第10話‐①
木々の生い茂る森の中、葵の額には汗が滲み出ていた。
それもそのはず、もう何十分も森の中をさ迷っているのだから。
そして葵はこんな事になるとは思ってもいなかった
「なんで…なんでこんなに遠いの!?」
そう。
葵は若干、迷子になりつつあったのだ。いやなりつつと言うよりもうなっていた。
こんなに洞窟までの道のりが遠いとは誰が思うだろうか。
クレイツおじさんと湖まで歩いた時はそんなに歩いた感覚は無かったのに、今回はとてつもなく長く感じる。
しかも、湖にすらついていない。
朝日が昇る前に出てきたのは朝の内にアンデッドを殲滅させときたかったからであって、この調子では午後になってしまう。
だが、幸い完全に朝日が昇っている訳ではないので、午後になるは言い過ぎだと思うが、現在進行形で朝日が昇ってきている今、そううかうかとしてはいられない。
日が昇れば人が活動する。
テーブルの上に置いた置手紙とは別に、部屋の扉の下の隙間に夕方まで起こすなというニュアンスの字を書いた置手紙を置いてきた。
それがあるので夕方までは誰も部屋には入ってこないと思うのだが、果たしてちゃんとそうしてくれるかは分からない。
もしかしたら、もう既にあたしが居ない事に気付いている可能性だって十分にある。
(自分の名前以外に覚えられそうな単語は何個か覚えてたから書けたけど、あれで合ってるか分からないんだよねぇ……もし意味が通じてなくて入られる可能性も十分あるんだけど……いやでも、頑張って書いたし伝わっているといいな……)
そう考えながらも、早くアンデッドを殲滅したい気持ちに駆られながら足早に湖を目指す。
湖の先に洞窟があると言っていたので、とりあえず湖に行けばそこからはすぐだろう。
そう、湖にさえ行ければの話だが。
それから何十分か歩いた頃ー
「あー…ちょっと休憩……」
流石の葵も限界だった。
身体が言う通りに動かない。
アイルの言っていた言葉が今になって脳裏に蘇った。
『魔力切れは死と等しい』
確かにその通りで、魔力が完全回復していない身体はとても重く、休憩を挟みながら進まないといつ倒れてもおかしくはなかった。
葵は草や木々が生い茂る、太い木の幹を見つけてそこに身体を預けて腰を下ろした。
「はぁぁぁぁぁぁあああ……」
額に滲み出る汗を裾で拭いながら、盛大なため息を付いた。
葵の予定ならもう既にアンデッドの討伐を終えている頃なのだが、こうも上手く行かないのかと葵はもう一度小さいため息を付いた。
そろそろ朝日が昇るのか、木々の間からは眩しそうな陽の光が差している。
道は合っているはずなのにどうして湖に辿り着かないのだろうか。
「それに…なんだか、さっきからこの辺りをぐるぐるぐるぐる歩いている気がする……」
気のせいなら良いのだが、森の中なのでどこもかしこも同じ景色にしか見えないのに、さっきもこの花があったよなとか、この足跡もしかして自分?とかちょっとした違和感があるのだ。
定かではないが確かに感じる違和感。
とても不思議に思うのだが、それはこの眠気によって錯覚を起こしているのかもしれないと考えた。
夜中にアイルとナディルに会って、朝方に少しだけ寝て、すぐに出てきたので確かに寝不足ではある。その為、全然休まっていない脳が起こした錯覚だと思っても仕方がない……のだが、明らかに錯覚では済まされない出来事が起きているのにそう思うのはきっと自身の体力の限界を示していた。
魔力の不完全回復に寝不足が重なれば何も考えられなくなるのは至極当然である。
「……とりあえず十分……十分…だけ……」
そしてついに耐えられなくなったのか少し仮眠をとる事にした。
こうも言うことを聞かない身体を無理やり引きずっても後に響くだけだと理解したようだ。
そして、目を閉じてから数秒後、葵の寝息が聞こえてきた。




