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第4話‐⑤



「ヴェルディス殿…確信を突く前に順序と言うものがあるのではないだろうか?」


そんな様子を見かねたのか、ナディルが話に入ってきた。何とも言えない表情をしている。きっと今までにもこういう事が沢山あったのだろう。


(大変そうだなナディルさん)


憐れむような目で葵はナディルを見つめる。

どれくらい親しい仲なのか知らないのが悔やまれる。なにせ、漫画の登場人物は思い出しても、肝心な内容が思い出せないのだから。それにこの漫画、確かまだ完結していなかった覚えがある…せめて、完結してから異世界に来たかった。

葵が心の中でズーンと沈んでいる中、話が勝手に進む。


「おっと、そう言われてみればそうですね…では団長殿よろしくお願いします」


そう言うと、にこりと葵に微笑んだかと思ったら、ナディルに話を託した。

おそらくアイルはその順序やらを話す気はないらしい。ちゃっかりしているアイルである。

自分の聞きたいことだけ聞いて、あとは人に任せるというなんとも言えないというか…良い意味で言うと器用だが、悪い意味で言うと自分勝手だ。

そんなアイルに慣れているのか、ナディルは苦笑いをした後、葵に向かって口を開いた。


「まずそれを聞いた経緯について話をしようか」

「…そうですね」


葵はぽつりと返事をした。

それとは言わずもがな、先ほどの「魔法が使えるんですね」発言の事だろう。

それについてはあたしも知りたい。どうしてそんな断言できるほど確信を持った言い方ができたのか…まるで見ていたような口ぶりだ。


「ここカルディオン領に魔物が出たのは知っているかな?」

「はい、クレイツおじさんに聞きました」


五日間寝ていたみたいだから、それを聞いたのはもう一週間も前の話だが。


その関係で聖女たち一行がこっちに向かって来ているとクレイツおじさんに言われた。

それがこの人たちだったとはとても驚いたけど、漫画の事を思い出してからはとても納得がいっている。

だからか、この人たちのやり取りを見ていると、とてつもない疎外感に包まれる。

もう何ヵ月も魔物の討伐をして絆があるのは分かるが、今の葵にとってそれはとても窮屈に感じた。


「私たちはその魔物の討伐のためにこちらに向かっていたんだがつい先日、叔父上とアオイさんが倒れた少し前に早馬でアンデッドが出たという知らせが届いたんだ」


そう話すナディルはとても険しい表情をしている。

アンデッドに初めて会った夜にでもクレイツおじさんが早馬を出したのだろうけど、ナディルもアンデッドを見たのだろうか。あの場に居たのは葵とクレイツおじさん、そして…倒れる瞬間葵を支えた……


「…ん?どうかしたかな?」


首を傾げた葵の行動に疑問を持ったのかそう聞いてきた。


「あー…いや…」


一瞬聞いてもいいものかと考える。だが、気になるものは気になるので聞いてみることにした。


「えっと…もしかしてその時、倒れるあたしを支えてくれたのはナディル様ですか?」


先程から気になっていた事だった。

実はもう結果は出ているのだろうが、ちゃんと確かめないと気が済まない。

あの時、森の中であたしを支えてくれた人物の顔を……


(…っ)


何かを思い出して目を見開く。

葵は何かを思い出したようだ。


「ん?あぁいや…倒れるアオイさんを支えたのはヴェルディス殿ですよ」


そう言って、ナディルは視線をアイルに向けた。それにならって葵も視線を向ける。


「えぇ…倒れる貴方を支えたのはわたしですね」


その肯定されたアイルの言葉に葵の眉毛がピクリと動いた。

思い出したことがあった。あの時倒れるあたしを支えたその人の耳にはふさふさの銀色をしたタッセルピアスが揺れていた。

そして、目の前のアイル・ヴェルディスも同じ物をしている……どうして今まで忘れていたんだろう。

これで証明された。あたしを支えたのはアイル・ヴェスディスだ。

そして、自動的にバルコニーの男も彼だと実証された。当たって欲しくなかった事が当たってしまった……全て同一人物だと予想していた葵の考えは大当たりだったのだ。


表情には出ていないがこれでも心底驚いている。まさか、アイルがあたしを助けてくれたとは……。

アイルを見るとそんな事どうでもいいのか平然としている。彼にとっては目の前に倒れる人がいたからそれを支えただけだと思っていそうだ。

だが、葵にとってはとても助かった。

だから…


「……その節はありがとうございました」


葵はぺこりとアイルに頭を下げた。

一応世話をされたのだ、お礼を言うのが筋だろう。例え本人が何とも思っていなくても。

その葵の言葉にアイルは嫌な笑みを浮かべた。まるで何かを企んでいるみたいなそんな顔。


「いえいえ…そんなお礼を言われるほどでもありませんよ。こちらも良いモノが見れたのでお互い様です」

「……。」


最後の言葉に葵は目を細めた。

本当につくづくやりにくい男だ。


(さっきの表情の正体はこれだったのか…良いモノというのはきっと…)


あたしはごくりと唾を飲み込み、アイルの目を見つめながら聞いた。


「…いつから見ていたんですか?」


探るような目で葵はアイルを見つめる。そんなアイルはうーんと顎に手をついて何やら考えていた。

アイルの言う良いモノとはきっと葵が放った謎の魔法の事だろう。

あのアイルが言うのだから自分の興味のある魔法が関係しているはずだ。

それに、アイルが葵を良いタイミングで支えたと言うことは、少なくとも数分の間、葵のやり取りを見ていたという事になる。


(とりあえず、いつから見ていたのか少し探りを入れないと…)


下に向けていた視線をアイルに戻した。


「んー…確か遠吠えの様な声が聞こえた後すぐだった気がします」

「……。」


となると、クレイツおじさんが怪我した辺りから見ていた事になる。


(こいつ…自分の師匠が大変だって時になに呑気に見物なんかしてんだよ…)


それにさっきの言葉、良いモノと彼は言っていた。いくら危ないからってずっと見てるのもどうなのだろうか。他の人物ならこんな事にいちいち気にしてないのだが、さっきの言葉があるからか凄い疑心暗鬼に陥っている。

それにこの男アイル・ヴェルディスは、本当にあたしの知っている人物通りだ。

自分の興味ある事はとことん知り尽くそうと研究するし、それに関係する話だととても饒舌だ。逆に興味の無いことは一切手を付けようとしない…あの漫画のアイル・ヴェルディスと同じだ。

それを踏まえると、きっと今まで見たことのないアンデッドに、それまた見たことのない女が謎の魔法を使っているしで余計にそこで見ると言う判断になったのだろう。いや…それか遠くの方から見てた方がゆっくり観察できると思ったのか…。

兎にも角にも観察は合っているだろうなと心の中で考える。


(本当に…師匠が怪我までしてるのに弟子は何してんだか…)


目をキラキラさせているアイルを白けた目で見つめる。もう、何も言わん。


「アオイさん、ヴェルディス殿は決して悪気はないんだ…助けに出るのが遅くなったのは危険だからと判断したからで…」

「…そうですね」


ナディルの必死そうな顔を見ていると、そう答える事しかできない。眉毛が下がり困った顔をしているナディルは本当に苦労人だ。

アイルが危険だからと判断してとか絶対にそんな事は何が何でもないと思うが、そういう事にしておこうと思う。


(本当に可愛そうな役回りだ…)


「それに、あの遠吠えを聞いた瞬間、急に走り出して叔父上とアオイさんの元に先に着いたのはヴェルディス殿なんだ。私と椿は遅れて到着したのでアオイさんの魔法やアンデッドは見ていないが、さっきヴェルディス殿が質問した事はそういう事だよ」


ちらっと浅倉さんを見る。彼女もうんうんと頷いていた。

椿とは誰だろうと一瞬思ったが、確か浅倉椿だったなと、人の名前を覚えるのが苦手な葵にしては覚えている方である。


(ナディルさんと浅倉さんは、アンデッドを見てない上に、あたしの放つ魔法も見てないって事か…なら、これは誤魔化せるかもしれない)


葵は確かめるようにナディルに確認をする。


「つまり、ナディル様と浅倉さんは全てが終わった後に到着したって事でいいんですね?」

「そういう事になる。私たちが到着した時には叔父上とアオイさんは意識を失っていた。だからアオイさんが魔法を使っていたというのも、ヴェルディス殿から聞いた話なんだ」


ナディルのその真剣な眼差しが嘘を言っていないと物語っている。

つまりアイルが魔法の事を言わなければ丸く収まっていた…いやクレイツおじさんが怪我している時点でクレイツおじさんにアンデッドの対処は出来ないし、まして、あんな生きる屍…誰が殲滅できると思うだろうか。


あそこで魔法を使っていないと言う言い訳は出来ないだろうし…なら、どうやってアンデッドや黒い球体の説明をしようか……。

あたしが殲滅したなんて口が裂けても言えない。






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