底だが、段々と小さな灯りがあることに気が付いた。
自身に風を纏わせながら、表情一つ変えないアイルのその落ち着きようは誰もがきっとびっくりするだろう。
薄暗いのも慣れてきたのか、少しづつ周りの状況が分かってきた。
どうやらもうすぐ地面にたどり着くらしい。
すると、壁の所に一つだけ火の玉らしきものが浮かんでいるのが見えた。
そこに黒い影がポツンと一つだけある。
「……見つけた」
アイルはそう呟くと、いつでもオオカミのアンデッドから降りられるように体勢を整える。
「っ……あれは…」
慣れてきた目が捉えたのは、影がある遠くの方にアンデッドの大群が呻き声を上げて今にもその影に襲いかかろうとしているところだった。
それを確認した瞬間、地面が見えたと同時にオオカミアンデッドから地面に飛び降りた。
そして瞬間にオオカミのアンデッド含め複数のアンデッドに向けて炎の魔法を発動した。
「……ファイヤボール!!!」
手のひらをアンデッドに向けてそう叫ぶと、アンデッド数匹が炎を浴びて呻き声を上げた。
熱風がアイルの髪をなびかせながら、炎の旋風が巻き起こり、ボタボタと肉が落ちていく。
そして、間髪入れずにもう一つの魔法を放った。
アイルの放った風の魔法によって、アンデッド達の身体が風の渦によって拘束された。
術式が描かれた円形の魔法陣によって拘束されたアンデッドは身動きが取れないのか唸りながら横たわった。
こうすれば、少しの時間だがある程度は持つだろう。
アイルはそれを確認すると、壁の方にある人影に振り返った。
そちらに目を向けると、目を見開いてとても驚いている様子の彼女ががいた。




