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第4話‐⑧



この世界が漫画の内容であるとはいえ、所々忘れかけている内容も勿論あるし、実際に話してみるとこの世界の人たちはちゃんと今、現在進行形で生きていると思い知らされる。

漫画の内容が全てではないだろうし、一門一句全部合っている訳では決してないだろう。

それに今分かっている内容以外に、あたしが知らない内容も何個か存在している。もしかしたら内容が変わっている可能性も否定は出来ない。

だから、二人が良いパートナーと思うあたしの気持ちは決して嘘ではないし、心からそう思っている。


(だから見ていてすごく新鮮…内容を知っているからと言ってその全てが正しいとは限らないんだな…)


もしかしたら、漫画では描かれていないそれぞれの性格だってあるかもしれない。そう思うとなんだかわくわくしてくる。


「…どうかしましたか?」

「…え?」


そんな事を考えていたら、ふとアイルに話しかけられた。アイルを見ると、ニコニコとしながら良いものを見たという表情をしている。


「なんだか楽しそうな顔をされていたので」

「…っ」


葵は咄嗟に自分の頬を両手で挟んだ。


(あたしそんな顔してたの?恥ずかしい…)


そんなに分かりやすかっただろうか。

ほんのり赤くなる頬を隠しながら、ちらっとアイルを見る。


「…可愛らしいですね」

「っ…!?」


ぽつりと呟いたアイルのその言葉に目が一瞬にして見開いた。

ほんのり赤かった頬が、より鮮明に赤みを帯びている。


「なっ…何を言って…」


恥ずかしさのあまり口が回っていない。

さっきよりも強めに頬に両手を押しつぶし、限界まで頬が隠れるように掌を広げる。


「…?何かわたし言いましたか?」

「っ…?!」


(こっ…こいつ、もしかして無意識か!?)


ん?と首を傾げながら、余計に赤くなった顔を見つめてくる。

腹黒男だとは思っていたが、そこに天然が加わるとはなんと面倒くさい。

これで超絶美形のイケメンとは罪深いヤツめ。


「この…腹黒天然男め…」


ボソッと目の前の座っている男に聞こえないように小さな声で呟きながら、アイルを睨みつけた。

自分の頬にはまだ自分の両手のぬくもりを感じている。


「…?どうしたんだい?」

「っ…!!」


その声に肩がビクッと跳ねるのが分かる。

幾分か熱の引いた頬から手を放し、ナディルの方を向く。

葵達を見て、首を傾げていた。

どうやら、お互い一対一で別の話をしていて、こちらの話も聞かれておらず、二人の世界に入っていたらしい。

ふぅと安堵する葵に対し、ナディルが変なことを言ってきた。


「どうやら仲良くなったみたいだな」


にこりと微笑むナディルからは決して冗談を言っているようには聞こえない。


「確かに仲良さそうになにやらお話されていましたね、何のお話をしていたのでしょう?」


さらに追い打ちをかけるように、浅倉さんまでそんな事を言ってきた。


(え…この二人の目は節穴か?どこをどう見たらそう思うんだよ…)


葵はなめくじを見るような目で二人を見つめた。


(仲が良いと言われたのも嫌なのに、それとなく話の内容まで聞いてくる辺り侮れん)


絶対に言う訳がないだろうと口を堅く閉ざす葵。

そんな葵を見て、微笑んでいるのか、余裕そうなその顔がなんかむかつく。


「さっき話していた内容ですか?」


すると、今まで黙って聞いていたアイルが口を開いたかと思ったら、とんでもない事を言っているではないか。


(ちょっ!?)


葵は素早くアイルに視線を移した。


「実は……」

「ちょっ…待った!!」

「うぐっ」


その先の言葉を言おうとしていたアイルの口を、葵はすかさず両手で止めた。 

アイルの変な声が聞こえたが気にしない。

両手を重ねるようにして、アイルの口元を覆っていた。


「…はぁ……」


そのこともあり、葵はアイルの右隣に座る形となっている。


(なにこいつ…本気で言おうとしてんの……)


葵は彼の瞳を見つめた。

まっすぐな綺麗なその濃紺の瞳に吸い込まれてしまいそうだ。


「…アオイさん?」


ナディルのその声に我に返った。 

ばっ!とアイルの口元から両手を離す。

座ったまま、ナディルたちのいる方に向き直った。


「な、何でも…ただ彼がなんか言おうとしてたからつい…」


苦笑いを浮かべている葵の顔を不思議そうに見つめてくる二人。変な行動を取ってしまったと反省する。


(……ん?)


ちょっと待てと動きを止める。

アイルはさっき何を言おうとしてたんだ?

あたしが一番恥ずかしいと思ったのは、アイルがボソッと言ったあのセリフ「可愛いですね」だ。でもアイルはそれを言ったこと自体覚えていない。要は無意識に自然と出た言葉という事。

なら、覚えていないそれを言うことはないはず、じゃあ何を言おうとしていた?

あたしが楽しそうな顔をしていた話?いや…そんなの話のネタにもならない。


(じゃあ…一体…)


「ふっ…」


すると後ろから面白がるような声が聞こえてきた。

その声に反応するかのようにアイルのいる後ろを振り返った。

ふふっと口元を軽く隠しながら、控えめに笑っているアイル。


「………!」


(こ、こいつ…まさか!)


目を見開き、今にも自分の口から暴言が飛び出しそうな勢いだった。

いつも以上に睨みを聞かせる葵だが、そんなのお構いなしに微笑み続けているアイル。

わなわなと右手を握りしめる。


「やはり、仲が良いではないか」


こんな状態のあたしにそんなセリフを言うなんて馬鹿じゃないの?と思いながら、口から言葉が出ていた。


「勘違いしないで!この人は腹黒で、てんね…………っ!?」


最後まで言い切れなかった。

グイッと後ろから右腕を引っ張られたと思ったら、葵のすぐ目の前に彼の顔が迫っていた。

驚いた葵の顔を見つめながら、アイルの顔がにやりと怪しく笑った。

何度目かのその怪しいにやつきに驚いていると、アイルの口元があたしの耳元に近付いてきた。


(なっ何…)


目を瞑ったその時ー


「…俺は腹黒天然男ではありませんよ、可愛いお嬢さん」

「っ……!!」


耳元で急にそう言われた。

聞こえたその声は、あまりにもアイルの今までの声とかけ離れていた。

先ほどより声が低く、一人称もわたしではなく俺になっている。

その声と言葉にびっくりしたあたしは、ズザァァーと座ったまま後ろに避難した。

ソファーの端っこの部分が背中に当たり、これ以上後ろに行けないと諭される。

少し離れた所からアイルを見てみると、先ほどの出来事が無かったかのように優しく微笑んでいた。

それを見て、何とも言えない敗北感に包まれる。


(……?あれ?)


ここで気付く。

ソファーの端まできたのなら、さっきまでソファーの前に立っていた二人にぶつからないのはおかしいと。

勢いよく後ろを振り向くと、バルコニーに続く扉の前にいつの間に移動したのか、にやにやと立ってこちらを眺めていた。


(こいつら…)


握りしめている右手に力が入るのが分かる。

要らぬお節介をされている気がしてならない。


「すまない、すまない…私と椿はこれでお暇しよう」


笑いを堪えているのか、顔がにやけているナディル。何を考えているか知らないが、勝手な思い込みはやめてほしい。とても迷惑極まりない。


「…。」


葵の顔はさっきの無表情に戻り、鬱陶しい顔を向ける。


(ナディルさん…わざとあいつの名前を言わなかったな…)


自分と浅倉さんの名前しか口にしていない。それがどういう意味かあたしにも分かる。

何の気を聞かせてくれたのかは知らないが、余計なお世話だ。面倒くさい以外の何物でもない。


「…わたしもお暇しますよ」


すると、後ろからそんな言葉が聞こえた。

衣服のズレる音が部屋に響いた。左横を通る彼の足音が聞こえる。

葵は座ったまま、二人を睨みつける。


(今度この二人に会ったら、どんな仕返しをしようかな…)


葵はやられっぱなしは嫌な性格だ。ここまでされたのだから、仕返しの一つや二つ、しても罰は当たらないだろう。


「…また会いましょう、恥ずかしがり屋のお嬢さん」


こそっと耳元でそう言われた。

ばっ!とほんのり赤くなった耳を左手で隠す。

やつを見ると、既に扉付近まで歩いてた。

その後ろ姿はなんだかとても楽しそうだった。


「それでは失礼します」


扉を開ける前に扉の前で一例をして、そう言い放つ。


「私たちももう行こうか」

「えぇ、そうですね」


アイルに遅れをとらないように、二人は早歩きでアイルの近くまで移動する。

葵は無言でその様子を見つめていた。


「長話をしてすまなかった、ゆっくり休んでくれ」


にこりと微笑むナディル。


「アオイさん、私の事は椿でいいですよ」


笑顔でしれっと自分の意見を言ってくる浅倉さん。

絶対に呼ぶかと心の中で突っ込む。


「……。」


そんな三人を無表情で見つめ返す葵。


(なんか…来た時よりも雰囲気が良くなってないか?)


そう思いながら、ナディルの右隣に立つアイルに視線を向けた。

にこっと微笑んでいる。

さっきの低くて一人称が俺だったアイルはどこにいったんだと思いながら、ため息を付く。


(…こんな風になりたかったんじゃない…この人たちとは一定の距離を保ちたかったのに。なんだか思った以上にあちらがあたしに対して打ち解けている感じが伝わってくる…)


三人のその温かな微笑みは、最初会った時よりも、優しい感じがした。


「また来るよ」というナディルの言葉に「…来なくていい」とボソッと三人には聞こえない声でそう呟いた。

なのに……


「……。」

「…っ」


その声が聞こえたのか分からないが、彼がまたにやりと怪しく笑って部屋を出て行った。





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