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第7話‐⑨ アイル視点



アイルの制止も聞かず、葵はアイルを押し退けて強引に扉を開けて中に入ってしまった。

それと同時にガチャリと扉の鍵を閉める音まで聞こえてきた。


「……。」


その音にアイルは気のせいかなと首を傾げながら、とりあえず扉に手をかけて開けてみる。


ーガチャガチャ


「………。」


気のせいでは無かったみたいだ。

月明かりと、時折風に揺れる葉のこすれる音、そして暗闇のこの庭に、乾いた音だけが響いた。

アイルは「はぁ…」とため息を付きながら、扉から手を離した。

強引過ぎたとはいえまさか、玄関の扉の鍵を閉めるとは思ってもいなかった。アイルにとって不覚である。だが、先程の行動に対して後悔などしていないし、反省するつもりもない。アイルはただ己の気持ちに従い行動しただけであった。

まぁ…扉に関してはさほど気にしていないのだが。

扉から入れないのなら空から…いや、もう少し分かりやすく言えば部屋の窓から入ればいいだけの事。アイルにかかれば魔法でどうこうできるのである。


(…さて……そんな事はさておき……)


アイルは自信の背中に突き刺さる視線を鬱陶しく思いながらもそちらに向き直った。


噴水の前に立つナディルが険しい表情でアイルを見つめていた。

二人の距離はざっと三メートルくらい。この距離でナディルの表情が確認できるのは月明かりのお陰である。


アイルはコツコツと黒いブーツを鳴らしながら、ナディルとの距離を詰めていく。静寂な広い庭に不気味に響く音。アイルのその動きを無言で見つめ続けるナディル。

二人の間に何とも言えない雰囲気が流れる中、一メートルくらいの所でアイルの足が止まった。


「……。」

「……。」


お互い見つめ合うがとても話す雰囲気ではない。

昼間の二人とはまるで違い、敵対心丸出しである。


「……どうして葵さんの話を否定しなかったのですか?」


この沈黙を破ったのはアイルだった。

アイルはこの何とも言えない雰囲気に気付いているのかいないのか、そんなの気にも留めていないのかナディルの返事を待っている。


(…おそらく、団長殿は葵さんがアンデッドを倒したと気付いている。いや…気付いていないとおかしい…)


そう確信しているからか、先ほどの発言はナディルがそれを承知している上での言葉だ。

ナディルはアイルのその発言に眉間に皺を寄せながら口を開いた。


「…元はと言えばヴェルディス殿が言ったのではないか?アオイさんはアンデッドを倒していない…と」

「おや…そうでしたか?」

「……。」


アイルはナディルの指摘にとぼけた顔をする。

それを見たナディルははぁとため息を付きながら話を続けた。


「…昔読んだ、アンデッドに関する文献にこう書いてあった。‘黒い球体から次々と湧いてくる紫黒色を帯びたアンデッド。そのアンデッドをいくら倒そうと、黒い球体がある限り確実に殲滅させることはできない…’。その言葉を要約すると、黒い球体さえ殲滅させることができればアンデッドも自然と消えるという事だ。にも関わらず、黒い球体は消え、アンデッドは森の奥に逃げて行ったという…とてもじゃないが矛盾しすぎている。黒い球体なくしてアンデッドは生まれない…そして、黒い球体を殲滅ぜずにアンデッドは殲滅できない……ヴェルディス殿、宮廷魔導師団団長の貴方が知らないはずないと思うが?」

「……えぇ、そうですね」


ナディルのいう事はごもっともである。

聖女の椿、葵ならともかく、ナディルは第二騎士団長、アイルは宮廷魔導師団団長である。すぐにバレる嘘をどうして付いたのか。アイルは澄ました表情のままナディルを見つめる。


「…何故、こうも分かりやすい嘘を?」

「……では逆に聞きますが、嘘だと分かっていて何故、それを指摘しなかったのですか?」

「…先に質問をしているのは私なのだが……」


アイルの悪い癖である。

相手から質問をされているのに、その質問には答えずこちらの意見をずかずかと言ってしまう。

葵はそんなアイルにうんざりしていたのだが本人はそんなの全く気にしていないのだろう、ナディルにも同じような事をしてしまっているのが何よりの証拠だ。

そんな調子のアイルに流石に慣れているナディルはもう諦めようと思ったのか口を開いた。


「…そんな分かりやすい嘘、私が気付かないはずがない…それを分かっていてわざわざ話してくるのだから何かあると思って指摘はしなかった…それに、彼女もこれ以上聞いてきてほしくないという顔をしていたからな…」

「……あぁ、葵さんて顔に感情が出やすい性格ですからねぇ」


アイルは腕を組みながらうんうんと頷いている。

頷くところがとてもズレてはいるが、ナディルが何も突っ込まないところを見ると、アイルにとってこれは通常運転なのだろう。

そして、葵の話になると表情が緩むことはアイル自身気付いていないのである。


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