第10話‐⑦
「…………」
寒さで目が覚めた。
目を開けると葵の視界には闇が広がっていた。
先程よりも軽くなった身体に疑問を抱きながらも体勢を起こしながら辺りをキョロキョロ見渡す。
だが、当然暗くてよく見えないので魔法で火の玉を作り、何個かを己の周りに浮遊させる。
「これが本当の火の玉である」と心の中で突っ込みながら何もいないのを確認して、どうしてここに居るのかと状況を整理することにした。
そもそも葵はアンデッド殲滅の為に、森の中にある洞窟に行こうとしていた。
そして、森を歩いていた所、一匹のアンデッドと仔猫に出くわした。
仔猫を助けるためにアンデッドに立ち向かったのだが、もう無理だと言うところで何かに助けられた気がする。
そして今気付いたのだが何故か怪我していた掌の傷が消えている。
先程まで痛みを感じていた掌は綺麗さっぱり傷の一つも見当たらなかったのだ。
不思議なこともあるものだと思いながら、異世界なのだから不思議な事も起こりうるのだと自分を無理やり納得させた。
そして、先程のもふもふに聞きたいことがあるのに辺りをキョロキョロ見渡すが姿が見当たらない。
それどころか……
「…………誰もいない」
暗闇と静寂しかそこにはなかった。
昼間の時のように子鳥のさえずりや葉と葉の擦れる音さえも今は何もしない。
というかそもそも、そのもふもふがここにいたとしてもこの暗闇の中で認識できるのか甚だ疑問である。
火の玉は気休めにしか過ぎず、ほぼ真っ暗と言っても過言ではなかった。
あのもふもふがどこに行ったのかは知らないが本当に助かった。
アンデッドを倒してくれた……いや、なんか洞窟に戻ったとかなんとか言っていたが、今それを疑問に思ったところで答えてくれる本人はいないのでとりあえず今は置いてとこう。
それに、あれは人ではない。
大きい仔猫でもない。
大きい動物、虎にも猫にも似ているもふもふだ。
そのもふもふがアンデッドから助けてくれた。
何故助けてくれたのかは分からないが、あのもふもふが助けてくれなければ確実に葵は死んでいただろう。
今はまだ死ぬ事は出来ないので感謝しかない。
お礼を言いたいが姿が見えないのでどうしようもないし、色々と聞きたいことが沢山あったのに疑問を聞くことも出来なかったのだ、素直にお礼を受け取ってくれるのかも疑問である。
もふもふの話が一方的すぎてもふもふのペースに流されていたのもそうだし、何故だか急に眠くなったりもしたし。
そして気付いたら暗闇にいるってどうよ?流石にいじめ?と思われても仕方ない状況にいた。
それになんか、色々とすごいこと言っていたと思うけど、怖いから忘れてもいいかな?
(アンデッドを倒すのにはまず黒い球体を消すこと。消すにはあたしの強い想いと光の魔法が必要……と言う所だけ覚えておけば今はいいよね?でもまぁ……黒い球体の事は前回経験しているから分かっていたんだけれど、光魔法が必要なのは初めて知ったな……それに……)
「その肝心な強い想いって何なの?」
一番の引っかかりはこれだった。
助言を授けようとか言っておきながら、その肝心な部分を言ってくれない辺り適当さが伺える。
(一番大事なとこだよね?なんならそれが分からないと一生アンデッド殲滅出来ないよね?その重要な部分をもう少し詳しく話してくれたら良かったのに……)
葵ははぁとため息をついた。
光魔法の件は収穫ものだが、その強い想いが詳しく分からないとなると、これはもう振り出しに戻ったのと同じである。
そう思った葵はとりあえずその件を放棄した。
今考えても答えが出ないのだからそれはおいおいまた考える事にしよう。
今はとりあえず目の前の事を考えなければと気合いを入れ直す。
そう。
ここがどこなのかも重要なのだが、今一番重要なのがある。
「…………何時ですか?」
暗闇を見据えながら呟いた。
そう。
場所の件も重要だか今が何時かも重要なのである。
葵が出てきた時間は日が昇る前。
そして、力尽きて寝て起きたら昼くらい。
そして、もふもふと話をしていて眠くなって今目が覚めた。ということは確実に夜である。この暗闇がそう物語っていた。
夕方だったらいいなと心の中で思ったが、こんな暗い夕方がどこにあるのだ。
もしかしなくても夜なのだと否定したい気持ちを抱えながらも納得せざるを得なかった。
では、今が夜なのなら今何時なのかということだ。
もう辺りは真っ暗で、ここがどこなのかすら分からない葵は時間も分からなければ場所も分からないという結構危険な状態にいる。
何か一つでも知れればこの不安は消し去るのかと考えるが何一つ分からない。
もふもふがいれば聞けるのだが見当たらないし、葵は一体何処に連れてこられたのだろうか。
考えるだけ無駄な時間を過ごすことになると思い、遂には時間の件も放棄して、とりあえず立ち上がり辺りをキョロキョロ見渡した。
森の中なのは間違いないようだが、なんだか空気が悪い。
濁っているというか、臭うというか……
「……ん?」
少し歩いていたら、大きな口を開けているように見える洞窟が姿を現した。
暗くてよく見えなかったが、確かに洞窟の入口のようだ。
「……洞窟?」
眠っている間にでも歩いたのだろうか。
とりあえず、この洞窟はきっと探し求めていた洞窟だろう。 森の中にある洞窟ならきっとそうだ。と、こんな時間をかけて来たのだから探していた洞窟であってくれと心の中で祈る。
葵は周りを浮遊している火の玉を頼りに、洞窟の中にゆっくりと足を踏み入れた。




