第7話‐⑫ アイル視点
だが、アイルも男だ。
今までの葵を見てきて国の思い通りにはさせたくない。
自分から他の人を遠ざけようとするところや、一人になりたそうな素振りを見せはするが、本当は一人は嫌なのだと彼女を見ていれば分かる。
過去に何があったのかは知らないが、そんな彼女に国の重荷を背負わせた暁には、より彼女を孤独にしてしまいそうでならない。
今あるアイルのこの不安要素を見て見ぬふりをしてしまえば、この先一生後悔する。そんな不安がアイルに込み上げていた。
「…………まぁ…例えその瞬間を見なくてもヴェルディス殿の様子を見たら一発で見抜かれてしまうけれどね」
珍しく、ナディルに注意を受けるアイル。
確かに、アイルの今までの葵に対する庇いようを見ていると、葵がアンデッドを倒せると間接的に言っているようなものだ。
他の人がこの状況を見たら誰だってそう解釈するだろう。
ではどうして、ナディルには遠回しに葵がアンデッドを倒せると伝えたのかと言うと、それこそ先程言ったように危険な芽は先に摘んでおくに越したことはないないからだ。
第二騎士団長ともなれば発言の影響力は計り知れない。
そんな人物を先に丸め込もうとアイルは勝負に出たのだ。
師匠のクレイツと二人だけの秘密にするようにと言われていたが、あの状況でナディルを納得させるほどの言い訳が無く、言い訳がないなら丸め込もうと勝負に出たのだ。
だが、この判断は間違ったかもしれないと思い始めているアイルである。
「…………葵さんの存在を国に報告し、自由を奪い、国に縛り付けて団長殿はそれで納得するのですか?」
「納得するしないの問題ではないのではないか?だがまぁ、一人の人生を私の発言で縛り付けるのだから私にもそれ相応の覚悟はある」
「……覚悟?」
ナディルのその言葉にアイルが怪訝な表情になる。
アイルの嫌な予感は今までに外れたことが無い。
そしてその嫌な予感はいつだってアイルにとって心を揺さぶるほどの事だった。
「……私には今現在婚約者はいない。アオイさんにそれ相応の能力が本当に持っているのであれば、いずれ聖女と同等の地位につく事になる。そして婚約者探しが始まる事になるだろうが、いずれこの領土の領主になる私とならアオイさんの結婚相手に不足は無いだろう。私の意見でアオイさんの人生が決まるのなら私は最後まで責任を持つ覚悟はある」
アイルの予想通り、嫌な予感は的中した。
どうしてナディルの言ったその言葉が自分にとって嫌な事なのか、アイルは上手く説明できないが、嫌だというこの気持ちが込み上げてくるこの感情を無視する事はできない。
バクバクする心臓を落ち着かせながら、一度深呼吸をしてゆっくりと口を開いた。
「……聖女殿はどうするおつもりですか?」
「まだ決まった訳では無いが、いずれこの国の王太子と結婚する事になるだろうな」
まるで他人事の様な言い方である。
あんなに仲睦まじく聖女殿と話をしているのに、ナディルは聖女殿が向けている視線に気付かないのだろうか。
あれはどう見たって友人が友人に向ける視線ではない。
いや、もしかしたらそれを分かっていながら、見なかったことにしているのか……。
(とにかく……そんな無責任な男に葵さんを託すなんてことは出来ません)
アイルは苛立ちながらナディルを冷めた目付きで睨みながら口を開いた。
「葵さんは今もそしてこれから先の未来も自分で決めてもらいます、この国の犠牲になどさせません」
「……では、この国が滅んでもいいと?アンデッドは昔に一度現れて以来つい先日まで幻の生物として扱われてきた。だから対処法も何も分からないまま今の今まで問題視はされてこなかった。だが、今は違う。特別な人間でないと倒せないと改めて周知された今は、その特別な人間が見つかれば国に保護者されるのは当たり前だ。これは私達の意見でどうこうできる問題ではない、国の存続がかかっているんだ」
「それは勝手ですね?葵さんがこの国に居るというだけでこの国に縛り付けるのは少々乱暴ではありませんか?」
「……何が言いたい?」
「この国に葵さんは渡しません。勿論……団長殿にも……」
アイルはそう言うと、一方的に話を終わらせて魔法で空を飛び、借りている自分の部屋に戻って行った。
「…………。」
シンと静まり返る中、ナディルだけがそこに立っている。
ナディルはぎゅっと自分の手を握り締める。
「……私は私の出来る事をするだけだ」
その言葉は暗闇に吸い込まれていくように誰も答える者はいない。
ただ、とても真剣な表情をするナディルの視線は暗闇の中にある噴水を見つめていた。




