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第4話‐②



「………はい」


遅い返事だが別にいいだろう。

急に扉をノックするのが悪いと理不尽な事を考える。ノックとはそういうもののはずなのだが。

ノックを三回するのは入室の確認をしている意味になる。

誰だって急に扉を開けられたら気分は良くない。その為のノックのはずが、立て続けに一方的にびっくりしたからか、虫の居所が悪い葵。

その返事の後ガチャと部屋の扉が開かれた。

あたしはその光景を見ながら、ベッドの隅に腰を下ろした。

コツコツとブーツの音をさせながら、髪の長い一人の女性が部屋に入って来た。


(…あれ、この顔…どこかで…)


あたしは、両手を後ろに付きながらはて?と首を傾げる。


「っ…気が付いたんですね!」


あたしと目線が合った瞬間、そう笑顔で言ってくる女性。うわ、元気だなと思いながらも、顔には出さない。

あたしと同じ黒髪黒目でこの世界では珍しい日本人特有の色をしていた。また、顔つきに体格、肌の色も黄色人種特有の黄色い肌。見るからに日本人にしか見えなかった。それに同い年くらいにも見える。


(近しいものを感じる…)


あたしも黄色い肌をしているが、クレイツおじさんは白い。この世界の人はそんなものなのだろうか。クレイツおじさん以外の人と関わりがほぼ無いので比べようもないのだが。


(あ…)


それで何かを思い出した葵は、とりあえず目の前の女性に聞いてみる。


「…クレイツおじさんは大丈夫ですか?」


あたしの魔法で傷は癒えたとはいえ、あたしが気を失う前までとても辛そうな表情をしていた。魔法で傷は癒えても体力や身体にかかった負担まではどうすることも出来ない。寝て食べて安静にするしか方法がないのだ。

そんなクレイツおじさんの事が気になってきたあたしは縋るような面持ちでその女性に話しかけた。


「…大丈夫ですよ、今は安静にしてもらっています」


その女性は一瞬びっくりしたような顔付になったが、すぐに元に戻った。

その反応を不思議に思った葵だが口には出さず、しれっと返事を返す。


「そうですか…」


はぁとため息を付き、取り合えず無事なことに安堵する。命に別状がないとはいえ、今の状況を知りたいと思うのは仕方のない事だろう。


「……人の心配より自身の心配をして下さい。貴方は五日も眠っていたのですよ」


すると突然、少し説教染みたことを言われた。それには流石のあたしもイラつき、ムッと眉間のしわが寄るのが分かる。


「…あたしがどのくらい眠ろうがあたしの勝手ではないでしょうか」


突っ込むところが少しズレているが本人は至って真面目だ。確かに五日は眠すぎかもしれないが、初対面なのにも関わらず、説教染みたことを言われるのは癪だ。

それにクレイツおじさんの事を蔑ろに言われたみたいで、それも許せなかった。

あたしとクレイツおじさんのことを何もしらないくせに、勝手なことを言わないで頂きたい。

一瞬でこの場の空気が重くなる。


「…お医者様を呼んできますね」


どのように捉えたのかは分からないが、葵の言葉に答えることなく困った顔をしながらそう言い放って部屋から出て行った。


「はぁぁ……」


あたしはそのままベッドに横たわる。

今の行動だけだを見られたら、あたしが全て悪いようにしか見えない。


(何あれ…あたしが悪者みたいじゃん…)


見慣れない天井を見つめながらそんな悪態を付く。

分かってはいる。あの女性は別にそんなつもりじゃなかったって事くらい…でも、だからと言って同じ状況に居たクレイツおじさんを蔑ろにされたあの言い方は、どうしても気に食わなかった。


それに、初めましての人をあんなに心配できるか?あたしなら絶対無理だ。誰彼構わず心配できるほどあたしの心はそんなに広くはないし、そんな感情とっくの昔に捨てている………と、昔のあたしは捨てていたはずなんだけど……。

クレイツおじさんに向けているこの感情は心配なのではないのだろうか。いや…違う。あたしはもう()()()()()()とっくに捨てている。きっと気のせいだ。


その後はと言うと、あの女性の言う通り優しそうな面持ちをしたお医者様、おじいちゃん先生がやって来た。

軽く診察を受けた後、あと一日もすれば完全回復するだろうと言われた。


(クレイツおじさんは兎も角、あたしは魔力の使い過ぎと体力の限界でぶっ倒れただけなんだけどね…それに血を吐いた事はクレイツおじさんも見てなかっただろうし、病気って訳じゃないから、おじいちゃん先生には何も言われなかった……これはあたしの問題だ…)


魔力の使いすぎについてはおじいちゃん先生も分かっていたらしく、退室間際に「魔力の使い過ぎには気を付けて」と言われた。図星だったので何も言えなかった。


ーコンコンコン


それから少しすると、おじいちゃん先生のノックを入れると、本日三回目のノック音が聞こえてきた。

ベッドの上に座りながらどうしようかと考える。


「………。」


考えた結果、もうなんか無視することにした。極力人間と関わり合いになりたくない。

あたしにはクレイツおじさんだけで十分だ。


ーガチャ


悲しいかな、ノックの主はあたしの心を読んではくれず、開けてほしくない扉が開かれた。


(……こういう時は、断ればいいのか?)


もう遅いが、今更その対処法に気が付いた葵は、今度からはそうしようと心に決めた。


「…失礼します」


先ほど聞いた声が、扉付近から聞こえてきた。

見ると、先程の女性が先頭になってその後ろに男性が二名部屋の中に入ってくる。

一人目は先ほどの女性。二人目は銀色の短髪に新緑色の瞳をした男性、三人目は濃紺の髪と瞳の色をした男性だった。

あたしはちらっとその人たちに視線を向けた後、ベッドから立ち上がり茶色いソファーに移動して腰を下ろした。

その光景を三人は目で追っていたのか、視線がひしひしと伝わってくる。

三人もいると、この格好はさすがに恥ずかしい。この国では当たり前とは言え、あたしにとっては着なれないもの。羞恥心というものがこみ上げてきた。

あたしはスッと立ち上がり、ソファーの後ろの壁際に置いてあるタンスを開けてみる。


「おお…」


そこには、ドレスから簡単に羽織ることのできる服が何着も掛かっていた。

あたしはその中にある紺色のカーディガンを手に取り、ネグリジェの上から羽織った。


(なんかちょっと安心)


勝手に他人の家のタンスを拝借するのは抵抗があったが、着てしまえばそんなもの気にならなくなるというもの。

るんるんになりながら後ろを向くと、三人がこちらを静かに見ていた。


「……。」


あたしは冷静になり、ぎこちない動きで再度茶色いソファーに腰を下ろした。

三人はまだ扉の近くに立っていて、動く気配すら感じられず、すごくやりにくい。

こうやって気を使わないといけないから人と関わり合いになりたくないのだ。

人と関わりを持って、機嫌を伺う生活はもう沢山。

ただ、ずっとこうしている訳にもいかないので、とりあえず声を掛ける。


「…どうぞ、お座り下さい」


はぁとため息を漏らしながら、ノックをされた時に無言でやり過ごした自分を殴りたいと後悔する。

今更後悔しても遅いが、それくらい葵は落ち込んでいるのだ。


「お心遣い感謝します」


銀色の短髪に新緑色の瞳をした青年がそう言って会釈してきた。

白と青を基調としたシンプルならデザインの服。腰には剣が下げられている事から、異世界では当たり前に存在する騎士団と言うやつだろう。


(…やっぱり……見たことあるんだよなぁ…)


この黒髪黒目の女性に会った時も思ったし、銀髪の青年、それに濃紺の髪と瞳の色をした青年を見た時も何とも言えない既視感を覚えた。

だが、三人に会ったのは今日が初めてである。それなのにそう感じるのは何故だろう……。



銀髪の青年の言葉を合図に三人は、膝くらいの高さのあるテーブルの前の茶色いソファーに腰を下ろした。

あたしから見たら、目の前にあるテーブルの向こう側のソファーに三人が座っている形となる。

あたしから見て、左から黒髪黒目の女性、真ん中が銀髪の青年、右側に濃紺の髪と瞳をした青年が座っている。


(どこで見たんだっけなぁ…)


あたしの頭の中は今そればかりだ。

こうやって三人を前にするとよりそう思えてならない。

人の顔を覚えるのが苦手なあたしは、いつも顔と名前が一致しない。それで困ることと言えば仕事関係くらいだろうか。いや今もこうして困っているのだからそれだけではないか。

そんな自問自答が頭の中を飛び交っていた。


それに、右側に座っている濃紺の髪と瞳をした青年に至っては、あの時、バルコニーから見たあの青年に似ている気もしなくはない。

もしそれが当たっていたら、あの時あたしの事を支えてくれた人物が彼と言う事になるのだけれども……。

そう思ったら余計に頭の中がごちゃごちゃになり、一旦考えを停止させた。


「…横になっていなくても大丈夫だろうか?」


あたしがそんなくだらない事を考えていたら、あたしの真正面に座る銀髪の青年が口を開いた。


「…あたしは怪我はしていませんから」


あたしはと言う部分を強調するかのように真顔でそう答えた。

そう思ってるなら部屋に来ないで頂きたいと心の中で悪態を付いていながらも、また自分の悪いところが出てきたなとから笑いをする。






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