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第6話‐⑦




魔法王国と呼ばれるこの国では、魔法を使える人は必ず王宮と魔導師団に報告しなければならない。そして、魔法の使える人は魔法の勉強をする為に魔法の学べる学校へと行くことが義務付けられている。

魔法の使える人はだいたい貴族が中心で、自分の家を王家に売り込みたい貴族は魔法を使える我が子をこれでもかと言うくらい押し出している。

そんな行動、意味の無いことなのですが。


そしてたまに、平民の中でも魔力持ちが生まれることがある。

なので、子供が五歳になった頃、魔力持ちかそうでないかを鑑定する義務があるのだ。

魔力持ちの平民は平民で喜んで王家に報告をする。

それにも理由があり、平民の中でも貧しい家は沢山ある。その中で魔力持ちが生まれると、これから先のその魔力持ちの衣食住は保証される。

魔力持ちの平民は、皆寮へと入り魔法についての勉強ができるし、それを経て実力に応じて確実に仕事にありつけるという平民にとってはとても有難い話だった。

魔力持ちの子だけでは無い。幼い我が子と引き離される家族には、一生暮らして行けるほどの額が貰えるという。

そういうこともあって、平民にとっても魔力持ちは特別な存在なのだ。

だが、平民の中で魔力持ちが生まれるのはとても稀で、国内で確認できているだけでも両手で数える程度。


そして、そんなこと元宮廷魔導師団団長の師匠が知らないはずないのだが……あれ程までの魔力の持ち主、アオイという女性。

もう一度言うが、わたしはその名を一度も聞いたことがない。

つまり、師匠はその義務付けられている報告を怠ったという事になる。


「さて……どうしましょうね……」


アイルはニヤリと微笑みながら楽しそうにしている。

どうやら、クレイツにいたずらを企んでいるみたいだ。

彼女を見つめながらそんな変なことを考えていると彼女の声が聞こえてきた。


「よし…じゃあ屋敷に……」


彼女はそう言うと、屋敷に戻ろうとクレイツを肩に掴まらせようとした。

だがその時、すぐに動きが止まった。

彼女は後ろを振り返り声を上げる。


「……ん?」


彼女の目線を追うとそこには空中に浮かぶ青白い丸い塊が浮遊していた。アイルでも見た事がないのかそれを見て目を細める。


「何だ?」


彼女は起き上がらせていたクレイツを横たえたあと、その塊に近付いていく。


(度胸のある方ですね……)


彼女の様子を見守るアイルは、呑気にそんな事を思っている。

出ていく気はサラサラないようだ。


「葵っ……」


身体を少しだけ起こして、彼女の名前を呼ぶクレイツ。

とても心配をしているのが遠くにいても伝わってくる。

それに、二人のやり取りを見ていると、師匠の彼女に対する接し方は親子そのものだ。

いつの間に師匠にその様な存在が出来ていたのかと、人生何があるか分からないなと考えに浸る。


「……大丈夫」


彼女はクレイツを安心させるように少し微笑んだ後、また歩き出す。

師匠のそんな焦る声をあまり聞かないのでとても新鮮だとニヤニヤした笑みを浮かべる。

こんな時でもそんな事を考えるとはアイルはやはり変人の様だ。


その間にも彼女は青白い塊に近付いていき、それの前で足を止めた。

そしてそっとその塊に触れる。


「っ…温かい……」


何を思ったのかその塊に触れた彼女は呑気にそんな感想を言った。

いや、いくら攻撃などがないにしても流石に危機感がないのでは?


『〜〜〜』

「っ…えっ?」


すると、何処からか聞き取れない小さな声が聞こえてきた。アイルの耳が正しければその発生源は空中に浮遊している塊からしたように思える。

だが、ここからだとよく分からないので真偽は分からない。

彼女も今の声がどこから聞こえたのかキョロキョロしている。


だが、その謎は彼女の問いかけによって解決するのである。


「…今の声、もしかしてあなた?」


そう言った後、念の為なのか周りをぐるりと一周してから、再度塊の前で視線を止めた。

彼女も最終的にはその声が目の前の塊から発せられた声だと勘づいたようだ。

アイルよりも近くにいる彼女が言うのだから確かだろう。


彼女のそんな行動を楽しそうに見つめるアイルの表情はとても無邪気だ。

自分がそんな表情をしているのを本人は知らないが。


『〜〜〜』

「…洞窟?」


彼女はその塊と普通に何やら話をしているようだ。

塊の声は聞こえないが、辛うじて彼女の声は聞こえるので有難い。

聞き耳を立てて、その声に耳を澄ます。


「…洞窟に何かあるの?」

『〜〜〜』


ーパァァァアアアアアン!!


「わっ…!?」

「っ…!!」


二人が何かを話していた時、急に塊が眩しい光を放った。

アイルはそれに驚き瞬時に目を瞑った。そして目を開けた時には既にその塊の姿は何処にもなかった。


「えーと………?」


彼女は状況がよく分からないのか何やら考えていた。

何を考えているのかはアイルには分からないが気になる事が山ほどある。

例えば彼女が言っていた洞窟。洞窟に何かがあるのかと塊に向かって言っていた。

そして、それを言ったと思われる張本人、あの青白い固まりだ。あれはアンデッドを倒した後に現れた。

という事は…


「……」


普段は考えることは他の人にまかせっきりのアイルも、この時ばかりは頭をフル回転させる。

だが、それは目の前の出来事に興味を示したから。興味のある事以外には一切目もくれないアイルが、これほどまでに興味を抱くのは、アイルでさえ見たことのないアンデッド、そして不思議な魔法を使う彼女がいたからであった。そんな事、興味をそそられない訳がなかった。


「葵」


今までのやり取りを見ていたクレイツが彼女の名前を呼んだ。

その声に我に返ったアイルは彼女を見た瞬間ー


「っ……」


何かを察知してその草木から飛び出した。


「っ…!?」


彼女に近付いて行く間にも彼女の身体が傾いていくのが見える。

それにびっくりしている彼女は「えっ……?」と何が起こっているのか分からないようだ。

そして、彼女の顔が段々と地面に近付いていく。

それまでの出来事がアイルにはスローモーションに見えた。


「葵!!」


近くでクレイツの叫ぶ声が聞こえる。


ードサッ


「……はぁ…」


アイルの安堵した溜め息が辺りに響いた。

間一髪、地面ギリギリでアイルが彼女を支える事に成功したのだ。



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