第10話‐⑥
葵の目の前に居たのは、結論から言えば普通の猫を何十倍も大きくした獣?動物?みたいなもふもふであった。
ただ、猫の大きいバージョンでもそれは猫と言うのかは分からない。
大きい猫とえば虎が思い浮かべられるけれどこんなところに虎なんていたら大変だ。しかも話す虎である。流石にそれはないかと突拍子もない事を考えていたなと頭をぶんぶん振る。
そして改めて目の前にいる生き物を胡坐をかきながら監察してみた。
先程のアンデッドよりも遥かに大きい、日本で一回だけ見たことのあるパンダより一回りどころか三回りくらいした大きさだろうか。大人の男性をも包み込んでも足りるくらいの大きさをした、虎か猫か…はたまたそう見せといて犬なのか…よく分からない動物?が目の前でお行儀よくお座りをしていた。
胴体より長く見える尻尾をふっさふっさ揺らしながら、金色の瞳で葵を見つめている。そして、何と言ってもその毛色がとても目を惹いていた。
最初、銀色に見えたその色は、お日様の日に当たると金色にも見えるという現実とは思えない輝きを放っていた。
まさに、一言で言うと美しいという言葉以外思い至らない。
(…えっと…銀色とか金色とかそういう動物っているの?ここは異世界だからそういうのもいる感じ?しかも話してるよ?人間の言葉話してるよね?え、気のせい?あたしの気のせいだったかな?いやでも例え話していたとしても、やっぱりここは異世界だから言葉を話す動物もいるのかな?)
もう既に色々とキャパオーバーな葵は頭の中でぐるぐるぐるぐる考えが飛び交っていた。
目の前の出来事が現実なのかさえ疑ってしまうくらいに。
そんな事とはつゆ知らず、金色の瞳をした動物…改めもふもふは葵を心配そうに見つめながら意外と大きな口を開いた。
『怪我を負わせたにも関わらず、治してくれた事を心から感謝する。ありがとう』
「……ん?…えっ……?」
やはり、聞き間違えなどでは決してなく人間の言葉を話していた。
極めつけは、凛々しい顔つきで軽く頭を下げられ「あっ頭を上げて下さい!」とお決まりの言葉を口にした。
それだけでも頭がごちゃごちゃなのに、なんか怪我を治してくれてありがとうとか言っているのだが何を?と心の中で返事をした。ただ、勿論返事はないので一回寝てスッキリしたいと強く思う。
一つだけ思い当たる事と言えば仔猫の傷は先程治したが、こんな大きい、仔猫とは決して言えないもふもふを治したという記憶は一ミクロンもない。
それなのに、身に覚えのない事を言われ頭まで下げられては誰だって悲鳴を上げたくなるのは当たり前だ。これでも、悲鳴を上げないだけ偉いだろうと思っていたりする。
(あ…でもよく見なくても虎特有の模様が身体にあるから虎なのかな?いやしかし…虎だとしてもあたしの知っている虎より遥かに大きいのだが…………)
とここで考えるのをやめた。
ここは異世界なのだからそんな事もあると思うようにしたのだ。
じゃないと、一生この話題で頭の中がぐるぐる回り続けてしまう。それだけは嫌だ。
『それから…助けるのが遅れてすまなかった。お主の魔力に馴染むまでは元の姿に戻るのは危険と判断した故、助けるのが遅くなってしまった』
「………え………あ、の……?」
『先程のアンデッドは私があのモノの時間を戻した故、今頃ここに来る前の洞窟の中にいるだろう。完全に消滅させても良かったのだが私の立場上、それはできないのでな。それにお主はどうやら特殊な能力があるようだ。ここに来たのも先程のアンデッドを殲滅させる為であろう?』
「っ……何故、それを……」
『私を誰だと思っている?これでもこの国を統べる者の一柱である。あぁそれから、一つだけ助言を授けよう。あのモノを倒すのに苦戦していたようだが、あれを倒すのにはまず黒い球体を見つけるのが先だ。それさえ何とかできればあのモノも自然と消える……ただ、その球体を消すにはお主のその強い想いが必要だ。その想いとお主の光の魔法があれば黒い球体を消し去ることができる』
「……強い…想い?」
『私を誰だと思っている?』とか『この国を統べる者の一柱である』とか色々と突っ込みたいところ満載だったのだが、『強い想い』という言葉を聞いてから、その全てがどうでもよくなった。
どうしてか知らないがこのもふもふは葵の中に強い想いがあるのを感じ取っているようだ。少し自分勝手で人の言う事を聞かない性格をしているが今は置いておこう。
その強い想いとはどういうことなのかをもふもふに聞くのが先である。
「…あの…その強い想いって……」
『おっとそろそろお主の身体も限界のようだ。少し眠るがよい』
「えっ?ちょっ……」
言い終わらないうちにもふもふは一方的に話を終わらせた。
納得のいかない葵はもう一度話をしようと口を開きかけたがそれは空しくも叶う事はなかった。
もふもふは胴体よりも長いふさふさもふもふの大きな尻尾を少しイラついている葵の顔目掛けて、ふさもふっとした瞬間、葵は強制的に眠らされてしまったからである。




