第11話‐⑥
ーポァァァァァァァアアアアア
涙が落ちたその瞬間、葵の周りが光出した。
自分から青白い綺麗な光が解き放たれ、眩しさのあまり目を瞑る。
葵にはこの感覚と光景に見覚えがあった。
そう、クレイツと一緒にアンデッドを殲滅しようとした時に放ったあの魔法だ。
あの時も今の時のような感情が胸に広がっていた。
恐る恐る目を開けると、強い光は収まっており、光輝いているその結晶らしきものが洞窟の中に降り注いでいた。
宝石が空から降っているみたいにキラキラと輝いているその結晶は確かにあの時見たものと同じだった。
その証拠に今まで目の前にいた、熊のアンデッドや、拘束されていたアンデッド達、瘴気によってどんよりしていた洞窟内が命を吹き返したように明るくなっている。
その光景にぼーとしていると「葵さん」と下から声が聞こえた。
そちらに目を向けると、先程までは死人のような顔をしていたアイルはどこへやら、血色のいい顔をしたアイルがこちらを見つめていた。
「…葵さん、よく頑張りましたね」
「…………」
その言葉に葵の目にはまた涙が浮かんできた。
先程のもうすぐで息絶えそうなアイルの姿が目の裏に焼き付いて上手く言葉が出てこない。
目の前にいるアイルは生き返ったかのような清々しい表情をしているのにも関わらずそれでも不安は拭えない。
ただ、今一つだけ確かめたいことあった。
この際、魔法の発動の条件は一旦置いといて、確かめなければならないことがある。
「怪我は……大丈夫ですか?」
「……えぇ、今の光で傷口も塞がったと思いますが……どうですか?」
アイルはゆっくりと起き上がり、怪我をしていた背中を葵に見せてきた。
そして、それを見て葵は目を見開いていく。
ローブや服は無惨にも熊の爪痕があるのだが、そこから覗いている皮膚は綺麗な肌色をしていた。
血が流れていた傷が一切なく、さっきまで怪我をしていたのが嘘のように何も無くなっていたのだ。
「……治って、いる?」
「そうですよね?痛みも何も感じなくなってそうなのではないかと思っていたのですけど、どうやら葵さんが治してくれたようですね、ありがとうございます」
「……いえ」
向かい合わせに座り直したアイルが素直にお礼を言ってくるものだから少し照れてしまう。
そう言えば、クレイツおじさんがアンデッドによって付けられた怪我をした時も今の魔法で怪我は治っていた。
どうやら、アンデッドを殲滅出来る魔法には治癒の効果もあるようだ。
ただそれは自分自身には効かないが。
「葵さんの足はどうですか?」
覗き込むように聞いてきたアイルに葵はいつもの事のようにいった。
「勿論治っていません。先程も言いましたけど、あたしは自分で自分自身の怪我を治すことはできませんので」
「…………そうですね」
その言葉にアイルは表情を曇らせる。
いつもの事なのにアイルのそんな表情を見せられたらどうしていいか分からなくなる。
「……い、いつもの事なので気にしてないです……それより、どうやってここを出ましょうか」
アイルのその表情を見るのに耐えられなくなり、 話の話題を変えた。
それに、いつまで経ってもここにいる訳には行かないし、とりあえずここから出なくてはならないのは本当だ。
目を泳がせている葵にアイルは軽く微笑んだ後、その場を立ち上がった。
「そうですねぇ……とりあえず、魔法でどうにかしたいですけど……流石のわたしも魔力がそれほど残っていません。ここは団長殿らが来るのを待つしか無さそうですねぇ…………って危ない!」
「え……?」
アイルの話を聞いている間、なんだか視界が傾いていくなと思っていたら、立ち上がったと思ったアイルが手を伸ばしてきた。
葵は伸ばされた手に自分の手を伸ばし、間一髪のところで葵の腕を掴み引き寄せた。
「葵さん!大丈夫ですか!?」
「…………あれ?あたし……」
今度は逆にアイルが葵を寝かせる立場になり、アイルの膝に葵の頭が乗っている。
葵は急に働かなくなった頭に疑問を浮かべる。
(なんで……身体が言う事を聞かないんだろう)
動きたいのに動けない。
アイルが立ち上がった時、葵の身体は力が抜けたみたいに傾いた。
それをアイルは見逃さず受け止めはしたものの、急の出来事でアイルも戸惑っていた。
「どこか痛みますか!?足以外にどこか怪我を!?」
「…………」
頭が働かない葵はぼやけていく視界にアイルの顔を捉えていた。
それを見て、ふとあの時思った思いがまた浮かんできた。ただあの時と一つ違うのが、とても必死そうなアイルがこちらを心配そうな顔で見つめていることだった。
「葵さん!しっかりして下さい!」
「…………カッコイイ……」
「………………」
自然と出ていた言葉。
あの時と同じような状況で、同じような言葉を言ってのけた葵は、みるみるうちにぼやけていた視界が鮮明になって来るのがわかった。
そして、アイルの見開いていく眼を見てちゃんと目が覚めた。
「っ……す、すみません!今のは忘れて下さい……!」
「…………そういえば、あの時も同じような事を言っていましたね」
「っ……そ、それも!わ、忘れて下さい!」
「どうしてですか?その言葉から察するにわたしは葵さんの好みの中に入っているのでは?」
「っ……忘れてください!」
葵は勢いよく起き上がり、アイルの目線から逃れるように後ろを向いた。
……のだがー
身体に力が入らずふらっとよろけて後ろに倒れそうになる。
「っ……」
そんな葵をアイルは勿論受け止めた。
背中にアイルの体温を感じる。
というより、これはもはや後ろから抱き締められているのではないかとフル回転MAXな頭で考える。
そして、それを自覚した瞬間、顔が熱くなるのがわかった。
「……はぁ危なかった…………急に動くのはあまりオススメしませんよ」
「っ……」
アイルの吐息が葵の髪を優しく揺らす。
ただでさえ、異性とこんなに密着したのなんて初めてなのに、こう何度も同じような事が起こるなんて身が持たない。
それに、葵のお腹辺りに回されているアイルの腕が、より後ろから抱きしめられているのだと実感させられる。
「あっあの!もう急に立ったりしないので…離して……ください……」
「嫌ですね。思い返して見ればあの時もアンデッドを殲滅した後、葵さん倒れましたよね?身体に力が入らないのも恐らく魔力の枯渇だと思います。なので大人しく休んで下さい。こちらに体重をかけていいので大人しく寝てください、分かりましたね?」
「……はい」
有無を言わせないその迫力に葵ははい以外の言葉が言えなかった。
しかも、大人しくを二回も言うあたり、まるで葵が大人しくないと言っているようなものだ。
(……いや、確かに今までの行動を思い返せば大人しくはない……かも……?)
葵は大人しく言われた通りに、アイルに体重を預けて目を瞑ることにした。
きっと、こうなったアイルを説得するのは難しい。
ならもういっその事、全てを受け入れて眠るしかない。
この状態が恥ずかしいのなら、眠ればその恥ずかしさもなくなる。
時折、耳にアイルの吐息が当たるが気にしない気にしない。
それよりも身体に力が入らないのは魔力の枯渇だとアイルが言っていた。
洞窟に来る途中で何回も感じたあの脱力感だ。
では、この眠気は魔力を回復しようとしているだけで、正常な眠気ということなのだろう。
あの時も異様に眠くてすぐに寝てしまったっけ。
今も段々と眠気が襲ってきて、落ちるのも時間の問題だった。
その時、葵のお腹に回されているアイルの腕に力が入ったのがわかった。
なんだろうと薄らと目を開けようとするが、眠気には抗えずそのまま気が遠くなって行くのがわかった。
そして、こめかみに何かが当たった気がしたがよく分からない。
「…………誰にも渡さない」
遠くの方で誰かのそんな声が聞こえたが、それを確かめるほどの体力が葵にはもうなかった。




