第7話‐⑥
「………は?」
目の前に突き出された自分の羽織を見て、ナディルは間の抜けた声を上げることしか出来ず、突き返された羽織をとりあえず受け取った。
状況が読み込めないでいるナディルは、受け取った自分の羽織を数秒間見つめた後、アイルと葵の方を向いた。
「どうぞ、こちらをお使い下さい」
「……ん?……えっ?」
そう言うアイルの手には、白いローブが握られていた。
聞かずとも、先程までアイルが羽織っていた物である。葵はアイルとローブを交互に二度見する。なぜアイルがこういう行動に出ているのか何一つ分からず混乱しているからだ。
(…えっと?あたしは…どうしたらいい訳?)
混乱する頭をフル回転させるが良い答えが出てこない。
(………て言うか、あたしはさっきとても恥ずかしい事をしたから、アイルの目の前からすぐにでも消えたかったのに…。)
いつの間に普段のアイルに戻ったのか、さっき葵が言った『…あたしの目を見てください!』と言う行動に突っ込みを入れるどころか、恐ろしい行動をとっている。
いや、突っ込まれないのならそれで良かったが逆にやりにくいし、差し出されているローブをただただ見つめることしかできなかった。
「………失礼しますね」
「っ……」
すると、しびれを切らしたのかアイルが葵に近付いてきた。
ビクッと肩を揺らす葵にお構い無しに、アイルは無言で葵の肩に自分のローブを掛ける。
まだ温もりの感じるそのローブから、ほんのりと石鹸の良い香りがしたのはきっと気のせいだ。
アイルが先程の葵の言葉を気にしていないのなら、こちらもいつも通りの対応をしよう。
葵は肩にかけられたローブをチラッと見た後、アイルに向かっておずおず口を開いた。
「えっと……どういうつもりですか?」
「…?どうとは?」
アイルは何事も無かったかのように首を傾げている。
そんなアイルを見て今すぐにでも殴ってやりたいがそうもいかないので、さっきから放心状態のナディルを横目に話を続けた。
「…このローブですよ。ナディル様が先に掛けてくれたのをどうして突き返したんですか?百歩譲ってあたしが突き返すなら分かりますが、何故貴方がその様な行動を?」
「………おや、お気に召しませんでしたか?」
「……………はい? 」
アイルは「ふむ…」と顎に手を当ててそう言った。
(…は?いやいやちょっと待て、そういう事じゃなくない?あたしの質問に何一つとして答えてないよね?)
「どうしてそんな行動をした?」と言う質問に対しての返答がどうして「お気に召しませんでしたか?」になるんだ?
こんなの小学生でも答えられるような質問だろうに、どうしてこうも話が通じないのだろうか。
(…ダメだ頭痛い……これ以上考えるのはやめよう…)
葵はこめかみを両手で優しくぐりぐりした後、深呼吸をして口を開いた。
「………あの、申し訳ないのですが…このローブはお返しします」
「では行きましょうか葵さん」
「…えっ…!?はっ?ちょ…何!?」
すると急に、目の前にいたアイルに腕を掴まれた。
ローブは返すと言う葵の言葉に何も答えず、アイルは葵の腕を掴んだまま本邸の方に歩き出した。
葵は何が何だか分からず困惑の表情を浮かべたまま、目の前を歩くアイルに声を上げた。




