第11話‐④
もう一度言うが、アンデッドを殲滅できるのは葵しかいない。
だが、その魔法を発動させる条件が厄介なのだ。
クレイツおじさんを助けた時のような感情が今の葵にはない。それに、その時の感情を向けるには発作を起こさなければならない。
殲滅したいのに発作も出ると言うことは、アイルの目の前で血を吐くということ。
一度血の付いた手のひらを見られているので、今ここで血を吐いたらさすがの葵も言い訳が出来ない。
アイルがここに来てくれた事には感謝しているが、とても都合が悪いということに今更気付いたのである。
「葵さん?大丈夫ですか?」
「っ……だ、大丈夫です」
「……大丈夫な様に見えないのですが……」
「じ、じゃあ見ないで下さい!」
ぷいっとそっぽを向いた葵にアイルは目を見開いた。
こんなに可愛い仕草で感情を顕にする葵を初めて見たのか、アイルの口角が自然と上がる。
「どうしたんです?照れてるんですか?」
「なっ……照れるとか誰に照れるんですか!?」
「おや?わたしではないのですか?」
「なっ何故貴方なんかにっ………………って危ない!」
『ギャァァァオオオオオ!!!!!』
仲良くお話をしていた葵の視界に背後からアンデッドがアイルに襲いかかるのが見えた。
葵は頭の中で瞬時に炎の魔法を発動して動きを止めた。
それを見ていたアイルは間髪入れずに、拘束の魔法を発動して再度拘束した。
どうやら、拘束の魔法から抜け出したアンデッドと一匹が襲いかかってきたのだろう。
「はぁっはぁはぁはぁ……ま、間に合った……」
「葵さん大丈夫ですか!?怪我はありませんか?!」
「……ない、です……そ、それよりあの……離して、貰えませんか?」
「え?嫌ですね」
「は……」
アンデッドにびっくりしすぎたのもそうだし、焦っていたのもそうだし、アイルを巻き込まないためにアイルをつき飛ばそうとしたのも確かだ。だが、こんな体勢になるとは誰が予想していただろうか。
葵に突き飛ばされるのを察知したのかアイルは突き飛ばそうと腕を伸ばしてきた葵の腕を掴んで引き寄せ、葵の身体を包み込むようにし抱き留めたのだ。
そしてそのまま、抱き留めたまま魔法を発動した。
片腕で葵の身体をガッチリ抱きとめているアイルは、戸惑っている葵そっちのけでアンデッドを拘束していたし。
こちらだけ慌てているのがどうにも気に食わない。
「あの離して下さい」
「アイル」
「えっ……?」
「あの時、アイルと呼んでくださいと言いましたよね?呼んでくれないのですか?」
「嫌です」
「じゃないとこのままですよ」
「………………」
あの時もそんな事を言われた気がする。
そして、その時も諦めて呼んだ気がする。
抱き留められている分、いつもより近くに感じるアイルの気配に熱のせいなのか、はまたま違う理由なのか体温が上がっていく。
卑怯だと思うのに強く言えないのも無理やり離れないのもあたしがこの状況を心の底から嫌がっていないから?
押し返したいのに、この温もりから離れたら寂しいと思っている自分がいた。
そう思ったら余計に熱が耳に集中する。
「葵さん、少し黙っていて下さい」
「……え?」
先程の雰囲気とは違う真剣な声が聞こえてきた。
その声に俯いていた顔を上にあげた。
すると、目の前には先程まで居なかったと思われる、熊の屍と思われるアンデッドがそこに立っていた。
油断していた。
目の前にいる葵と一緒に落ちたアンデッド達を拘束したとしても、この空間の上空には黒い球体があると思われる。
そして、恐らく今目の前にいる熊のアンデッドも上空に浮かんでいる黒い球体から現れてここに落ちてきたのだ。
そして、先程のアイルを襲おうとしたアンデッドも実は拘束を解いたのではなく上から落ちてきたアンデッドだったのかもしれない。
ただ、落ちた衝撃や音がしなかったのが引っかかる。落ちたのなら流石の葵でも分かると思うのだが。
「葵さんは後ろへ」
「え、でも……」
「魔法が発動できそうなら言ってください」
「え……ど、どうして、それを……」
アイルは葵を後ろにかばいながらそう言った。
まるで、先程の葵の挙動不審の行動を理解しているかのような。
そして、アイルは一瞬葵の方を向いて口を開いた。
「先程も言ったでしょう?わたしは葵さんのことしか考えていないと」
「っ……」
「葵さんは分かりやすいのですよ。そしてずっと見ていたら自ずと考えていることも分かります」
「なっ……」
「ここから出た暁には改めてちゃんと理由を話して下さいね」
「…………」
ニコッと微笑んだアイルは視線をまたアンデッドに戻した。




