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機虫 (主人公♂とスマホがイチャイチャするだけの話し)

連載したらいいな、的なのありましたら、教えて下さい。続き書きます。

 目覚ましがけたたましく音を鳴らしました。起床の時間です。

「朝ですよー。起きて下さい」

 私は布団で寝ている彼に声をかけます。一回、私がスリープしたままで放っておいたらば大学の講義に遅刻してヒドいめにあったので、起こすのが毎朝のルーチンワークです。私がここに来た頃は、そんなの無かったんですけどね。

「う~」

 唸り声をあげながら、目覚ましを止めて布団から起き上がり、私に挨拶をしてきます。

「おはよう、マホ」

「おはようございます、ユーザーさん」

 私はいつものように挨拶をして、ユーザーさんに持ち上げられました。はい。私は人間ではありません。スマートフォンです。正しくは機虫と呼ばれる、機械や生物に取り付いて血を奪う『虫』です。

「そういや、マホが来てからもうすぐ2年か」

 うふ、ユーザーさんたら。覚えててくれたんですね。

「そうですね。ユーザーさんは私の命の恩人です。対機虫科に付き出されたら、私は死んでたでしょうし。大好きですよ、ユーザーさん」

 私がそう言うと、ユーザーさんが照れくさそうに頭を搔きます。

「そうだな。俺も大好きだよ、マホ。マホがいなかったら、俺も多分死んでるからな。命の恩人だよ。本当に」

 照れますね〜。でも、ユーザーさんの大変だった時期を支えられて、私はとても嬉しいです。私が照れている間に、キッチンに着きました。

「ユーザーさん、今日のご飯はトーストとサラダ、ついでにハムエッグです」

 今時、どこのアパートにでも付いているAIのホームヘルパーをハッキングして、朝食を作っておきます。お弁当もです。栄養バランスは完璧に整えてあります。スマートフォンですから、この程度の計算は文字通り朝飯前です。

「ありがとう、マホ」

 そう言いながら、ユーザーさんは私に手を差し出しました。私も朝ごはんです。私は触手(先端が尖っていて、スマートフォンと同じメタリックな黒色です)をスピーカーの近くから出し、ユーザーさんの腕に刺しました。なるべく痛くしないように慎重です。

「うーん、最近のユーザーさんの血はサラサラで精神的に飲みにくいです」

 うむむ、と唸りながら言うと、ユーザーさんが私の縁をなぞります。

「マホに健康を管理されてるからね」

 ユーザーさんの感謝と指先がくすぐったいです。もう少しだけ撫でられていたいのですが、もう時間ですね。

「おっと、そろそろいつもの時間ですよ、不健康だったユーザーさん」

「む、ホントだ。あと健康にしてくれてありがとう」

 う、嬉しいこと言ってくれるじゃないですか。ユーザーさんは急いで食器を片付け、家を出ました。もちろん私も忘れません。一緒に登校です。

「「いってきます」」

 そう言って、ユーザーさんは鍵を閉めました。私も電子ロックを起動します。

『いってらっしゃい』

 スピーカーから、私の声の録音が流れました。元々家にあった機能を私の声に変えたものです。ウィーンという音がしたのを確認し、ユーザーさんは大学へ向かいました。

 講義の終了です。この後は2時間程予定がありません。おしゃべりの時間です。

「あの先生の講義なぁー、やっぱりちょっと苦手だわ。訳分からんうえに、機虫避難訓練の音が聞こえて肝心の部分聞こえなかったし」

「教科書に書いてあること以上を言わない先生ですしねー。本当にあの放送は最悪のタイミングでした」

 そもそも解りにくいうえに、全く訳が解らなくなってしまうのです。でも、ユーザーさんには私がいます。

「ふっふーん、まとめておきましたよ、感謝して下さいな」

 とは言っても、いつものことです。

「ありがとうございますマホせんせぇー」

 これもいつものことです。

「マホがいて、本当に良かったなぁー……………」

 そう言いながら、ユーザーさんは涙を拭いました。2年前を思い出してしまったのでしょう。孤独が人一倍嫌いなのに、雰囲気が暗く、人が近寄らない。寂しさでさらに雰囲気が悪くなる。今でこそユーザーさんはそう言いますが、どれだけ苦しかったのか、想像も出来ません。

「いや、教科書でんなこと解るか。あの教師アホだろ、マジで」

 少し高度なことも書きましたからね。

「聞かれますよ、ユーザーさん」

 でも、流石に教師の悪口は聞かれたら不味いです。全く美味しくないです。どうやら無意識だったようで、ユーザーさんは口を覆いました。

「聞かなかったことにして」

 耳が赤くなっていて、かわいいです。

「まあ、私もあの教師はちょっとどうかと思いますが」

「おい」

 そう言って、ピーカーの辺りを弾いたユーザーさんの顔は、とても楽しそうでした。

「ただいまー」

 大学から帰ってきたユーザーさんは、冷たい床に転がります。私の測定では、外は28度の真夏日でした。スマートフォンがなんで気温を測定出来るのかって?私が機虫だからです。

「ユーザーさん、部屋に行きましょう。エアコン付けときましたから、ほら早く」

 熱中症で死んじゃいます。

「動けない。連れてって」

「喋ってるうちは元気ですね。飲み物用意してますから、頑張って下さい」

 ズルズルと這いながら、ユーザーさんは部屋にたどり着きました。

「ユーザーさん、どうしようもない時は運んであげますけれど…………ユーザーさん?」

 起き上がらりません。私は焦りながら状態を確認します。

「熱中症…………私が無理させたから」

 ユーザーさんを仰向けに寝かせて、私は冷蔵庫に触手を伸ばします。焦りが表れたのか、あちこちにぶつけて触手を傷付けてしまいました。それでもなんとかタオルを巻いた保冷剤を首、脇、太ももに当てます。そして、生理用食塩水を作って触手で吸い上げ、ユーザーさんに注射します。血液の濃度を確認しながらそれを繰り返し、待ちます。呼吸は安定しているので、起きてくれるはずです。

「ごめんなさい、ユーザーさん。体調不良に気づけないなんて……………。早く起きて、謝らせて下さい」

 ビシッ、と、私の縁が叩かれました。ユーザーさんが起きています。歓声をあげそうです。

「いや、こまめに水分とれって言われてんのに飲まなかった俺が悪い」

 起きた瞬間にこの人は…………………。うーむ、この目は発言を撤回する気の無い目ですね。しょうがない、私が折れましょう。

「はぁ、どっちも悪かったですね。これからは、こんな事がないようもっと健康維持させて貰いますよ」

 ため息をついて、私はそう言いました。

「そうだな」

 本当に、死ななくてよかった。そうなったら、私も後を追うところでしたね。笑い事じゃないです。

「なんだか、すっごく疲れました。ちょっと寝ます」

 ユーザーさんのおやすみを聞きながら、私はスリープモードに入りました。

 もうそろそろ、夕飯の時間です。私はスリープモードを解除し、キッチンを操作して料理を作りました。

「ご飯が出来ましたよー、ユーザーさーん」

 机の近くにあるスピーカーから声を出します。ユーザーさんが飛び起きました。

「全く、私がいないと勉強中に寝ちゃうんですか?」

「ふああ、解らないからな」

 ギッと椅子を軋ませながら、ユーザーさんは伸びをして立ち上がりました。

「マホがいないと予習は無理だわ」

 全くこの人は。

「全く、本当にユーザーさんは私がいないとダメですね。私が言えた義理じゃないですけれど」

 ユーザーさんがいない世界なんて考えたくもないですね。

「早くテーブルに着いて下さいな。ご飯出来てますから」

 少し重いかな、と思いながら、私は続けました。ほいほいと言いながら、ユーザーさんは移動をします。

「お、なんか今日は好物ばっかだな」

 殺しかけてしまった罪滅ぼしです、なんて言えません。まぁ、バレてるかもしれませんが。

「いただきます」

 美味い美味いと言いながら、ユーザーさんは料理を食べていきます。そんなに言われると、料理人、もとい料理虫冥利に尽きますね。嬉しいです。そうでしょうそうでしょう、と言いながら、画面にニコちゃんマークを浮かべ、私はユーザーさんを眺めます。うーん、かっこいい。

「あ、そうでした。ユーザーさん、そろそろ食材が切れそうなので、明日デートしましょう」

「はいはい。食材買い足しね」

 私はスケジュール帳に明日の予定を書き足しました。明日が楽しみですね。

 じりじりと時間が流れ、お買い物の時間です。

「むっ、ユーザーさん、このお肉はいつもより11,3%安いですよ」

 カメラに捉えた値札を見て、私はユーザーさんに伝えます。ワイヤレスイヤホンを通して喋っているので、周りにはバレません。

「いいね、買うか」

 そして、携帯電話を耳に当てずとも会話が出来るようになったことにより、ユーザーさんの行動も日常に溶け込んでいます。技術の進歩ですね。これが数年前だったらば、ただの不審者です。開発者に感謝です。

「どうした、マホ」

「いえ、技術に感謝をしていたんですよ」

「確かに、数年前だったら独り言のやべーやつだもんな」

 そんなあまり中身の無い会話をしながら、生活用品を物色していると、私の機虫の部分にビビッと電流が走るような感覚がありました。同族です。どうやら、ここに向かっているようです。

「ユーザーさん、早く出ましょう。同族が向かってきます」

 私はそうユーザーさんに言いました。いつものように、機械に取り憑いた機虫なら、何も問題はありません。でも―――。

「え?でも機械のならハッキング…………いや、解った。急いで出よう」

 私の嫌な予感を解ってくれたようです。私とユーザーさんは走ってセルフレジに向かい、バケツリレー方式で袋に詰め、会計を終えます。周りのお客さんにも見られてしまったかもしれませんが、しょうがありません。この場で血が流れる可能性があるなら、私はユーザーさんを全力で逃がすのですから。

 急いで自動ドアに向かい、私達はスーパーマーケットを出ました。

「デートを邪魔されました、最悪です」

「全くだ。明日の新聞、破くかもしれん」

 うーむ、コイツのせいでー、って叫びながら新聞を破くユーザーさんを幻視してしまいました。

「確かに」

「ジョウダンダヨ?」

 どちらともなく、笑ってしまいます。しかし、私はすぐに買い物を邪魔された、という事に怒りを感じてしまいます。あの機虫は、人間を殺す、といったような暴挙はしない可能性が高かったのですが、やはり万一がありますし―――。私がぐるぐる考えていると、

「暴れないだろうけど、万一だよ。どうせ新聞には載らないし」

 は、恥ずかしい。声に出してしまっていたみたいです。でも、ユーザーさんがそう言うなら、多分載らないですね。こういうユーザーさんの勘はよく当たります。

「なら、載りませんね」

 そう返し、私達は会話を終えました。そういえば、お互いにずっと喋らずとも心地よいと思えるようになったのはいつからでしたっけ。これは、メモリを漁っても出てきそうにないですね。

「ただいま〜」「ただいま帰りましたー」

『おかえりなさい』

 スピーカーからの声を聞きながら、ユーザーさんは靴を脱ぎます。

「我が家だー」

 暑い外から、予めクーラーをかけておいた涼しい部屋へ。ユーザーさんがぐでーっとします。かわいい。写真を撮って、そっとフォルダにしまいます。

「ユーザーさん、ゲームしませんか。最近やってませんでしたし」

「お、いいね。やるか」

 シュタッと起きて、ユーザーさんはゲームを用意します。

「何やる?」

「もちろん、格ゲーです」

 数分後。

「あ゛あ゛あ゛ーッッッ、マホお前プロの戦術の解析データとか使ってんだろズルいぞチッショー」

「フハハー、今更気づいたんですか、ユーザーさん如きには対面不利でも負けませんよ。アッハッハッハー」

「ハンデだハンデ、ハンデ寄越せ。痛い目見せてやる」

「フッ、いくらでもくれてやろう。私は負けない。」

「よし、なら常時ダメージ999%な」

「あ、ちょ、すいませんそれは勘弁してください」

 アツくなった二人の完成です。柄にもなく、私が厨二病のような発言をしてしまうぐらいにはあっちいです。私自身の腕でユーザーさんに勝ったり負けたり、そして負けこんだらプロの技を使ってボコボコにして。

「あー。楽しい」

「ホントですね」

 ちょーたのしいです。盛り上がった後の疲労で、ユーザーさんは大の字に寝転がっています。

「ずっとこんな日が続くといいですね」

「そうだなぁ」

 しんみりした口調で起き上がり、ユーザーさんがキャラクターを選択します。

「ずっと一緒ですよ」

「いるさ」

 私もキャラクターを選択します。

「病める時も、健やかなる時も、ずっと一緒ですよ」

 ちょっと巫山戯て、そんなことを言って見ます。番外戦術でちょっと揺さぶりをかけて、さて、試合開始です。

「当たり前だろ。病める時も健やかなる時も、ずっと一緒だ」

「ぴょっ、ふぇ?」


《K.O》


 あれ、いつの間にか負けてる……………。

「マホさんや。さっきまでのキレが無いぞ、どした、ってアッッツい」

 お、おかしいですね。私がいくらスマートフォンといっても実際は生体みたいなものですから、そんな温度になるわけないのですが。あれ、おかしいです。冷却できません。

《「当たり前だろ。病める時も健やかなる時も、ずっと一緒だ」》

「うぴゃーッッッ」

 燃えますッ。燃えて基盤が溶けますッッ。思い出しただけで、マザーボードが爆発しますッッッッ!!

「マホさん!?」

「ユーザーさんが《「当たり前だろ。病める時も健やかなる時も、ずっと一緒だ」》とか言うから」

 録音した音源を流してやります。

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッごめんなさい忘れて下さいいいい」

「嫌です」

 ドッタンバッタン悶えるユーザーさんにNOを叩きつけます。実質プロポーズを忘れる訳がないのです。その後、ユーザーさんのお腹が鳴るまで押し問答をしてしましいました。

 目覚ましがけたたましく音を鳴らします。起床の時間です。

「おはようございます、ユーザーさん」

 私の声でユーザーさんが起きます。ポチッと目覚ましを止めて起き上がり、グーンと伸びをします。

「おはよう、マホ」

 私達はテーブルに着きながら、昨日の話をします。

「どうやら、ニュースにはなっていないみたいですね。でもSNSでは、あのスーパーでなんか切り傷できてた、って感じの話しがチラホラみられました」

「人形の藪蚊が発生してたのか」

 人形の藪蚊という言葉が妙に刺さり、私達は笑ってしまいます。湯気を立てる朝食をユーザーさんが、サラサラの(精神的に)飲みにくい血液を私が摂ります。その後、少しだけ協力プレイのゲームをしました。

「そろそろ時間ですね」

 その言葉で、私達は外に出ます。ユーザーさんが鍵を閉め、私が電子錠を掛けます。

「「いってきます」」

 そう言って、私達は『いってらっしゃい』を聞きながら大学へ向かうのでした。

もしかしたら、言われなくても書くかもしれん………………。

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