第10話‐⑧
足を踏み入れた洞窟の中は、じっとりと湿っていた。
そのジメッとさは日本の夏の湿気を思い出させた。
暑さはないにしろ、ジメジメするその湿気は日本の湿気ととても似ている。
それに、どこからか水が滲み出ているのか濡れているし、暗いところが好きなコウモリもたまにいるし、虫もいるしで葵の顔はとても引きつっていた。
虫が大の苦手な葵は今すぐにでも洞窟を出ていきたい衝動に駆られるが、アンデッドを殲滅するまでは逃げないと己に言い聞かせる。
それに、先程より体力と魔力が回復したのか体が軽い。
身体の軽いうちにアンデッドを殲滅しときたいので虫が嫌だからとわがままは言っていられない。
「うわっ……!!?」
見たくもない足が沢山ある虫が洞窟の天井辺りにうじゃうじゃいるのを見てしまった。
もしかしなくても、「う」から始まる虫ではないだろうな?昔一度興味本位で調べてみたことがあったが、調べてみてとても後悔したのを覚えている。
その時に見た画像を思い出しそうになって葵は身震いした。
火の玉で全てが見えた訳では無いが、恐ろしくて鳥肌がさっきから立ちまくっている。
そして時折、暗闇からカサカサと音が鳴るのも不気味でたまらない。
半分涙目になりながらも足を進めているのだから褒めて欲しいくらいだ。
ゆっくりゆっくりと歩みを進める葵の前に分かれ道が現れた。
「…………ここに来て分かれ道とか……」
漫画の主人公にでもなった気分である。
次から次へと試練が待ってるとか、主人公でなければ何だ?ただの不運か?
はぁとため息を付いた葵は迷わず左の道に進んだ。
何故かって?
もちろん感であると言いたいところだが、強いて言うなら右と左どっちがいい?て聞かれたら左と答えるからだ。
右より左。葵はそう思って疑わないのだから真っ直ぐで強い子である。
左の道に進んで約五分、遂に終わりが見えてきた。
奥まで進むと、広い空間が広がっているのが分かった。
とても広いのか、天井や空間の奥が暗くて見えない。この火の玉では届く範囲に限界があるので全てを明るくすることが出来ないのは致し方ない。
そして、左を選んだのはビンゴだったようだ。
暗闇の奥から禍々しい瘴気が漂ってきている。左の道を進むにつれて、瘴気が漂って来ていたので間違いない。
それにどうやら、暗闇の奥の方により黒い何かが見えるのだがそれはきっと黒い球体だろう。
アンデッドのいる巣窟を当てたのは嬉しいが、こうも暗いと戦いに支障が出てしまう。
ということで、少し調子に乗るが光の魔法を使いましょう。
光の魔法は他の魔法に比べて魔力の消費量が半端なく激しい。
できることなら今の身体の状況で使いたくはないのだが致し方ない。
見えなければ戦うものも戦えない。
葵は光の魔法で太陽のように光を灯した丸い球体を作り、大玉転がしくらいの大きさにして思い切り天井目掛けて風の力を利用し投げ放った。
そして見事にその明るい太陽もどきは天井付近で停止し、開けたここの空間を見事に照らしたのである。
「……大きくない?」
作った光の球体によりその黒い物の全貌が顕になった。
目の前には確かに黒い球体があり、そこからアンデッドが出てきているのだが、湖よりも狭い空間にもかかわらず、その黒い球体は湖に浮かんでいた球体より一回り大きく、そしてより禍々しい瘴気を漂わせていた。
「……ゲームで言うところの、ボス……的なあれか?」
どうやら一度ならまだしも二度までも命の危機にあったら、一周まわって人間は恐ろしいほど冷静になるのかもしれない。
この状況でゲームとか何を考えているのだろう。
だが、そう言われてもおかしくない状況なのである。
『ガルルルルルルル』
『グァァアアアア』
『グルルルルルルルル』
一体何匹いるだろうか。
ざっと100匹くらい?いやもっとだろうか。
しかも、大きい個体ばかりである。
今すぐにでも襲いかかって来そうな雰囲気のアンデッドなのだが少し待って頂きたい。
こちらはまだ準備不完全である。なのでとても焦っていた。
先程の大きいもふもふに強い気持ちが大事だとは言われたのだが、その強い気持ちが今になっても分からないのだ。
その強い気持ちとはどの強い気持ちなのか。どういうのが発動条件なのかさっぱりなのである。
「念じればいけるのか……それとも神様お願いみたいに強く信じればいける……とか?」
でも神様にお願いするのは、ちゃんと神祭をしてからであって、ただお願いするのは失礼極まりない。ただ、自分の願いを言えばいいってものではないのだ。
だが、神社とは願いを言う場所として広まっていた日本では、果たしてその神社の御祭神の名前を知ってお参りしている人はどのくらいいるのか。
ただ神様お願いしますと言うだけではとても失礼だと思わないのか。
神様とは神様の総称であり、人間が人間と言われるのと同じ。
もし、願いを本気で叶えて欲しいのなら、せめてその神社の御祭神である神様の名前か、その願いがどの神様に当てはまるのか考え、名前を覚えてから参拝するのはどうだろうかと問いたい。
本当なら神祭をして、ちゃんとした手順で神様にお願いを聞き届けて貰うのだが、皆が皆、そういう訳にも行かないので、神社という間接的ではあるがそういう祈り場があるのはとても喜ばしいことだが、その神社の神様の名前も知らないでお願いをするのはとても失礼だし、自分がされたら嫌だろう。
一応、神社の娘として元日本で生まれたので、強く願うという事は一体誰に向けてのものなのか。どういう強い気持ちなのか。
葵はあの大きなもふもふに言われてから考えていた。




