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第6話‐⑧




「……?」


間一髪で支えた彼女は何が起きたのかよく分かっていないようで、目をぱちくりさせていた。

自分が倒れた事すら分かっていないようだ。

そんな彼女にアイルは冷静に声をかけた。


「……大丈夫ですか?」


もう限界なのだろう。

聖女でも魔導師でも無い人があれだけの魔力を放っていたのだから当然だ。魔力切れにならない方がおかしい。

彼女はその言葉に反応するかのように口を開いた。


「…だいじょう…ぶ…」


そんな、絞り出すような声がアイルの耳に聞こえてきた。今にも力尽きそうな声が。

アイルは彼女の黒い瞳を見つめる。

目線が交わり彼女の顔をやっと見ることが出来た。綺麗な黒髪が特徴のこの国では珍しい黒髪黒目だった。

聖女様の特徴と似ているなと思いながらも、普通の女性にしか見えない彼女があの莫大な魔力を放ったのかと思うと今でも信じられなかった。


「……」

「……くそイケメンじゃねぇか…」

「…………………………」


彼女の口が動いたと思ったら変な言葉が聞こえてきた。

今度はアイルが目をぱちぱちと瞬きさせ、くそいけめん?と脳内に疑問符が浮かび上がる。


(くそいけめんとはどういう意味でしょう?)


ただでさえ、魔法のことしか知らないのに変な言葉を使われても何を言っているのか分からないし、反応に困ってしまう。

ただ、そんな事情は彼女は知らない。


一つだけ分かるのは、恐らくこの状況で言うべき言葉ではないだろうと言うことだけ。

彼女はアイルの顔をじーと見つめている。

反応を確かめているのか、アイルからの返事を待っているのか分からないが意味がわからない以上返答のしようもない。


(えっと……どうすれば……)


と困っていたら、急に抱えている彼女の身体が重くなるのが分かった。

一気に力が抜けたのか、重心がアイルの腕にのしかかる。

限界を超えたみたいだ。辛そうな表情から少しだけ落ち着いたのか安らかに目が閉じていた。


「アイル…?」


彼女を見ていたら後ろからクレイツの声が聞こえてきた。

アイルは彼女をお姫様抱っこして、師匠に向き直る。


「お久しぶりですね師匠」

「…アイル?どうしてお前がここに……」


師匠は重い身体を何とか起こし、その場に立ち上がった。まだフラフラしているようだが特に問題はないようだ。


「おや……?師匠が我々を呼んだのをお忘れですか?」

「…あぁ………今日着いたんだな」


クレイツは頭をガシガシ掻きながら、アイルの抱えている葵に視線を移した。


「葵は……」

「大丈夫だと思います。ただの魔力切れかと……」

「そうか……」


その言葉を聞いて安心したのか肩の力が抜けている。

どうやらクレイツはそれほど彼女の事を大切に思っているようだ。


「師匠……彼女は一体何者なのですか?」

「……いつから見ていた?」


急にクレイツの表情が曇った。

突っ込んで欲しくないところをどうやら突っ込んだらしい。

だが、アイルは止まらない。一度でも興味を持ったらとことん追求するのが彼だ。


「うーん……謎の雄叫びを聞いた後すぐにここに来たので……」

「……はぁ……そうか。じゃあ確実に葵の魔法を見ていたんだな」

「えぇそうですね」


間髪入れずにそう答える。

クレイツは困った顔をしてため息を付いた後、急に真剣な顔になった。

その顔は昔よく見ていた師匠の顔だった。懐かしいなと思いながら、師匠の言葉に集中する。


「……アイル、ナディルと聖女は今どこに?」

「?お二人なら今こちらに向かってきているかと…わたしが一足先にこちらに来ただけなので」

「そうか……」


どうしてそんな事を聞くのだろうと思いながらクレイツを見ると、少しホッとした表情になっていた。

その表情の意味がよく分からないアイルは首を傾げる。

そして、辺りを軽く見回したクレイツは何かを決意した表情でこちらを見てきた。


「アイル、今は詳しい事は言えんが……一つ約束して欲しい」

「……約束?」


アイルの眉毛がピクリと動く。

師匠が約束事とは珍しい。


「あぁ……葵の事だ」

「……」


クレイツはそう言いながら、彼女の頬にそっと触れる。とても優しい壊れ物を扱うかのような触れ方だ。

その仕草にアイルは目を細めた。


「…………分かりました。それでその内容とは?」


アイルはお姫様抱っこをしている彼女をチラッと見た後、再度クレイツに目を向けてポツリと呟いた。今のアイルは好奇心の方が勝っているのだ。


「きっとこの騒動で葵の存在が知られるだろう……そして確実に魔力持ちだと知られる」

「……そうでしょうね。怪我をしてないのに倒れるのはおかしいですし、知られるのは時間の問題でしょう」


アイルは知っていますよと言う口ぶりで返事をした。

そして、やはりアイルが思っていた通りクレイツは彼女が魔力持ちな事を王家に隠していた。

あの頑固者で正直者の師匠が……。


だか、王家にすら話していないその秘密をアイルに言ってくるあたり、どうやらアイルの事を信じて話しているらしい。

アイルは一度目を閉じた後、何かを決意してまた目を開けた。


「葵が魔法を使えるというのは知られても……アンデッドと球体を殲滅したという事は言わないで欲しい」

「……それは団長殿にもですか?」

「ナディルにもだ……この事は俺とアイル、二人だけの秘密にして欲しい」


血の繋がっている孫の団長殿にも言わないでくれとは、相当師匠は彼女の事が大事みたいだ。

だが、師匠がそう言うのも理解はできる。

他の誰にもアンデッドを倒す事が出来ない今、倒す事のできる彼女を王家が放っておくはずがない。

必ずと言っていいほど、その身は王家に捧げなければならなくなる。

それをクレイツは心配しているのだと思うのだが。

アイルは少し考えた後、意地悪を言ってみる事にした。その微笑みがとてもドス黒いオーラを放っている。


「……普通魔力持ちはその事が分かった時点で王家に報告をしなければならないのですが……どうやら報告はしていないみたいですね」

「あぁ……誰にも言っていない」

「それがどういう意味か師匠、貴方が知らないはずないですよね?」


少しきつい言い方だがアイルの言い分は正しい。

魔力持ちが産まれたら報告する事は義務付けられている時点で、王家に黙っているということは罪になるからだ。

クレイツがどういった決意でそのことを黙っているのかアイルは確かめる必要があった。その覚悟によってアイルがどうは行動すればいいか考えるためだ。

と、半分本当で半分は先程も言ったが、意地悪をするためであるのだが。


「分かっている……葵に魔力があると知った日から悩みに悩んで今ここにいる。俺は葵の好きに過ごして欲しい……自由に過ごして欲しい……そう思って王家には伝えていない」

「彼女の事がそんなに大事なのですか?もし隠している事がバレでもしたら流石の師匠でも牢獄は免れませんよ」


決してアイルが面白がって言った脅しでは無い。

例えクレイツだろうと貴族だろうと義務付けられている事を王家に隠しているとバレれば牢獄は免れない。

クレイツはアイルの言葉に表情を歪めながらもはっきりとした言葉で言い切った。


「その覚悟はとうに出来ている。葵が幸せになるのなら俺は何でもするつもりだ」

「……」


そう言うクレイツの目に迷いなど微塵も感じられなかった。

覚悟をした人の目。それに偽りもなにもない。

師匠のこんな覚悟をした目を見るのは久しぶりだなぁとアイルの口角が上がる。

これほどまでにクレイツを心酔させる彼女はどんな性格なのか、どんな人物なのか興味が湧かない方が無理な話だった。

そうなったらアイルの取る行動はただ一つ。


「……分かりました協力しましょう」

「…っ……本当か?」


クレイツはアイルの言葉に嘘じゃないよな?と目で訴えてくる。

アイルはニヤリと口角を上げてそれに答えた。


「えぇ……わたしも彼女に興味が湧きましたので」

「…………参ったなぁ」


クレイツはアイルの妖しい微笑みに苦笑いを浮かべた。

アイルの興味は今に始まったことでは無い。魔法にしてもそうだし一度でも興味を抱いたらとことん追求するのだ。

それを知っているクレイツは「また始まったよ……アイルの興味依存性」と諦めの表情で呟いていたが、当の本人は気にしていなかった。

アイルは自分の腕の中で眠る彼女を見て何かを考えていた。


「アイル、詳しい話は帰ってからだ……俺もそろそろ限界だ」

「えぇそうですね……そろそろ団長殿達も着く頃かと思うので」


そしてアイルとクレイツとアイルに抱えられた葵は団長殿と合流後、直ぐにその場を後にした。


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