序話
漆黒が広がるある森の中、目の前には複数のアンデッドが佇んでいる。
黒くて禍々しい瘴気を漂わせながら、鋭い目付きをあたしに向けている。今にも飛びかかって来そうな勢いだ。
アンデッド達の群れから逃げていたあたしは運悪く崖から落ち、今まさに絶対絶命の淵にいた。
服は所々が裂け、足は骨が折れているのか、動かそうとするだけで激痛が走る。
(ははっ…これはもう終わりかな……まぁいいや、思い残す事なんて何も無い…………)
目を瞑り静かに深呼吸をする。耳を澄ませるとアンデッドの息遣いを感じる。獲物を定めているみたいだ。
ぱちっと目を開け、目の前で唸っているアンデッド達を見つめる。
(さぁ来い…一思いに逝かせてくれ。そして…元の世界に……元の世界?…元の世界に戻ったってあたしには………)
足の激痛にそろそろ限界がきていた。
顔を歪めながらも視界だけはアンデッド達を捉えている。
「…あっちに行くくらいなら……死んだ方がマシ…」
もうあの時のような出来事は一生経験したくない。やっぱりこれからも独りぼっちなのだと思うと自然と涙が頬を伝った。
「ファイヤボール!!!」
すると急に、暗闇の中から声が聞こえたかと思ったら、ボゥッ!!と目の前に火の旋風が巻き起こった。
その火の旋風に暑さを感じ、腕で咄嗟に顔を覆い目を閉じる。
視界を閉ざした目の前で、声とも言えない叫び声が葵の耳に突き刺さる。
何が起きたのかいまいち理解が追いつかない。今の旋風は何なのか、誰が放ったのか。もしかしてあたしも獲物だと思われ殺される?
(……。)
それも何だか悪くないと思ってしまった。あっちの世界に戻っても何も無いあたしからしたら、自分の生きている意味でさえ邪魔なものでしかない。
そんな事を考えていたら、いつの間にか辺りは静かになっていた。
恐る恐る目を開けて前を見る。
「……っ!!」
葵の目が見開かれていく。
目の前には先程まで葵を獲物として捉えていたアンデッド達が、誰かの魔法によって拘束されていた。
アンデッドの身体が術式が描かれた円形の魔法の陣によって拘束され、身動きが取れないのか唸りながら横たわっていた。それも沢山。
ここにいた全てのアンデッド達がその様に拘束されていたのだ。
「…………?」
確かにアンデッドは普通の人は倒せないから動きを止めてるこの行動は正解だと思うけども……一体誰がこんな事を?
ーザッ
その時、背後から誰かの足音と気配を感じた。
足を怪我している為、慎重にその音がした方に視線を向ける。
(……この人………)
暗闇の為、彼の魔法で灯る火の明りがとても心強い。白いローブを羽織り、左右の耳にはゆらっと揺れるふさふさの銀色をしたタッセルピアス、濃紺の髪を後ろに束ね、髪の毛と同じ濃紺の色をした力強い瞳がこちらを見つめていた。