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第7話‐④



「……」

「……」


お互い向かい合わせになって無言のまま立っているこの様子を誰かが見たらきっと訳が分からないだろう。だって、葵だって訳が分からないのだから。それに、その場は静寂でも葵の頭の中はとてつもなくフル回転MAXの騒がしさであるが。


「……アオイさん」

「っ……」


すると突然、後ろから聞いた事のある声が葵の名を呼んだ。

明らかにアイルの声とは違う、同じく昼間に聞いた事のある声。


「……ナ、ディル…様?」


振り返るとそこには、昼間の騎士服ではなくゆったりとした部屋着を着たナディルが不思議そうな顔で立っていた。


「…こんな夜中にどうしたんだい?」

「……えっ…と………」


まさか、ここにナディルが来るなんてこっれぽっちも思っておらず、良い言い訳を考えていなかった。

下手な言い訳をすると、変な誤解を生みそうでそう軽々しく口にはできない。

確かに最初は噴水が気になって外に出てきたが、今葵の後ろにはアイルが居る。アイルが居なければそんな理由も信じてくれるのだろうが、今のこの状況を考えるととても信じてもらえそうにない。

葵は困った顔を浮かべる事しかできず、何か良い言い訳はないか考える。


「…わたしとお話をしていたのですよ団長殿」

「っ……」


すると、返答に困っていた葵の後ろからアイルの声が聞こえてきた。

それと同時にコツコツと足音が聞こえて、葵の横で止まる。

葵はまさかアイルが助け舟を出してくれるとは思っていなかったので、びっくりしすぎてビクッと肩を揺らした後、隣に来たアイルに視線を向けた。


「…ヴェルディス殿?ヴェルディス殿も一緒だったのか」

「えぇそうですよ。色々とお話をしていたのですが…団長殿は何故ここに?」


アイルはニコニコと何か含みのある微笑みをしながら、ナディルに話を振る。

いつも思うが、唐突に何かを言われてもそれにすぐ順応するアイルは普通に凄いと思う。それと比べると葵はこの場に居る言い訳さえできないのだから、こういう時ほど己の力量が足りないのだとつくづく思う。


(…それにしても、色々とアイルに対して突っ込みどころ満載なのだが…まぁ今はあたしが口を出すべきではないか……)


葵は空気を読んで、二人の様子を見守ることにした。


「部屋から外を見ると、こんな夜中にアオイさんが庭に居たので気になって…まさかヴェルディス殿が居るとは思いませんでしたがね」


ナディルは裏がありそうな微笑みを浮かべているアイルなんて気にしていないのか、淡々とそう述べた。

そして、その言葉を聞いていた葵が何故か眉間に皺を寄せる。


(…部屋から?しくじった…まさか、ナディルさんの部屋からここが見えていたとは……)


葵はナディルの後ろに広がる本邸に視線を向けた。

いくつあるのか分からない沢山の立派な部屋の窓がここからでも見渡せる。それに、葵が借りている部屋のバルコニーも勿論ここから見えた。

これだけの部屋数があれば見られる可能性は大いにあり、その事に頭が回らなかったのは自分の落ち度である。葵ははぁと落ち込み気味にため息を付いた。


(あたしの悪い癖だ…目の前の事しか見えていなくて、周りの注意がてんでダメになる…)


そして、暗いからと言って必ずしも姿が見えないとは限らない。

世の中には夜目が効く人だっているのだから、自分が見えなくても他の人は違うのだと改めて再認識させられた。そして、これからはもっと周りにも注意を払って行動をしようと、葵にしてはとても素直な反省を心の中でしたのだった。


「…おや、わたしが居て何か不都合が?」


アイルはナディルの言い分をどんな風に捉えたのか、少し喧嘩口調でそう言った。その言葉と低いトーンに驚いた葵はアイルの方を向く。暗くてよく見えないが間違っていなければアイルがナディルを睨んでいるように見えた。

御気の毒様…と同情しながらナディルを見ると、本人は何も思っていないのか表情が変わっていない。いや、それか表情に出ていないだけで、心の中は荒れているんだろうか。

漫画とかをよく読んでいると、貴族はどんな時でも堂々としているもの…とか、考えている事を表情に出してはいけないとか何とか誰かが何かの漫画で言っていた気がする。

ナディルはここカルディオン領主の息子だし、貴族ではあるのだからそういう事の一つや二つ言われた事はあるんだろうなぁと他人事のように考える。

まぁだが、実際はどうなのかは分からないので、それに関しては同情もくそもないのだが。


「いえいえ…私はただとても冷える夜遅くに女性が外に居る事に疑問を持っただけだ…それはそうとお二人はここで何を?」

「……世間話ですよ…ね?葵さん?」

「…………へっ?」


ナディルは自分の話を早々に切り上げて、今度は葵とナディルについて聞いてきた。

そして、アイルは今まで聞いているだけの葵に対して話を丸投げした。話を振られるなんて一ミクロンも思っていなかった葵はそりゃもう油断していたので、変な声が出てしまった。


(…はぁ?変なところであたしに話振ってこないでよ…ボケナスめ…)


だが、ここでアイルの言葉を否定したら、では何故ここに居るんだとか言われそうなので、ナディルの視線を受けながらもその言葉に同意する事にした。


「…えぇ…まぁ……」


弱々しい声で答える葵を見て、ナディルは少しの間を置いてから「……そうか」と返事をした。

それなのに疑わしげな表情を向けてくるところを見ると、どうやら嘘だと分かっているのだろう。葵がアイルの言葉を同意したからそれ以上言ってこないだけで、きっと言いたいことは沢山あるはずだ。

流石よく耐えたなとナディルに感心する。


それだけではない。

誰だって、こんな夜中にこのメンツがここに居たら、疑問に思わない方がおかしい。だが、これは不可抗力である。何回も言うが、葵はただ噴水を近くで見るためにここに来ただけで、葵自身まさかこんな所でアイルと遭遇するとは思っていなかったので、その事実に驚いているのだ。


葵はチラッと横に居るアイルを流し見た。

アイルはナディルの方を見つめており、その表情は先程とは違いニコニコしている。この顔、見たことがある。そう、それは葵をからかっている時によくする表情だ。どこで、アイルの子供心をくすぐったかは知らないが、とても面白がっている。

まるで見た目は大人、中身は子供……いや、男性はいつになっても心はガキと言うし変わらないか。


「…二人がここで世間話をしているのは止めないが、時間と場所を考えたらどうだ?今夜はとても冷える、そんな薄着で長時間ここに居ては風邪を引いてしまうよ」


前者はアイルを見ながら、後者は葵を見つめながらナディルは二人を窘めた。アイルと葵の扱いが何だか違う気がするが今は気にしないようにしよう。


葵はナディルの言葉に自分の服装に目線を移した。

生地の薄いネグリジェの上に、薄いカーディガンを羽織っただけのその格好は、確かにこの季節には不釣り合いだ。しかも、夜中とくればそれはそれは見ているだけでこちらまで寒くなってくる。

こんなに長く外に居る予定ではなかったのでこれで来てしまったが、そんなの言い訳に過ぎない。外に出るのなら最初から厚着をして来ればいい話なのだから。

この薄着で来たらそりゃ指摘されるに決まっている。


「…そう、ですね…宮廷魔導師団団長さんに会ったのは不可抗力にせよ、この格好でこの時間この季節に外へ出るべきではありませんでした…本当にすみません」


葵はそう謝ると軽く頭を下げた。

葵の良い所は自分が悪いと思ったらすぐに謝るところだ……勿論相手がアイルなら話は別である。

また、謝るついでにアイルとここで会ったのは不可抗力なのだと少し強めにその部分を強調できたことに葵はとても満足していた。なので、少し気分が上がっているせいか、頭を軽く下げたつもりがいつもより十度くらい角度が下げっているのは本人は知らない。


「っ……アオイさん頭を上げてくれ!私はただ心配のあまり言っただけで何もアオイさんが謝る必要はない」

「…いえ、ナディル様のご指摘はご最もでしたので……ご迷惑おかけしてすみません」


葵は頭を上げながら、何故か焦っているナディルに追い打ちをかける言葉を言い放った。決して、不可抗力でアイルに会ったと言えたことを喜んでテンションが上がっている訳ではない。

…のだが、葵の表情はとても緩んでいた。それを見たナディルは色々と理解したのか、申し訳なさそうな表情で口を開いた。


「……いや、私も色々と失礼した…すまない」

「いえいえ、分かってくれたのなら良かったです」


最後には、何故かナディルが葵に謝る形になっていた。

葵の不可抗力で会ったという言葉を信じてくれたみたいで、決してここで待ち合わせをしていた訳ではないと納得してくれたようだ。

葵からすればそれさえ信じてくれれば何もいう事はない。

ナディルから逆に謝られるという驚きはあったが、それはそれ、これはこれ。とりあえず葵はとても満足していた。

その証拠に、普段見せることのないとても緩んだ表情をナディルに向けていた。


「っ……」


葵は自分の緩んだ表情を気にしたことはないのだろう。普段ほとんど笑わない葵にとって、そんな人が急に笑顔を振りまいたらどうなるのか。もう一度言う、葵は一度も考えたことがないのだろう。

そして、目の前にはその犠牲ともとれる頬と耳を赤く染めるナディルがいた。彼がその葵のギャップに衝撃を受けた第一号である。



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