表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/18

プロローグ

 ーーーー其方の所業にはホトホト呆れる。


 そう言った、豪奢な玉座に座る美女は、目の前で申し開きをする息子を見て額を押さえ、悩ましげな眼差しを悲しみに染めた。


「お前と言う子は一体、どれだけの姫精霊を泣かせば気が済むのですか••••」


「お言葉ですが母上。その姫精霊達から情けを掛けてくれと言うから、掛けたまでですが。飽きるまでで良いと言うからーーーー」


「だまらっしゃいな、このアンポンタンが!」


 先程までのたおやかさは何処へ行ったのか、玉座の美女ーーーー精霊の女王ティターニアは息子へと怒号を放つ。

 圧倒的な美貌に怒りを纏い、輝く黄金の髪は、ゆらりと浮き上がる。


 黙れと言われたので黙った息子は、代わりに溜め息を吐く。ヤレヤレと。

 それを見たティターニアの怒りが頂点に達しない筈は無く。


「ギルベルトーーーー!!!こんの馬鹿息子がぁぁぁ!」


 ティターニアの住まう月華宮殿に、ピリピリと放電された青白い光が迸った瞬間だった。


 ゼーハーと息を整えたティターニアは身の丈程もある杖を出すと、呪文を唱えた。


 魔法陣がギルベルトの身体を捉え、徐々に範囲を縮めていく。


「ーーーー母上、何を!?」


「其方に呪いを施します。少しは地上で修行して来るがいい」


 ティターニアの身体がみるみるうちに巨大化する。

 いや、ギルベルトが縮んでいるのか。


 ギルベルトの意識が急速に遠ざかって行くが、なすすべも無くティターニアの言葉を聞くだけだ。


「真実、愛する事を知れば、呪いは解かれるでしょう」


 魔法陣が消えた後には、ギルベルトによく似た人形がコロンと床に落ちていた。


「ティターニア様、本当によろしいのですか?ギルベルト様は、いずれは父君、太陽の精霊王様と貴女様の後を継ぎ、天空を統べる精霊王となられる御方」


 ティターニアは人形となった息子を拾い上げると金平糖の入った瓶に括る。


 綺羅らかしい金平糖は色鮮やかで、透明な瓶の中でカラリと音を立てた。


「良いのよ。貴方もこのままのギルで良いと思って?」


「ーーーーそれは、いえ、はい」


 どっち付かずの返事をする側仕えの精霊を一瞥すると、ティターニアは一瞬で黒いローブを羽織った老婆に変わる。


「それじゃぁ、後はお願いね。ちょっと、この子を預けて来るから。大丈夫よ、上手く行けば可愛いを娘ゲッド、それから孫よ!!」


 言い終わるか終わらないかの差で、ティターニアの姿は消えた。


 お陰で、あ、やっぱり御自分の願望も入っていたのですね、と側近は懸命にも言わずに済んだのだった。









(痛い、な。頭が。ぶつかっているのはなんだ?)


 ゴンゴンガンガンと、容赦なく頭がぶつかってるが、生憎目を開けることが出来なくて、ギルベルトは戸惑う。


(呪いの影響か?というか、ここはどこなんだ。あれから幾日経った?)


 耳の機能も正常では無いのか、音が入って来ないので、推測も出来ずにギルベルトは苛立つ。


母上(ババア)は、何を考えているんだ。真実の愛だと?そんなモノは小説の中だけの存在だろうが)


 こんな目も開かず、耳も聞こえず、身体も動かないのにどうやって愛を知れと言うのか。

 苛立ちが最高潮達した時、不意に幼い声がギルベルトの耳朶を打った。


「青がひと粒、水色はふた粒。あ、机に一個落っことしてた。うん、床じゃ無いからセーフ。わぁ、この金平糖、凄く綺麗。キラキラじゃ無くて、輝いちゃってるし。虹色に、白銀色って言うのかしら。食べるのが勿体無いな」


金平糖?なんだ?どういう事だ。ここはどこだろう?

床じゃ無いからセーフ?そこは3秒ルールにしておけ。

ギルベルトは情報を少しでも収集しようと耳を澄ます。


「この金平糖だけ綺麗な球体なのね。こんな月を見た事あるわ。虹が掛かっていて、銀粉を撒いた様に輝くの」


ん?虹色掛かって、白銀色の球体?ーーーーまさか!

綺麗?それはそうだろう、俺の精霊魂だからな。

って、俺の精霊魂が何故表に出ているんだ!?


「これは食べちゃうの勿体無いなー」


おい、やめろ。それは金平糖じゃない。良い子だから止めなさい。おやつじゃないぞ!?


「ちょっとづつ食べていたのに、もうこれだけになっちゃった。あの不思議なお婆さんの飴屋、またお店出すかなぁ」


ーーーー!?

母上(ババア)が原因か!

わざわざ老婆に化けて俺を売りに出すなんて何を考えているんだ。

ーーーーポリ、ポリってその音、精霊魂じゃないよな?

やめておけよ?お腹痛くするぞ。


ギルベルトは何とか身体を動かそうとするが、力が入らない。


「これ、取って置こうかな。勿体無いし、どうしよう?」


良し!そうだな、勿体無いなー!取って置こうな?良い子だなー。


「でも、美味しいものは食べてこそ、です!ムフー」


ーーーーなんだと!?前言撤回。



ギルベルトは堪らずに瞼に力を込めれば、意外とすんなり開く。


ーーーーあ、開いた。


そのまま思い切ってパチッと大きく瞼を開けば、黒い髪と目の愛らしい少女が精霊魂をその小さな細い指先で、摘んでいた。

白銀色に輝く球体は、一度陽光に晒され、一層透明感と輝きを増す。


(ーーーーアレは!?おい、ちょっと待て、それは金平糖じゃない!)


ギルベルトは唇を動かすが声にならず、口をパクパクさせているだけだ。


ーーーー声も出ないのか!?


そうこうしている間に、少女の桜色の形良い唇に輝きが触れた瞬間、必死にギルベルトは叫んだ。


「ちょっと待て!それは食いもんじゃ無いぞ!って何してるんだーーーー!それは俺の精霊魂だ!」


驚いた少女と目が合う。


「人形が喋った•••••」


愛らしい少女の愛らしい声に、カランと精霊魂が歯に当たる音がした。

驚きの衝撃で、コロンと口の中へと放り込まれた精霊魂は、まだ口の中だろうか。


ギルベルトは、直ぐ様、少女の襟元へと飛び込み、グラグラと少女の襟を揺らす。


いつの間に動ける様になったんだ。

この少女に何かがあるのだろうか。

色々気になるが今は気にしている場合では無い。


「吐け!出せ!それは俺の大事なモノだ!金平糖じゃないぞ!」


「ちょっ、待って、揺らさないで、本当に飲んじゃうから、あーーーーー」


その瞬間、少女の白い喉がコクンと動いた。


「ああああ!?飲んだのか?」


ギルベルトは頭を抱えて顔を青くする。


「あ、貴方が、ゆ、揺らすからでしょう!?乱暴に!って言うか、どちらさま!?」


少女の身体を通っている精霊魂はボンヤリと光り、喉を過ぎて心臓の辺りで止まった。

ギルベルトの精霊魂が、相性が良いのか、少女の身体に馴染もうとしている。まるで、守ろうとしているみたいじゃないか。


「どうする、どうすればーーーー」


可愛らしい子供用の文机の上で、人形のギルベルトが熊の様にウロウロする。

取り込んでしまったならば『同意』がなければ取り戻せない。

欲の深い人間が果たしてーーーー。


見掛けは可愛いが、ギルベルトにとっては相当深刻な事態だ。


「あの綺麗な金平糖ーーーーだと思っていたのは貴方の精霊魂、って言うのね?とても大事なものなのね?」


「ああ、命の次に大事な。精霊にとっては力の源にーーーーって、おい!?何してるんだ!」


ウロウロするのを止め、声のする方を見れば、少女の黒い髪と目は見事なプラチナブロンドと、朝焼けの様な澄んだ瞳に変わっていた。


その白い額に玉の様に浮かぶ汗。

取り込んでしまった精霊魂を取り出そうとしているらしいが、下手をすれば少女に傷が付く。

ギルベルトが導いてやれば良いのだが。


「お前ーーーー」


一旦、取り出す行為を止めようとして、だが、ギルベルトはよくよく観察すると、この少女は変わった魂の持ち主だと思う。

そしてーーーー。


「もしかして、お前、魔力過多症なのか?」


ならば、ギルベルトの精霊魂はあったほうが良いだろに、何故。

いや、子供だからな、知らないだけだろう。


「今は話掛けないで。集中出来ないから」


徐々に黒い色彩へ戻って行くが、苦しそうだ。


「少し待て、一旦止めろ。俺が導いてやるから。って、おいーー!?」


今日で何度目の『おい!?』だろうか。

人間の子供はこんなにも目が離せないものなのだろうか。


心臓の辺りを抑えて、苦しげに呼吸している少女は堪らずに床に倒れた。


ギルベルトの力ーーーー馴染もうとした力を無理やり剥がそうとした所為で、暴走を起こしかけている。


ーーーーギルベルトはチッと舌打ちすると、倒れた少女の唇に自分のそれをあてた。








読んでいただきありがとうございました(*´꒳`*)


ふわっとダイジェスト版で書いております。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ