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第4話‐③





(そう言えばあたしって人見知りだった)


今でこそクレイツおじさんとは普通に話すことができるが、最初は多少なりともその兆候はいくらでもあった。口数が少ないところは勿論、自分から話しかけないのは当たり前だったし。



人見知りは生まれつきだったが、この性格は両親との関わりの中で生まれたものだった。

気を使ったり、空気を読んだり、機嫌を伺ったり……それに疲れたあたしは、独りになってからは極力人と関わりを持たない生活をするようになった。

相手から話しかけられても、突き放すような言動、素っ気ない態度、今のこのような挑発するような態度をして、嫌われようとする。それが、あたしなりの抵抗だった。


それなのに……クレイツおじさんときたらそれを知ってか知らずか、ズカズカとあたしのテリトリーに入って来ようとしてきたのだ。

最初はそんなクレイツおじさんの事を何だこのおっさんとか思っていたが、次第にそれが当たり前のようになっていった。今思えば、そんなクレイツおじさんの人懐っこいところに、あたしは救われたのかもしれない。


それからは、少しずつ口数が増えてきたし、クレイツおじさん以外の人と話す努力をするようにはなったが……それでも、この人達には弁明しようとも思わない。この人たちにどう思われようがどうでもいいのだ。


「…これは貴方が?」


無表情でそんな事を考えていたら、あたしから見て右側に座っている濃紺の髪と瞳をした青年が聞いてきた。よく見ると、その濃紺の髪を後ろに軽く束ねている。


(……やっぱり、あの時バルコニーから見た青年に似ている…)


いや……って言うかそもそもの話なんだが、バルコニーで見た人と、森で助けてくれた人って同一人物ではないか?

色も髪の束ねているところも、そのローブが何よりの証拠だ。

という事は……その二つに当てはまっている目の前の青年がその人物だと言うことになる。


(……何か解せぬ)


まぁ……まだ、ちゃんと確かめた訳では無いから断定は出来ないが……。


とりあえず、今の考えを取り払い彼に注目する。

その手には、先ほどあたしが飲んでいた氷と水の入ったコップを持って掲げていた。氷によってコップの表面が結露している。

氷だからとすぐ溶けると思ってた自分を心の中で責める。夏ならとっくに溶けているだろうが、もうすぐ冬になる季節にはまだまだ溶けないらしい。


(あー…片しておけばよかった)


今更後悔してももう遅い。ちゃんと氷はそこにあり見られているのだから。

銀髪の青年と黒髪黒目の女性はコップの中を覗き込んで驚いた顔をしていた。そりゃそうだ、氷型の魔法を使える人間はこの国でも片手で数えるほどなのだから。

ちらっと濃紺の髪をしている青年をみると、探るようなそんな表情であたしを見ていた。


「……あたしは用意されてた水を飲んだだけです」


凄い言い訳にしか聞こえないと自分でも思うが、ここで素直に言うのは何か違う気がする。素直に答えて面倒くさい事になっても困る。

何を言われるのかと待ち構えていたらその返事は素っ気なかった。


「……そうですか」


(……えっ…それだけ?)


その青年はそれだけ言うと、コップをテーブルの上に置いた。その表情は何を考えているのか分からなかった。

ぶっちゃけあたしの質問の答えに何か言われるのかと思っていたので、その言葉にあたしは正直拍子抜けだった。

自然とあたしは真正面に座っている銀髪の青年に視線を移すと、その表情はなにやら考えている様子。

すると、左隣に座っている黒髪黒目の女性が、その銀髪の青年のわき腹を腕で突いた。それに我に返ったのかあたしの方を見てきた。


(……仲が良いようで)


そんな様子をあたしは白けた目で見つめる。

イチャイチャなら他所でやってほしいものだ。って言うか、イチャつかなくても早く帰ってほしい。


「ゴホンッ、すまない…まず本題に入る前に自己紹介をしてしまおう」


あたしの視線に気付いたのか、わざとらしい咳ばらいをした後自己紹介が始まった。

どうでもいいんだけど……とか思いながらも何も言わず、黙って自己紹介に聞き耳を立てる。


「私はこのアルスタント王国で第二騎士団長を務めている、ナディル・カルディオンだ。そして、この領地を治める領主の息子と言えば分かるかな?」

「……あぁ」


一瞬反応が遅れたが理解できた。この領主の息子ってことは、クレイツおじさんの孫という事か。


(この人が……クレイツおじさんの孫……)


この世界はイケメンだらけなのか?このナディル・カルディオンといい、その隣に座っている濃紺の髪と瞳の男性もめちゃくちゃ美青年なのだが。イケメン耐性がないあたしにとってはまさに地獄そのものだ。


それにもう一つ、彼の口ぶりからするとここはカルディオン領にある本邸なのだろう。あたしは本邸には一度しか来たことがない。

興味が無かったし、別邸でも十分すぎるくらい良い生活をさせてもらっていたので、これ以上何かを求めたら罰が当たりそうだ。


この領地を治める領主には会ったことはないが、言われてみればクレイツおじさんの面影がある気がする……。

そして、一つだけ気になるのが、彼のナディル・カルディオンと言う名前、どこかで聞いたことがある気がする。

彼の名前を初めて聞くはずなのに、そう思えてならなかった。

そんな事を考えながら、とりあえずあたしはナディルを見つめながら一応社交辞令を言う事にした。


「…いつも貴方の叔父様にはお世話になっております」


慣れない笑顔を彼に向けそう言い放つ。

顔がヒクヒクと痙攣を起こしていて、慣れない事はやるものじゃないな。

それに一応彼も貴族だ。クレイルおじさんには敬語は使わなくていいと言われているので使って来なかったが、彼には流石にタメ口とか使えない。言葉遣いには気を付けようと思う葵であった。


「いや、こちらこそ叔父上と一緒に居てくれてとても助かる。私のことはナディルと気さくに呼んでくれて構わないよ」


そう言いながらにこりと微笑むその顔があたしにとってはとても眩しいかった。

銀髪の短髪に新緑色の瞳、細い眉毛にきりっとした目元、鼻は幾分か高いこの青年は、あたしから見ても親しみやすそうな感じがひしひしと伝わり、そして本当にイケメンだ。

女には困らないだろうなと思いながら、二人はどういう関係何だろう?と内容が路線から外れてきている。


「次私が…私の名前は浅倉あさくら椿つばき、私はこの世界の人間ではなくて異世界から来た異世界人なの」

「………え」

「え…?」


その説明につい言葉が出てしまった葵。それに反応した黒髪黒目こと浅倉さんは首を傾げながらあたしの言葉を待っている。


「あっ…いや、続けて下さい」


あたしは動揺を悟られないようにそう言葉を紡ぎながら、彼女の名前を心の中で呟いてみる。


(浅倉椿…)


そう呟くとより聞いた事のある名前だと思えてならない。

あたしの頭の中にはある漫画が思い浮かんでいた。そこに出てきていた登場人物を頭の中で思い出しながら、彼女の話を聞いてみる。


「ええと、私はこの世界に聖女として召喚されて…元々は日本という国に住んでいたわ…私のことは椿とでも呼んで下さい」


(………ほぅ)


腰くらいまで伸びた黒髪に黒目の日本人特有の色、骨格、体格にスラッとした鼻、細い眉毛、前髪を左右に伸ばし、ぱっちり二重のまあ普通に可愛いと言えば可愛いが、綺麗と言う方がしっくりくるその女性は、日本人に近しいものがあると会った時に思っていた。

まさか、本当に日本人だとは……でもこれではっきりした。


「そうなんですね……」


この世界はあたしの知っている漫画の世界だ。

あたしはよく両親の目を盗んで、おじいちゃんに買ってもらった漫画をよく読んでいた。

そして、そこに出てくる登場人物と、目の前の三人の特徴が一致したのだ。

そう思ったら、色々と疑問に思っていた事が不思議と解決していく。

どうして今まで気が付かなかったのだろう……こんなに情報はあったのに。

でもまぁ、謎が解けてスッキリした。


と、葵が清々しい表情になっている中、素っ気なく返事をした葵を見て、浅倉さんは首を傾げながら聞いてきた。


「驚かないのですね」

「……?あぁ……まぁ…聖女が召喚されたことはあたしも知っていましたから」


謎が解けた事に満足してたから、半分話の内容が抜けかけていたので、軌道修正する。

彼女の言い方……何か探りを入れられているかのような質問だ。


クレイツおじさんがあたしの事について話すことなど絶対にない。例え、森で拾ったくらいは言うだろうが、あたしが異世界人で魔法を使える事は絶対に言わないはず……だからなのか、少しでもあたしの事をしろうと模索しているのかもしれない。


(なんか面倒くさいから今すぐにでも話を切り上げたいんだけど……でもそれだとあたしが負けたみたいでなんか嫌だ)


どんなプライドなのか自分でもよく分からないが、そう思ってならない。

あたしは無表情のまま彼女を見つめる。そんな彼女は何やら焦っているようだ。


(何故に…?)


自分から探るような真似をしてきたのに、何を焦ることがあるのだろう。彼女の行動が不思議でならない。


「…すみません、そろそろわたしの自己紹介をしたいのですが」


すると、今まで黙って聞いていた、濃紺の髪と瞳をした青年が口を開いてそう言った。


「あ、すみません…どうぞ」


その言葉に救われたのか、浅倉さんは安堵の表情を浮かべた。

それを確認した濃紺の髪の青年は満足したのか、にやりと微笑む。


(っ…この表情…)


先ほど、バルコニーの上で見たあの男性と同じ表情をしていた。いや、表情だけだ表情だけ……。

自分の感は当たってほしくないが、確かめたいと思う気持ちも少なからずある。

だが、他の二人もいるのでなんとか言葉を飲み込んだ。


「わたしはこのアルスタント王国宮廷魔導師団団長アイル・ヴェルディスと申します。わたしのことはアイルとお呼びください、以後お見知りおきを」


耳には、ゆらゆらと揺れるふさふさの銀色をしたタッセルピアス、ぱっちり二重に、切れ長の目、流れる鼻筋に綺麗な肌、濃紺の瞳に肩より少し長い濃紺の髪を後ろに束ねている彼、まさに美男子と言わざるおえない表情を向けてくるが、何回も言うがあたしはイケメンに免疫がない。そんな表情をされても戸惑ってしまうだけだ。

にこにこと子供のように微笑むその様は、なんだかクレイツおじさんを思い浮かべてしまう。

師匠も師匠なら弟子も弟子だな。



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