第4話‐⑥
(いっそのこと、最初に会った時みたいにアンデッドが勝手に居なくなりましたとでも言おうか…いやでもそしたら球体の事についての説明はどうしよう…)
葵はうーんと腕を組みながら、百面相になっていた。考えるのは苦手なので、アイルが適当に話してくれたらそれで済むのだが。
葵はちらっとアイルを見る。
すると、今までずっとあたしを見ていたのか目線が合った。
(っ……)
そんな事とは知らず、チラ見しただけの葵の心は準備出来ていなかった。なので、なめくじを見るような目になってしまったのは言うまでもない。
そんな葵を見てなのかよく分からないが、にやりと怪しく笑い視線を葵からナディルに移した。
「団長殿、確かにわたしは彼女の魔法、アンデッドや黒い球体を目撃しましたが、それだけですよ」
「………それだけ?」
そのアイルの言葉に眉間にしわを寄せるナディル。
(おお…イケメンの眉間にしわとか勿体ない…)
とは思うが、あたしも気になる。それだけとはどういうことだろうか。全て見ているのにそれだけでは済まされないと思うのだが?
「そのままの意味です。先ほどから団長殿の言い方はまるで彼女がアンデッドを倒したという風に聞こえますがそれは違います。あの時確かに彼女は魔法を使っていましたが殲滅には至っていませんでした。」
(………は?)
その言葉に葵の目が見開かれる。
何を言っているんだこの男はと言う顔をしながら、アイルを凝視する。
「では……どうやってアンデッドを殲滅したんだ?」
ナディルは不審な目でアイルを見ている。
それはそうだ。お互いの認識が違っているのだから。
「わたしはアンデッドを目撃したとは言いましたが、殲滅したとは一度も言っておりません…団長殿はおそらくアンデッドを目撃したという言葉と、団長殿が来た時にはすでにアンデッドが居なかった状況を見て、殲滅したのだろうという結論がご自身の中で出ていただけだと思います」
淡々と話すアイルはさっきよりも饒舌に聞こえる。それと同じく嘘を言っていないと思わせる演技っぷりには葵自身驚いていた。
(だって…状況からしてあたしがアンデッドを殲滅したところは絶対見ているはずなのに…どうしてそんな事を言ってるの?)
葵はアイルを見つめる。
(何で…自分に何のメリットもないはずなのに…あたしを庇ってるの?)
葵の視線に気付いたアイルは左目をパチンとウィンクをしてきた。
「……。」
それを見た葵の顔はとても引くついている。
今のは……任せてって事か?彼の行動はいまいちよく分からない。
それからイケメンにウインクとか鳥肌が立ってならない。イケメン全員がウインクすれば、女性が惚れると思うなよ。
(イケメンめ…何をやっても様になりやがって…なんか面白がって見えるのは気のせい?)
ニコニコしているアイルは何やらとんでもない事を考えていそうだ。
「…なら、殲滅していないというのなら、ヴェルディス殿が見たというアンデッドはどこに行ったと言うんだ?」
イライラしているのかどこか不機嫌顔のナディル。
そんな事お構いなしに口を開くアイル。
「わたしを目にした途端、森の奥へと走って逃げていきました」
「…逃げた?」
ナディルはさっきからアイルが口を開くたびにイケメンの顔が台無しだ。それだけ信じられないのだろう。
(そりゃそうだ…アイルがちゃんと説明しないのが悪い、例えそれが嘘だとしても…)
「えぇ…その場にいた全てのアンデッドが逃げていきました」
言い切るアイルの言葉にまだ信じられないのか、不審の目を向けるナディル。
(その言い訳…あたしとクレイツおじさんの時は本当にあった出来事だしな…)
葵は一瞬考えた後、ナディルに視線を向けた。
「ナディル様…この方の言っていることは事実です。あたし自身もこの目で確認しました」
葵はアイルのその嘘に乗ることにした。
その言葉にナディルは驚いたような、びっくりしたような顔をしている。今までの葵がアイルに向ける視線を見てきたからか、アイルを肯定するとは思わなかったのだろう。
だが、葵にとってはその方が都合がいいし、何よりクレイツおじさんにお願いされた事と一致する。それがクレイツおじさんの願いならその願いを果たしたい。
あの日、アンデッドに初めて会って殲滅できるかもしれないと知ったあたしが、アンデッドを殲滅しに行くと言った日の夜、もし本当にあたしがアンデッドを殲滅できたとしたらそれを他の人に見られてはならないと、クレイツおじさんに言われた。
その時はよく分からなかったが、その魔法でアンデッドを殲滅した時分かった気がした。クレイツおじさんが他の人に見られてはならないと言ったその理由…きっと、あたしの事を思ってのセリフだったのだろう。
あたしのその力が他の人に…もっと位の高い貴族や王様にでも知られたら一生縛られる。そんな人生を歩んでほしくないと思ったのかもしれない。
(まぁこれはあくまであたしの推論だけど…)
でもそう思ってくれていたらいたで嫌な気持ちにはならない。
どんな理由であれ、そんな風に言われたらあたしは、そんなクレイツおじさんの願いを果たしたい。そして、これから先の人生は自分で決めたい。そう思えたのもきっと、クレイツおじさんが居てくれたからなのだろう。
でもまだ、この先の事は考えている余裕は無いけれども。
「…本当なのだな?アオイさん」
「はい」
こんな正直で優しい人に嘘は付きたくないけど、これだけは譲れない。
あたしはこの世界では、何者にも縛られず、人の機嫌を伺う事なく、自由に生きたい。
それを実現させる為には、絶対に他の人に知られてはならない。
(ごめんね、ナディルさん)
心の中で謝りながら、ナディルを見つめる。
「…分った。信じよう」
半分諦めたのか、ため息を付いた後そう言った。
葵はふぅと安堵する。
これで取り合えず、魔法は使えるがアンデッドまで殲滅できない、少し変わった人間認識されただろうか。
葵はアイルに視線を移す。
すると、にこっと笑顔で返された。
「……。」
(何であたしを庇ったのか分からないけど、後でお礼を言わないと…アイルの事だから何かしらあるんだろうけど…でも、球体の話自体を無かった事にするとは…流石と言うかなんというか…)
「すまない、私はてっきりアオイさんがアンデッドを殲滅したのかと思い話を聞きに来たのだが…」
バツの悪そうなナディルが頭を下げて謝ってきた。その行動に葵は慌てて口を開く。
「ちょっ…!?ナディル様、頭を上げて下さい!」
ナディルのその見解は合っているので、こんなことされたらたまったもんじゃない。嘘を付いているのはあたし達なのに、その光景を見ているととてもいたたまれない。
あたしのその言葉に頭を上げるナディル。
「寛大なお言葉痛み入る…」
「い、いえ…」
葵は苦笑いを浮かべながらそう答えた。
(とても居心地が悪い…ナディルさんは何も間違っていないのに……本当にこちらこそごめんなさい)
アイルを見ると、にまにまと口の口角が上がっていた。
(…こいつ、少しくらいナディルさんに申し訳ないと思う気持ちはないのか…)
なんかアイルを見ていると、こんな気持ちになるあたしが馬鹿みたいだ。
「そうなると…まだアンデッドは森の奥に居るということだな」
「そうなりますね…私は魔物の殲滅のための聖女ですし、アンデッドを倒せるかどうか…」
ナディルと浅倉さんは、殲滅されていないアンデッドをどうしようか話し始めた。




