第11話‐①
「…………う"……」
長い時間に感じた。
気づいた時には落ちていた。
瓦礫と一緒に洞窟の下に落ちた葵は魔法を発動する暇もなく、思い切り身体を地面に叩き付けていた。
背中から思い切り地面に当たったのか、とてつもない痛みが背中を中心に襲う。
そして、その落下の衝撃で足の骨も折れたのか、動かすだけでトンカチで殴られているのかと思うくらいの鋭い痛みが走る。
仰向けになりながら身動きできず、とりあえず背中の痛みが和らぐのを暗い天井を見つめながら待つことにした。
「……」
動かず静かにしていると、どこからかアンデッドの呻き声が聞こえてきた。
どうやら、一緒に洞窟の下に落ちたのだろう。
ただ、あたしのように怪我をしていたとしても、元々屍なのだから大したことないと思う。
この状態で襲ってこられたら今度こそ確実に終わりだなと乾いた笑いを零した。
でももう良いのかもしれないと思う自分もいる。
アンデッドの殲滅が叶わないかもしれないけれど、洞窟の下に落ちたのなら当分は地上には出ていけないだろうし、地面が落下した今、黒い球体は恐らく地面の無い空中を浮かんでいるはずだ。そして、そこから出てくるアンデッドは確実にここに落ちることになる。
少しくらいは時間稼ぎができるかもしれない。
「……ただ、その時間稼ぎもいつまで持つか…………」
荒い息を肩を使って上下に動かしながら目を瞑りそんな事を考える。
きっと……これが最後だ。
どのくらい経っただろうか。
ある程度、背中の痛みが緩和された葵は、冷たい土壁に背中を預けていた。
流石に脚が言うことを聞かないので立つことは出来ないが、身体を起こすだけでも十分なはずだ。
耳を澄ますと漆黒が広がるある洞窟の中、目の前には複数のアンデッドの気配を感じる。
先程天井付近に投げた光の玉は消えたのか、それとも結構下に落ちたからなのか光のひの字も見えない。
この暗い中、訳が分からず襲われたらチビりそうなのでとりあえず小さい火の玉を一つ浮遊させる。
すると薄らだが、遠くの方に黒くて禍々しい瘴気を漂わせながら、鋭い目付きをこちらに向けているアンデッドが目に入った。今にも飛びかかって来そうな勢いだ。
(これは……流石にお手上げだわ)
目を瞑り静かに深呼吸をする。
落ちた衝撃かなんなのか知らないが、先程まで襲ってくる気配のなかったアンデッド達がじりじりとこちらに近付いているのが嫌でもわかった。
葵を獲物と捉えたのか沢山の視線が突き刺さっている。
ぱちっと目を開け、目の前で唸っているアンデッド達を見つめる。
(クレイツおじさんに出会えて良かった……少しでも楽しい生活が出来たよ。これでもう……色んな感情から開放される……)
この状況に弱気になる葵。
「ぐっ……」
そして足の激痛にそろそろ限界がきていた。
顔を歪めながらも視界だけはアンデッド達を捉えている。
「…最後、会っとけば良かったかなぁ」
クレイツおじさんの顔が頭に浮かんできた。
最初はこのおじさん鬱陶しいとか思っていたけれど、あの人懐っこいクレイツおじさんにあたしは救われていたのだ。
それに、クレイツおじさんの息子のフェルネス様やフェルネス様の奥様のアイリス様もとても優しくて家族ってこんな感じなのかと思った。
それに、ナディルさんや朝倉椿さんも本当はきっと心優しい人達なのだろう。
ちゃんと見ようとしなかっただけで、とても優しくて色々と考えてくれていたのだろうと今なら思える。
それから……
「……アイル……ヴェルディス……」
とても一筋縄ではいかない人だった。
少しの期間しか一緒に居なかったけれど、会う度にからかわれたり、突っ込んで欲しくない話題に触れられ、命についてのお説教もされたっけか。
本当に何がしたいのか最後まで分からなかったけれど、そのお節介はなんとなくクレイツおじさんに通じるものがあると思う。
流石、師匠と弟子なだけあるな。
「……濃い数日間だったな」
きっとここで過ごした出来事は忘れはしないだろう。
例え、記憶を無くそうときっとまた思い出す。そんな気がする。
そしてもう……あの時のような出来事は一生経験したくない。
もしまた生まれ変わることがあるのなら、今度こそ独りで生きていこう。あたしには皆が平等で持っている様々な気持ちは必要ない。独りで生きていくのに……必要ない、感情ばかりだ……。
「っ……」
そう、思うのに。
そう思いたいのに。
それを否定したい気持ちが込み上げてくる。
独りになりたいのに独りになりたくないと思ってしまう。
ここでの暮らしが、ここで出会った人達の優しさが葵の気持ちをどうしても揺るがせてしまう。
どうしようもない感情に駆られ自然と涙が頬を伝った。
「……ファイヤボール!!!」
「っ……!!?」
すると急に、暗闇の中から声が聞こえたかと思ったら、ボゥッ!!と目の前に火の旋風が巻き起こった。
その火の旋風に暑さを感じ、怪我をしていない腕で咄嗟に顔を覆い目を閉じる。
視界を閉ざした目の前で、声とも言えない叫び声が葵の耳に突き刺さった。
何が起きたのかいまいち理解が追いつかない。今の旋風は何なのか、誰が放ったのか。
頭の中がごちゃごちゃで何も考えられないのに、今の声には聞き覚えがあった。
「……」
ここにいるはずがない。
あの人がここにいるなんて有り得ない。でも、今の声を聞き間違えるはずがなかった。
だって彼はあたしが……
逸る気持ちを抑えながら、恐る恐る目を開けた。
「……っ」
葵の目が見開かれていく。
目の前には先程まで葵を獲物として捉えていたアンデッド達が誰かの魔法によって拘束されていた。
アンデッドの身体が術式が描かれた円形の魔法陣によって拘束され、身動きが取れないのか唸りながら横たわっていた。それも沢山。
ここにいた全てのアンデッド達がその様に拘束されていたのだ。
「…………?」
確かにアンデッドは普通の人は倒せないから動きを止めてるこの行動は正解だと思う。
今現在、アンデッドを倒せるのは自分自身だと分かっているから。
ーザッ
その時、前方から誰かの足音と気配を感じた。
明らかにアンデッドではない、人の気配だ。
(っ………)
一つの火の玉という心もとない灯りの中、彼の魔法で灯る火の灯りがとても心強い。
白いローブを羽織り、左右の耳にはゆらっと揺れるふさふさの銀色と濃紺の色をしたタッセルピアス。
濃紺の髪を後ろに束ね、髪の毛と同じ濃紺の色をした力強い瞳がこちらを見つめていた。




