第11話‐③
「ちょっ……なっ……」
「こんなに葵さんの事しか考えていないのに、葵さんは俺の気持ち考えてくれないのですね?」
「っ…………」
髪にキスをされた事だけでも驚いているのに、急に一人称が俺になった事に何故だか鳥肌が立った。
アイルの一人称が俺に変わった時といえば、あの深夜、扉越しに迫られた時だろうか。
その時の光景を思い出し、葵の耳が赤くなる。
それを見ていたアイルは満足だというようにうんうんと頷きながら、葵の髪をくるくると指で弄び始めた。
葵の心臓はバックンバックンと激しく動いているのに、アイルはどうってことないような顔をしている。
それを見て負けた気がした葵はアイルが弄んでいた自分の髪をアイルの手から奪い取った。
「…なっ、何を訳の分からないことをっ……あたしは……いっ!……たぁぁぁ……」
腕を治して貰ったことで油断していた。
足の骨が折れているのを忘れていて、思い切り立とうとした瞬間、かち割るような痛みが走ったのだ。
思いもよらない痛みにその場に蹲る。
「……足も怪我しているのですか?」
その様子を見ていたアイルは蹲っている葵の顔を覗き込んだ。
「……落ちた時に折れたみたいです」
「…落ちた?」
「元々、あたしはもっと上にいました。アンデッドと対峙している時に急に地面が揺れてここに落ちたんです」
「…なるほど」
痛みを和ませるように痛む足を擦りながらアイルに説明をした。
少し涙目になっている葵にアイルは少し考えてから口を開いた。
「……流石に折れている骨を治すことはできませんが、痛みを緩和させることは出来ると思います」
「……これ以上借りを作るのは嫌です」
「これはただの人助けですよ…それでも納得いかないと言うのならこれは師匠を助けて頂いたお礼だとでも思ってください」
「……」
アイルは葵の静止など聞かず、先程と同じように折れている足に手をかざして黄緑色の光が包んだ。
そして、徐々に痛みが和らいでいった。
確かに折れているのに変わりないが、痛みが和らいだだけ幾分かマシである。少しの痛みなど掠り傷と同等だ。
不可抗力だと思いながらも、腕と言いこの脚といい魔法を使って手当してくれたのだ。お礼を言わないのは葵の礼儀に反する。
「……ありがとう、ございます……先程の腕といいこの足といい……」
最後は消えりいそうな声だったけど、ちゃんと聞こえていたのかアイルはしゃがみながらニコッと微笑んだ。
「お礼を言うのはここから出てからにしましょうか?」
「……ここから……出る?」
「とりあえず、わたしの魔法で拘束はしていますけど、このままではまたいつ動き出すか分かりません。葵さん、殲滅できますか?」
「……やります」
ここから出るという言葉に違和感を覚えながらも、アイルの言葉には力強く頷いた。
誰かが言っていた。
出来るのか出来ないのかではなく、やるのかやらなのかと言う問題だと。
今の葵の状況で本当に殲滅できるのかは自分自身も半信半疑になっているが、ここで逃げる訳にも行かないし、殲滅するために来たのだ。ここでできませんなんて言えるはずもないし言いたくない。
「…ではわたしに掴まってください」
「…失礼します」
アイルは葵の足を庇うように慎重に立たせてくれた。
しかも、葵の負担を軽くしようと「こちらに体重をかけてください」とまで言ってきたのだ。
葵は一瞬躊躇ったが今は反抗していては埒が明かないと言い聞かせ、アイルの背に腕を回した。
アイルも葵と同じように葵に腕を回して、お互いアンデッドに向き直った。
アンデッドはアイルによって術式が描かれた円形の魔法陣によって身体が拘束され、身動きが取れずずっと呻き声を上げて抵抗している。
「葵さん、葵さんのタイミングで殲滅して下さい」
「…………」
「葵さん?」
アンデッドを見つめていたアイルは返事がないのを不思議に思って隣にいる葵に視線を移した。
すると、葵はバツが悪そうに目線を逸らした。
あからさまな態度にアイルは葵に詰め寄る。
「葵さん?何か都合の悪いことでも?」
「い、いや……別に……」
傷が治ったことにより、先程よりも頭が働くようになった葵は熱も若干だが下がっている。
それによって、葵は一番大事な事を思い出したのだ。
「葵さん。凄い分かりやすい嘘をついていますけど、わざとですか?」
「…………」
さすがの葵もそんなことは分かっている。
ただ、これに関してはこういう行動をとっても仕方ないと強く思った。




