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第6話‐⑨



先程、森の中でアイルが経験した出来事を思い出しながら、クレイツに後押しする。


「わたしはもう師匠の協力者なのですから、言わないは無しですよ?」

「……」


そう言うアイルは微笑んではいるが、裏にドス黒いモノが見える。

相手は師匠なのにも関わらず容赦がない。

そんなアイルの性格を痛いほど分かっているクレイツは、ふぅと深呼吸をした後口を開いた。



「……なるほど…………」


一通りクレイツからアオイについて話を聴き終わったアイルは、顎に手を当てて考え始めた。


今の話をアイルなりに考えてみる。

まず、古い文献に書いてあった内容と比べよう。

昔の文献に書かれていた、異世界から来た平民の男性がアンデッドを殲滅したという記述とアオイさんがアンデッドと黒い球体を殲滅したと言う事実。それらを比べてみてもわかる通り、状況がほぼ同じだ。

それだけでも似ているのに、昔の聖女がアンデッドを殲滅できなかった事に対し、アオイさんも聖女ではなく、魔導師でもない。アオイさんも一応平民としてアンデッドを殲滅した状況は、文献に書かれていた男性と一緒で、否定のしようもない紛れもない事実。


それにー


(アオイさんは実は異世界から来た人だったとは……)


確かに言われてみれば森の中で拾われたと言っていたが、異世界から来たのだとすればその状況はなんら不思議ではない。

まさか、そう言う理由で森の中に居たとは誰が想像出来るだろうか。

アイルは森の中で拾われたという話を聞いて、てっきり魔物にでも食べられに来たのかと思っていた。

森の中は魔物の巣窟。大抵の人は森には近寄らないくらい危ない場所であるからだ。


「葵の本当の名前は神谷葵……お前達にはアオイとしか言われなかっただろ?」

「えぇその通りです」

「ただでさえ異世界から召喚された聖女様がいるのに、性を名乗ったら異世界人だとバレてしまうからな。葵にはアオイと名乗るように伝えておいたんだ」

「なるほど……それは確かに賢明な判断でしょうね。確かに外見などは聖女様に似ていますが、名前がアオイだけだと異世界人なんて思わないでしょうから。わたしも今の今まで何の疑いも持っていませんでしたし」


アイルでもそこはなんの疑いも持っていなかったので、ナディルや聖女も恐らくそれには気付いていないだろう。

だが、異世界から来た聖女と特徴が似てるのには変わり無いので、本人には言動などに気を付けて頂きたい。


(それにしても……神谷葵さんなんですね、本当の名前は……葵さん……)


名前は一緒なのか葵とアオイで言い方はどちらも一緒だ。だから疑いはしなかった。アオイと言われてどこも違和感なかったし、この国でありそうな名前なのでより分からなかった。

だから、クレイツに本当の名前を言われた時はとてもびっくりしたし、名前を知れて嬉しいとまで思うほどだった。

三人しか知らない秘密。

そう思うと自然と頬が緩む。とても嬉しいのだと顔に書いてあるのが分かるが、もちろん本人はそんな表情をしているのに気付いていない。


「勿論この話も他言無用で頼む」

「心得てますよ」


アイルの中ではそれを言う気などさらさら無い。

葵の事を教えて欲しいと言ったのはアイル本人であり、この興味深い話を他の人に伝えては色々と面白くないのである。それにこの話を誰かに言った暁には王家の耳に入るのも時間の問題と言えよう。

クレイツとの約束もあるし、一番はやっぱり己の自己満足なのである。


「そして話は変わるが……先程、アイルが居なくなった後、葵と少し話をした。俺は葵の事だから洞窟にいるアンデッドを倒しに行くと言うのかと思っていたのだが……」

「……行かないと?」


アイルははて……?と首を傾げる。

どうやらアイルには引っかかりがあるようだ。


「?あぁ……昔の文献では聖女は殲滅できなかったと書いてあるが、今の時代はそうとは限らない……もしかしたら聖女でも殲滅できるかもしれないから、とりあえず様子見するだと」

「…………本当に葵さんがその様に言っていたのですか?」

「嘘なんて付いてどうするんだよ」

「…………」


クレイツは訝しげな目をアイルに向けながら少し苛立っている。

アイルがそこまで怪しむもんだから当然だ。嘘を付く理由もないのに疑われるのはとても癪である。

ただそれでもアイルにはどこか引っかかるらしく、腕を組んで今までの葵の行動を思い返してみた。


(危なっかしい彼女の事だから絶対行くと言うと思っていたのですが……)


少ししか話していないアイルだが、少なからず葵の性格は十分理解していた。それもそのはず、本人は分かっていないだろうが、葵はすぐ感情が表に出る。

危なっかしい一面や、無理をする性格。はたまた、素直じゃないところや、からかうと直ぐに顔が赤くなるなどなど。これほどまでにアイルを楽しませてくれる女性に会ったことがなかったので、彼女の一つ一つの行動はちゃんと見ていた。

だから、アイルも葵は無茶をしてでも付いてくると思っていたのだが。


(あんな無茶で危機感の無さすぎる葵さんが、様子見で本当に終わるのでしょうか……)


師匠の言葉を疑うつもりはないが、葵の行動を思い返すとその言葉が嘘にしか聞こえない。


(……?嘘?もし……かして…………)


考え込むアイルを横目で見ながら、クレイツは難しい顔をして話を続けた。


「……だがもし聖女が殲滅出来ないのなら自分が責任をもって殲滅すると言っていた……そうなったら葵が行かなければならないのは分かるが少しくらい躊躇いとかあっても良いだろうに……はぁ……もう少し自分を大切にして欲しいのだがな……」


ため息を付きながら、クレイツは呆れている。

まぁ無理もない。葵の身を案じて言ったのにも関わらず、全然本人には伝わっていないのだから。


「……先程も同じことを言いましたが、全然伝わっていませんでしたもんね」


ため息を付くクレイツにアイルはニコニコと微笑みながら、なにやら確信めいた顔をしていた。


葵は鈍感なのかそれとも天然なのかは分からないが、自分の事はどうでもいいという雰囲気が伝わってくる。

アイルも大概似たようなものだが、あれほどまでに自分の事を蔑ろにしている様子を近くで見ようものなら放っておくことなど誰ができようか。

少なくともアイルでさえ出来ないのだから他の誰にも出来まい。

師匠がこう心配性になるのはもはや仕方の無い事なのかもしれないと、ふむふむ考える。


そして、無茶ばかりする葵が本当はアンデッドの殲滅に行くのを決心していたとして、心配性のクレイツを心配させずに納得させる為にその様な嘘を付いているのだとしたら。

そう考えるアイルはニヤリと怪しい笑みを浮かべた。


(まさか……師匠を出し抜くとは流石葵さんですね)


近くで己の師匠が振り回されてるのににこにこした笑みを浮かべるアイルは確実に性根が腐っているとしか言いようがない。

きっと、黙って行ったらクレイツは激怒どころではな済まないだろうと分かっていながらも、葵の決めた事に口出しはしないようだ。アイルは成り行きに任せることにしたらしい。

憶測に過ぎないが、今までの葵を見てきたアイルは九十九パーセント当たっているだろうと確信を持ちながら。


「アイル……もし葵が行く事になったらアイルも付いて行ってほしい…できる事なら俺が一緒に付いて行きたいが、フェルネスの監視があるから厳しい」

「……それは構いませんが……わたしに出来ることはあるのでしょうか」


(魔獣や魔物も倒せて、しかもアンデッドまで倒せるときたらわたしの出番はないのでは?あの森で見た葵さんのあの力、わたし自身でも初めて目にしたとてつもない力でしたし、むしろわたしが行っては足手まといになるのでは……まぁあの力をまた目にできるのであれば何でもしますが……)


考え込んでいるアイルをチラッと見てから前を見据えてクレイツは重い口をゆっくりと開いた。


「……アイルには葵を護衛してもらいながら…もし葵が少しでも怪我を負ったら軽症だろうと治癒の力で治してほしい」

「……?別に構いませんが……護衛ならまだしも治癒ですか?確かに力を温存するに越したことはないので同行する事になったらそれくらいはします……ですが、軽症くらいならさほど魔力の消費に影響ないはずなのでご自身で治した方が早いのでは…?」


クレイツの強い言い方にアイルは疑問を持った。

確かに、行くとなると護衛は必須だ。魔法が使えるとはいえ身辺の警護は大切だし、それを自分に頼むのも分かるのだが、どうしてそんな怪我にこだわるのか理解できない。

葵さんほどの魔力を持っていれば怪我の治癒など容易いだろうし、特に自分で治した方が何より早い。

他の人に治してもらうのと、自分で傷を治すのとではその治りの速度や治り具合が全然違う。

そして、魔力の持ち主であっても得意不得意があるわけで、痛みを伴う事も多い。なので、魔力持ちは大抵の場合、自分で治すことの方が断然多いのだ。


因みに、他の人に治してもらうとすれば、魔法が使えない人、魔力持ちの本人が重症などで弱っているなど、自身で治療が出来ない場合に他の人に治してもらう。

葵さんの場合、何回も言うが自分で治した方が迅速かつ痛みを伴わない。治すのが嫌なのではなくその方が手っ取り早く安全だからだ。

それに…アイルの治癒の力は得意と不得意どちらかと言えば不得意の中に入る。昔、散々クレイツと治癒の練習をしたが一向にして上達しなかったのでアイルの中では苦手の部類に入っていた。

それを知っているはずのクレイツがどうしてわざわざ自分自身で治せる事をアイルに頼むのか、疑問以外の何者でもなかった。


そんな事を考えている顔だなとクレイツがアイルの考えていることを当ててから続きを話し出した。


「……葵は()()()()()()なら何でも治せるんだ……それも瀕死の状態になっていたとしても…だが、葵自身はそうはいかない。例え掠り傷程度の軽症だろうと()()()()()()()はこれっぽっちも治すことができないんだ」

「………え?ちょっと待ってください…他人の怪我は瀕死の状態だろうと治せるのに、自分自身の怪我は例え掠り傷だろうと治せない?」


クレイツのあまりの衝撃発言にアイルは目を見開いた。

とてもじゃないがそんな話聞いたことがない。アイルは驚きと動揺が隠せない表情をする。

そんなあまりにも信じ固い話が本当に存在するというのだろうか。


「あぁ…俺も最初はとても驚いたが、今まで怪我をしてはその度に俺が治していた」

「……」


師匠は治癒の力の使い手だ。そんな人が近くで見ていたのなら本当の事なのだろう。

それにしても、他人の怪我は治せるのに自分の怪我は治す事ができないとはとても理解し難かった。

他人に向けるそれと己に向けるそれの魔法に何の違いがあるのか。

考えても考えても余計分からなくなってくる。そしてまた、どうして自分の怪我は治せないのか。という疑問に行き着いてしまう。

一つだけ分かるのは、アイルにとって興味のそそられる話を聞いてしまったという事だ。


「…傍から見たらとんでもない魔法を使うから大丈夫と思うだろうが……そんな事は決してない。魔力を持っている人達の中で葵は一番弱い。例え…アンデッドや黒い球体を殲滅する力を持っていようがな…」

「……」


真剣に話す師匠の話を聞いて別の意味で納得がいった。

アイルでも異常とも思えるクレイツの彼女に対する心配性は、そう言う理由だったのかと。

道理で師匠は怪我に対して敏感になっていたわけか。

自分自身の怪我を治せないのならその反応も頷ける。しかも、あの危険な森に行くのだから尚更だろう。

それに、魔力持ちでアンデッドまでも殲滅できるのに、己の怪我を自分自身で治す事ができないのだ。とても納得のできる理由だった。


チラッと師匠の方を見ると、とても複雑な顔をしていた。

最初はどうして師匠が彼女の為に王家にすら彼女の魔力を隠してまで己の身を危険にさらしているのだろうと、協力するとは言いながらも疑問に思っていた。だが、今の話を聞いたらそうせざるおえなかったのだと結論に至った。


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