第2話‐①
今日はクレイツおじさんと一緒にあたしの魔法の性能を高めるため、魔獣の討伐に勤しんでいた。
「葵、もっと早く魔法の発動はできないのか?」
クレイツおじさんの属性である炎を魔獣達に向けて攻撃しながら、笑顔であたしにそう言ってくる。
「え、鬼なの?」
クレイツおじさんのそんな言葉にあたしは顔をしかめた。
屋敷の近くの森で魔獣を見つけたので色々な魔法で試しながら討伐しているのだが、クレイツおじさんの教え方って独特過ぎてよく分からない。
それに普通にスパルタ。元魔導師団団長だからなのか、それとも彼の性格なのか分からないけど、笑顔で無理難題を押し付けてくる辺り、たまにイラッとする。
この国、アルスラント王国は魔法が使える分、それに見合う魔獣が存在する。豊かな自然と人口が多いため、瘴気と呼ばれるものが溜まりやすいのだ。
瘴気とは人の念のようなもの。憎悪や憎しみ、喜びや悲しみを感じる人間は、常にそういった感情に振り回される。それが溜まりすぎると瘴気になるのだ。
また、それによってその瘴気が濃くなり溜まりすぎると生まれるのが魔獣と言う生き物。
瘴気から生まれる実体のない獣の形をした魔獣は紫黒色をした瘴気を漂わせ、自我がない分、簡単な魔法で攻撃してくる。
(まぁ簡単に言うと、とても面倒くさい)
だからこうやって、いつでも闘えるように魔法の性能を高める特訓をしている訳である。
気持ちのいい暖かい風が、胸元まである漆黒の髪をなびかせる。あたしは紐で軽く後ろに縛ってから、言われたとおりになんとかやってみる。
ーボォォォッ
掌を敵に向かって構え、呪文を唱えることなく瞬時に魔法を発動させる。
炎によって攻撃された魔獣は、見る見るうちに消えていく。それを満足な時折感心したような顔で見ていたクレイツおじさんをチラッと見つめる葵。
「もう少し早くならないか?」
整えていると思われる髭をさすりながら、無茶難題を吹っかけてくる。その顔はにやりと微笑んでさえいる。
元宮廷魔導師団団長なだけあって意外と無茶な要求をしてくることが多いクレイツおじさんは、どうやら楽しんでいるらしい。
(その髭…燃やしてやろうか?)
あたしはにこっと笑い、掌にスイカくらいの炎を発動させる。
「おっと待ってくれ、冗談だ冗談」
真顔で火を発動する葵を見て慌てたように手で制止をしてくるクレイツおじさん。
「…あたしも冗談」
にこっとする表情のあたしを、クレイツおじさんは冷や冷やしながら見ていた。
あたしは発動していた炎を引っ込める。
一度、本当に少しだけど燃やしたことがあったから、クレイツおじさんの顔がヒクヒクと引くついている。
(冗談だって言ってるのになぁ…)
あたしははぁ…とため息を付いた。
こっちに来てからもう半年近く経ち、魔法にはさすがになれたのか、こんな冗談も言えるまでになった。
最初の頃は興味のない魔法やら、この国のことやらを勉強することをとても億劫に感じていた。今更新しいことを学ぼうとは思わなかったのだ。
だが、あたしの読みは外れることになる。
クレイツおじさんの教え方が上手いのか、それとも魔法に魅力を感じるのかは分からないが、魔法を楽しいと思うようになってきている。
魔法というのが存在しなかった世界にいたからなのだろうか、それとも何もかも未知な能力に興味が湧いているのか。よく分からないこの感情に戸惑いを隠せない。
もう…何も極めたくないのに……。
「葵っ!危ない!!」
「え…?」
その時、クレイツおじさんの叫び声が耳に響いた。気づいた時には魔獣があたしの目の前にいたのである。