第1話‐③
…魔法。
この国、アルスラント王国は魔法王国と呼ばれるほど、魔法に精通している。クレイツおじさんが団長を務めていた宮廷魔導師団がいい例だろう。
魔法を使えるのは主に貴族が中心で、稀に平民から魔力持ちが生まれることはあるが、ほぼ無いと言っていい。
そんなこともあり、ポーションは魔法を使えない人たちや、討伐によって怪我をした王宮の騎士団たちに、簡易的ではあるがポーションが親しまれている。
ただでさえ、魔力持ちは限られているというのに、怪我を負ったら派遣するとかになったらそれこそ大変だ。それに加えポーションは量産出来るメリットがあるから、それだけいろんな人に行き渡る。
また、怪我の他にも体力の回復などにも役に立つためこの国にとってはポーションは必要不可欠な存在である。
(いやぁ…魔法が使えるというだけで驚きなのに、ポーションまで作れるとか…考えた人凄すぎ…)
葵はうんうんと頷きながら納得の表情を浮かべる。
葵のいた日本では考えられない。そもそも魔法自体が存在しなかったので、使えるだけでまるでおとぎ話の世界にでも入り込んだかのよう……いや、異世界に変わりは無いのだが。
「じゃあここで復習だ」
「……は?」
自分の世界に入っていた葵がクレイツおじさんの言葉で我に返る。
少し考えた後、面倒くさそうな怪訝な顔でクレイツおじさんを見る。
当の本人はとても楽しそうな顔をしていた。
「ポーションとは何だ?」
急に始まったクレイツ先生の復習タイム。
はぁとため息を付きながらも、楽しそうなので何も言えない。
素直な気持ちを言うととても面倒臭いが、少し付き合ってあげようと覚悟を決めた。
「……ポーションとは、怪我した時の傷や体力の回復を手助けしてくれる、まぁ簡単に言えば万能薬、けど使い方を誤れば毒にもなると言われる薬」
「正解だ…じゃあ魔力持ちの俺たちが魔力を持たない人たちに対して、出来ることは何だ?」
魔力持ちと魔力の無い人。
ほぼ貴族しか持っていないと言われる魔力は、一部の貴族を傲慢とさせているらしい。それに対して貴族であるクレイツおじさんはその人達とは真逆で平民に対してとても優しく、何ができるのかと毎日模索しているという。
あたしに色々と教えていく中で、これが一番大事な事だと何回も言っていた事なので流石に忘れるはずがない。
あたしは摘んだ薬草を見つめながら口を開いた。
「魔力持ちなら…魔獣や魔物の討伐はもちろんだけど…」
そこで一旦言葉を止めて目を細めながら言葉を続けた。
「…ポーションを作って…少しでも平民の生活の暮らしを良くすること…」
最後まで答えるとあたしはクレイツおじさんの方を向いた。
真顔だなと思った瞬間、いつものようににかっとえくぼを作ったクレイツおじさんがいたので、安堵する。
「正解。俺は…俺たち貴族が生活できるのは、街にいる人たちのお陰だ。その人たちに何ができるのかと考えたら…この年寄りにもできるのはポーション作りって訳だ」
とても真剣な表情で語るクレイツおじさんがとても眩しく見えた気がした。
どうしてそこまで真剣に考えることができるのだろう…どんなに一つを極めたって無駄なだけなのに…。
葵にはそんな真っ直ぐなクレイツおじさんは眩し過ぎた。自分とは真逆だなと思いながらも言葉には出さない。
「そうだろう?」
その言葉にあたしは視線を背ける。
掌をぎゅっと強く握りしめ「そう…だね」と、力なく頷くしかなかった。