第7話‐⑩ アイル視点
「…さて、ヴェルディス殿の質問に答えたのだから、私の質問にも答えていただきたい…どうしてすぐ分かるような嘘を付いたんだ?」
次はアイルの番。
顔が緩んでいたのは束の間、すぐに真剣な顔つきになるアイルはこれでも宮廷魔導師団団長なのである。やる時はやるのだ。やる時は。
アイルはナディルの質問に少し考える素振りをした後、口を開いた。
「…最初は団長殿にも言うつもりは無かったのですが……厄介な種は摘んでおいた方がいいとよく言うでしょう?」
「…私は厄介な種だと?」
アイルの言葉にナディルの声のトーンが下がる。
それはそうだ、お前は厄介な人だと言われているようなものである。
「いえいえ、例えですよ例え。もしあの時、団長殿を確実に信じ込ませたとしましょう。葵さんはただ魔法が使えるだけだと。」
「…その方がアオイさんにとっていい事なのだろう?」
「えぇ…確かにあの時は葵さんにとって良い事ではありました」
「…あの時は?」
何か引っかかるアイルの発言にナディルは首を傾げる。
(えぇ…あの時は…)
アイルはナディルの目を真っ直ぐ見つめながら話を続ける。
「葵さんからしたら、バレるかもしれない嘘を信じてくれたと思っているでしょう。でもそれは、その場しのぎにしか過ぎません。それが団長殿相手なら尚更です」
「……。」
ナディルは淡々と話すアイルを見て、少し驚きの顔をしていた。
いつもはこちらの話に対して、全然見当違いの意見しか言わないのに、こんなに流暢に話すアイルにこんな一面があったのかと思っているのかもしれない。
アイルは自分の興味のある事にはとても口の回る人なのである。
「例えバレなさそうな嘘を言ったとしても、団長殿相手ならバレるのも時間の問題でしょう?」
「…私を買いかぶり過ぎでは?」
アイルの先程からの驚く発言にナディルの顔は百面相になっている。
まさかそこまでアイルの中での自分が優秀なのかと戸惑っているのだ。今までのアイルの行動からはとても想像できない事なのである。
そんなナディルの事なんてお構い無しにアイルは話を続ける。
「いえ、団長殿は確実に嘘を見破ったはずです。一生懸命隠そうとする嘘なんてすぐバレるでしょうし、完璧な嘘に完璧は存在しません。必ずどこかでボロが出る……それに、相手は団長殿です。確実に付く嘘より、バレる嘘の方がこちらとしても助かるんですよ」
「助かる?」
「えぇ…完璧すぎるほどの嘘は返って怪しまれます…もし、団長殿に完璧な嘘を付いた場合、団長殿なら必ずの確率でその完璧な嘘に探りを入れるでしょう…。こちらの気持ち云々の前に、嘘を見破った暁にはもしかしたら国に報告をするかもしれません。そう…その様な行動をさせたのは完璧な嘘を付いたから。だから逆に矛盾過ぎる穴だらけの嘘を付いたら、人は逆に慎重になるのではないでしょうか。どうしてそんな分かりやすい嘘を付いたのか、どうして相手を庇っておきながら相手を裏切る様な行動をしたのか。既に真実は分かっていながらその事で頭がいっぱいになり国に報告するどころの話ではないですからね…人間の心理を利用しただけですよ」
顔色一つ変えずに言い切ったアイルはニコリと怪しく微笑んだ。
話を聞いていたナディルは、眉間に皺を寄せている。
「………私はヴェルディス殿の言葉に踊らされていたという訳か……ヴェルディス殿は私が国に報告するのを阻止しようと?」
「五分五分でしたけどね…必ずしも国に報告するとは限りませんが、団長殿なら最終的にはそうしただろうと……それに先に話していた方が話が早いではないですか?わざわざ説明しなくても、阻止することもできますし、場合によっては話し合いで済むかもしれません。それに…葵さんは自由を好む女性です、国に縛られず自由に生きてほしい…そう思っているだけですよ」
アイルの表情は至って真面目だ。
だが、そろそろ飽きてきたのか右手で風の魔法を発動し小さい渦を作り出している。
決して、先程のようにナディルに向かって魔法を放つつもりで発動させているのではなく、ただ単に飽きてきたからである。
自由に生きてほしいと言うのは自分自身が一番自由人であると認識しており、尚且つ神谷葵という女性に対して少なからずの感情を持っているからなのだろうか。
はたまた、自由になりたい気持ちはアイルが一番嫌という程分かっているからなのだろうか。
どちらにしろ、アイルは葵の味方だと言う事である。




