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第10話‐③


先程、葵が行った他人に魔力を流す行為は、魔法を使い慣れている者でも扱いが難しいとされる行為だった。


それをどうして葵が出来たのか。

前にその魔力の流し込みについて、クレイツに聞いた事があったが下手にそれを行えば命の危機もあると言われ、一度も試した事はなかった。

そもそも魔力を他人に流す行為は、それほどの瀕死の状態に陥った場合のみ、そして魔力が極限まで低下した時の最後の手段として行われると言われていた。

アイルの魔力切れは死と等しいという言葉は決して脅しなどではなく、例え怪我など身体のダメージがなくとも魔力さえ無くなってしまえば人間は呆気なく死んでしまうのである。

アイルが葵に対してあそこまで言うのは至極当然であり、今の葵はそんな自分自身を殺すような行いをしているのだ。

葵の意地なのか知らないが、寝れば回復するにもかかわらず寝る間も惜しんで活動をするなんて人はこの国には居ない。それだけ、魔力と睡眠は魔法を使える人にとってとても大事な事なのである。


ただ、その魔力の流し込みは最後の手段ではあるが、出来る限りは使うのを避ける。

というのも、それを行うとなると魔力を送る者、魔力を貰う者お互いにとてもダメージがかかるらしく、送る相手と送られる相手の魔力の相性が悪ければ最悪の場合死に至る、なんてこともあるのだとか。

なので、極力使いたくはないというのが本音だろう。


そんな理由にも関わらず、葵と仔猫は魔力の流し込みをいとも簡単に成し遂げてしまった。

しかも、今回葵は相手の了承を得ることなく勝手に自分の魔力を流し込んだ。もしそれで相性が悪ければお互い危なかっただろうになんともまあ怖いもの知らずである。


(…何となくきっと大丈夫っていう確信があったんだよなぁ…)


と、頬が緩みながら頭の痒い所をガシガシと掻く。

よく分からないが、最終的には仔猫の命も助かったのだから良しとしようと自分で自分を褒めた。終わり良ければすべてよしである。


『ガルルルルルルルル!!!』

「っ……!!」


ほっと一息付いていたら、先程炎の魔法で弾き飛ばしたアンデッドが呻き声を上げてこちらに向かって来ていた。

仔猫を助けるのに夢中になり過ぎて少しの間存在を忘れていたのはいいとして、どうやってこの場を切り抜けるかを考えなければならない。


「…こんなに早く会うつもりなんて無かったし………洞窟に向かいながらゆっくり考えるはずが、迷子になるわ、仔猫が襲われているわで色々なハプニングがあってそれどころじゃなかったし……」


と、アンデッドを前にしてぶつぶつ言い訳を呟いていた。

そして、葵にしては珍しく焦っていた。

それもそのはず、アンデッドを殲滅するぞ!と息巻いて来たは良いが、肝心なアンデッドを殲滅する方法が分からないのだ。もっと、分かりやすく言うならあの時どうやってアンデッドを殲滅させる魔法を放ったのか皆目見当が付かない。

気付いたら何かを放っていて、気付いたらアンデッドも黒い球体も消えていた。どうやって、どういう仕組みであの魔法を放ったのか全然分からないし、むしろこっちが教えてほしいくらいだ。


アンデッドを倒せるほどの魔力と倒すことのできる魔法を使える事は分かるのに、その魔法の発動条件が分からないのだから焦るのも当たり前。


こう脳内で考えている間にもアンデッドは葵を獲物に捉えたらしく、じゅるりと肉のそげた口から紫色の涎を垂らしながら睨みつけてくる。

その光景に葵は息を吞んだ。

凄く気持ち悪いし、今すぐにでも逃げたい衝動に駆られるがそれではここまで来た意味がなくなる。

アンデッドを殲滅できるのは自分だけだし、誰も怪我をしてほしくない。その為に来たのだ。どんなに気持ち悪くても逃げたくても弱音なんて言っていられない。

この世界に来て葵のやるべきことが見つかったのだ。これは葵にしかできない。葵がやらなければいけない。

どういう風に魔法を発動したのかは今も分からないけれど、闘う以外に道はない。


「…あの時は…どうやって?」


仔猫を抱えながら、うーんと考える。

魔法を放った時の状況を思い浮かべてみる。


(あの時は確か…クレイツおじさんがピンチで、あたしもピンチで……でも、自分よりクレイツおじさんを助けたいって…)


葵なりに思い出してはみるが、一向にこれだ!というものがこない。女の勘を求めている訳ではないが、いまいちピンと来ないのだ。

そんな葵は腕の中に居る仔猫の背中を優しく撫でる。


「あー……癒されるー………」


早くしないとアンデッドに襲われるというのに緊張感のかけらもないのはいかがなものだろうか。

今にも目がつぶってしまうほど葵は仔猫という存在に癒されていた。


『ミュウー!ミュウー!』


仔猫に罪はない。

可愛い鳴き声を堪能しながら頭をフル回転させる。が、変わらず何も浮かばない。

これはきっと、頭の使い過ぎで思考が停止しているんだなと言い訳をしながら、仔猫に視線を移した。


『ミュウミュウミュウミュウ』


仔猫は自身で噛んだ葵の手をまた一生懸命舐めていた。

その可愛らしい行動に胸を撃たれながらも、自分が絶対絶命の淵にいることを忘れてはいない。


『グァァァァァァァァアアアアア!!!』

「っ……!!」


一生懸命考え込んでいた時、アンデッドが葵目掛けて襲い掛かって来た。



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