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第10話‐⑨


強く想う。


あの時、クレイツおじさんとアンデッドに出くわしたとき、どうやってアンデッドを殲滅したのか。

あの大きいもふもふの言うことが正しいなら、強い想いがないと殲滅できないということになる。


「強い……想い……」


あの時はただただクレイツおじさんを……


ーパァァァァアアアアアア!!!


「っ……!?」


すると瞬間、葵の身体が軽く光出した。

びっくりしすぎて直ぐにその光は止んだが、その効果は絶大で葵に近付いてきていたアンデッド何十匹がその光によって消えていった。


「………………?」


葵は首を傾げる。

きっと今のが強い想いなのだと思うのだが、そんなにそれが強い想いというのは何故だかしっくり来ない。

確かにクレイツおじさんを助けたい一心であの時は強く想っていた気がする。

ただ、今はその時の感情はさほどない。それなのに今一瞬だけ光が身体を包み込んだ。

きっと、今の想いで魔法が発動したのは、本当の強い想いである感情を引き出すきっかけに過ぎないのかもしれない。


クレイツおじさんといる時は確かに発動をしたし、強い想いもあった。ただ、今はその時ほどの強い思いはなく、一瞬の光に留まった。

では、あの強い光を出すにはどうすればいいのか。そう。葵はもう既に答えにたどり着いていた。


「……その強い想いを向ける相手を自分自身にすれば……効くとはとても思えないが今はそれにかける以外方法は無いみたい」


この洞窟の中には葵しかいない。

例え他に人がいたとしても、その人に怪我してくださいなど言えるはずもない。

いや違う。そういうことではない気がする。怪我をすればいいものではない。


きっと何が大事かって葵自信が大事にしたいと思っている人が怪我をしないと意味が無いのだろう。


そう気がついてしまった時には遅かった。


「ガハッ……!!」


手で抑える時間が無く、見事に地面に真っ赤な血が飛び散ってしまった。

そして、それと同時に結んでいた髪がパサッと肩に落ちた。


「ゴホッゴホッ……はぁはぁはぁ……ゴホッゴホッ」


口元を手で抑えながら咳が収まるのを待つ。

手には鮮明な血がべっとりと着いており、荒い息が肩を上下させる。


『ガルルルルルルルルッッ!!!』


「っ……!!」


自分の発作に気を取られていた時、一匹のアンデッドが葵目掛けて飛びついてきた。

顔を襲われないように咄嗟に左腕を前に突き出した。


「っ……いっ……たい!!!!!」


直ぐに左腕に鋭い痛みが走り、その痛みにびっくりしながらも何とかもう片方の手でアンデッドに向かって炎をお見舞いする。


『ギャァァオオオ!!!』


殲滅まではいかないが、こうやって痛がるところを見ると効いているんじゃないかと思ってしまう。


「………………口から出た血なのか、今の噛まれた時の血なのかどちらか分からないわ」


左の掌には真っ赤な血、そして左腕には今受けた噛み傷があり、そこからはポタポタと血が滴っていた。


不可抗力ではあるものの、己自身に傷を付けることには成功したようだ。

ジンジンと燃え盛る火で熱され続けるかのようなとてつもない痛みだが、今はそんなことどうでもよかった。

これでもしかしたらアンデッドを殲滅出来るかもしれないと思うと、そんなことよりもワクワクの方が勝っていたからだ。

この状況でワクワクするとか流石に変態の域を超えているかもしれないが、これで殲滅さえ出来れば皆は無事なのだ。例え自分がどうなろうとクレイツおじさん達が生きてさえいてくれればそれでいい。


それに……


「……クレイツおじさんから貰った結い紐には悪いけれど、"消えたのが物"で良かった……」


葵は痛さで引き攣る顔を抑えながら、そんなことを気にしていた。

先程の三回目の発作により、呪いが発動したのだ。

三回目の発作の直前に"葵自身が一番大切にしているものが消える"それが、自分自身にかかっている呪いだった。


その証拠に葵の束ねて結んでいた髪が肩に落ちた。

だが、一緒に落ちるはずの結い紐はその場に落ちていない。

それもそのはず、その呪いの代償が発動したからだ。葵はいつ三回目の発動が来てもいいように自分の大切なものはこの結い紐だと己に信じ込ませていた。

それは実際三回目の発作が起きた時もだ。

それによって、髪を束ねていた結い紐が咳き込んだと同時に消えたのだ。


「……本当に、モノで良かった……」


はぁと安心したのか、脱力した身体はその場に座り込んだ。

三回目の発作が起きて、何かが消えたのならば、その呪いはまた一からリセットされる。

その安心感からか力が抜けて、目の前にアンデッドがいるのにも関わらず座り込んでしまった。


あとは、自分自身に向けて強い思いを向けるだけだ。

怪我をしているいまならいけるだろうという思いが少なからずあった。



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