第6話‐⑥
アイルは初めて見るアンデッドになんとも言えない高揚感が沸き立っていた。文献では把握しているにしろ会うのは初めてである。そりゃワクワクもする。
たが……
「どうやって……」
問題はそこだ。
会った事の無い生き物にこうして会えたことはとても嬉しいが、現時点で倒すのが不可能だと分かっているのでとても面倒くさい気しかしない。
「はぁ……とりあえず街に出ないように、どうにかして食い止めなければ……」
と、重い腰を上げながら、呟いた時だった。
「っ……この世界に来てまで、誰かを守りたいと思うなんて…」
この茂みから覗き込んでいたアイルの耳に誰かの声が聞こえてきた。
ずっと、アンデッドにしか注目していなかったので、気付かなかったらしい。
その声に視線を移す。
「……少女?」
に、しては顔付きは大人っぽいし、多分成人はしているだろうか。
黒髪黒目に後ろに長い髪を結っていて、フードの付いた紺色のローブを羽織っており、その表情はとても悲しそうな印象を受けた。
「……ん?」
ふとその女性が誰かを抱えているのが分かった。
じーと見なくてもアイルにはその人にとても見覚えがあった。
苦しそうに目を瞑っているその男性。所々服が破れてはいるが傷が見当たらない。
そして、その顎には立派な白い髭が伸びていた。
「……師匠?」
その男性はアイルにとってとても見慣れている顔だった。
白い髭が特徴でもあり、アイルの師匠でもあるその男性は魔物討伐の依頼を出した人物でもあるクレイツ・カルディオン、その男であった。
どうして、師匠がこんな所にいるのかとも思ったが、一番気になるのはその師匠を抱えている女性だ。
彼女は一体……。
「っ……!!ゴホッ!!ゴホゴホッカハッ!!!」
すると突然、彼女が咳き込んだ。
師匠を地面に横たえ後ろを向いた瞬間、地面に真っ赤な血がビシャッと飛び散ったのだ。
「……」
これにはアイルも黙ったまま目を見開く。
目の前の光景に理解が追い付かない。
「……はぁはぁ…………」
彼女は上下に肩を揺らしながら、手に付いていると思われる血を見た後、手拭いで拭い取っていた。
「う"……」
だが、かと思ったら急に頭を抑えて、頭が痛いのか唸りを上げ始めた。
「……やめてやめて!あたしはもう……こんな感情思い出したくないの……!」
頭を抱えながら、そう言葉を吐き出す彼女をアイルは呆然と眺めていた。
それに、今気づいたのだが、彼女の目の前に大きなイノシシのように見えるアンデッドが佇んでいる。
彼女はもしかしたら、このアンデッドから師匠を守っているのだろう。
それにしてもこのアンデッド……どうして無防備な彼女達をすぐに襲わないのでしょう?まるで意思があるかのようにその場に佇んで彼女達を見守っているような……。
それに、突然血を吐いた事にも疑問が残る。
師匠のように怪我をしているようには見えないし、何の前触れもなく突然吐いたように見えたような……。
(もしかしたら……病気でも患っているのでしょうか……)
そんな疑問が頭に浮かんでくる始末。
それくらい、彼女の現状はとても違和感があった。
ーパァァァァァアアアアアアアア
「っ……!?」
すると突然何の前触れもなく、地面が光だし青白い光が彼女を包み込んだ。
驚いたのも束の間、とてつもない眩しさにアイルは目を瞑る。
そして、恐る恐る目を開けると、空から透き通るような青色をした綺麗な結晶がキラキラと舞っていた。
「……これは…………」
こんな光景、アイル自身生まれて初めて見る。
暖かくてとても綺麗な光景。そして他の人とは異なる魔法……これを放ったのは……
「……」
ゆっくりとその光から彼女に目を向ける。
「…なんか放った…?」
どうやら彼女は何が起きたのかいまいち理解出来ていないようだ。
呆然とその光景に見入っている。
今の光、聖女の放つ光とは全然違い、聖女ではない彼女があんな莫大な魔力を放出するとは……。
彼女は一体何者でしょうか。
彼女は今ので身体が辛いのか頭を抑えていた。
「……あれ?」
「……?」
彼女の行動を見ていたら彼女が声を上げた。
その目線を追うと、先程まで近くにいたイノシシのアンデッドが居なくなっていた。
「……っえ?」
今更気付いたアイルは驚きを隠せない。しかも、死骸すらもそこには跡形も消え去っていたのだ。
咄嗟にアイルは湖に目を向ける。
「っ……」
そこには先程の光景とは違い、綺麗な湖、小鳥のさえずり、魚が飛び跳ねる音など、とても落ち着く光景が目の前に広がっていた。
先程までの禍々しい瘴気を纏った黒い球体、それから出てきていたアンデッドは、見る影もなく居なくなっていた。
まさかと思いながら彼女に視線を戻す。
先程の眩しい光。その光でアンデッドが消滅したとでも言うのだろうか?いやそう言わないでこの状況をどう説明しろと言うのでしょう。
間違いなく、彼女がアンデッドを殲滅させた。誰も殲滅させることが出来ないと言われているアンデッドを……。
「まさか……」
彼女がぼそりと呟いたかと思ったら、クレイツに視線を移した。
「クレイツおじさん……」
気が付いていたのかクレイツの話し声が聞こえる。
こちらからは師匠の表情は見えないが、とても辛そうな声だ。
「やはり…葵は…」
「うん…クレイツおじさんの言った通りだったね」
彼女はそう言うとニコりと微笑んだ。
そのやり取りを黙って草木の間から見ていたらアイルは疑問が浮かぶばかり。
師匠の言った通り?どういうことでしょう。
それに師匠は彼女のことをアオイと呼んでいた。魔力があると言うことは魔法が使えるということなのですが……。
(……そのアオイという人物について、わたしは何も知らないのですが……)
アイルははて?と首を横に傾げた。




