9.トレント襲来
まだグッタリしているドライアドを連れて、私達は村へと戻った。
玄関を開けて部屋の中へ入ると、コリンは忙しそうに掃除をしていた。
そしてゴンベの両手の中にいるドライアドを見て黄色い声をあげる。
「そのお方はドライアド様! いったい何があったんですか?」
「森でオオケラって魔獣に襲われてたの」
私の言葉を聞いてコリンは大きく頷くと、玄関から外へ飛び出していった。
しばらくすると、両手に大きな植木鉢を抱えて戻ってくる。
「ここへ寝かせてください」
「これで元気になるの?」
手の中のドライアドを、ゴンベはゆっくりと鉢植えの中へ寝かせた。
その間にコリンは台所へ行って、桶に水を汲んでくる。
そして両手で優しくドライアドの体へ水をかけた。
するとドライアドと足が根の形になり土の中へと潜っていく。
体が段々と光輝き、萎れていた戻りの服が、新調されたようにキレイになっていった。
元気になっていくドライアドを見て、不思議に思った私はコリンにたずねる。
「いったい何をしたの?」
「この土はワームを放った畑の土で、栄養満点なんですよ」
ドライアドは植物の妖精だから、土と水と栄養分なのかな?
元気を取り戻したドライアドは大きな目をパチパチさせて部屋の中を見る。
「ここはどこ?」
「ここは私の家よ。森で気を失ったから連れて帰ってきたの」
「何から何までありがとう」
「いえいえ、元々、私が余計なことを考えたばかりに―――」
私は手振り身振りをいれながら、森のワームを大量に取ってしまったことを説明した。
話を聞き終わったドライアドは大きく頷く。
「そうだったんですね。では村の畑の土壌が良くなればいいわけですか?」
「もちろんよ。好き好んであんなウニョウニョを傍におくもんですか」
「わかったわ。では私を畑に連れて行ってください」
とりあえず言う通りにしよう。
私はゴンベへ視線を送る。
「畑に行きましょう」
ゴンベは大きく頷き、両手で鉢植えを抱え、畑へ向かう。
畑に着くと、ドライアドは鉢植えからピョンとはね飛び、畑に両脚をスポッと土の中へ入れる。
そして四本の手を大きく広げ、何やら呪文を詠唱し始めた。
呪文は人の言葉ではないようで、全く意味がわからない。
じっと畑を見てると、段々と土が盛り上がり、四つの葉が芽生えてきた。
「おお、この間、種まきをしたのに、もう小麦の葉が出てきましたよ」
いつの間にか隣にきていたジンベが畑を指差して喜びの声をあげる。
皆の顔を見て、ドライアドは嬉しそうに微笑む。
「私達、ドライアドは植物の成長と、土壌の改善を促すことができるの」
ということは……ドライアドとお友達になっておくのもアリよね。
私は畑からドライアドをすくいあげて、顔を寄せる。
「ねえ、ドラちゃん、私達の村に住まない?」
「……そうねー。オオケラから助けてもらったし、少しぐらい一緒にいてもいいかも」
「それじゃあ、決まりね。私はエマ。この村の村長をしているわ。」
「私は名前はドラちゃんじゃなく、エラよ。よろしくね」
私の部屋の中、日差しが一番当たる場所に大きな鉢植えを設置してもらう。
エラは鉢植えの中へ両脚を入れて、とても嬉しそうだ。
私は朝昼夕と水を注ぎ、鉢植えの土も入れ替えて、エラのお世話に勤しむ。
そして夜寝るまで二人で話をして過ごした。
エラは母と三人の姉妹と一緒に、『暗闇の森』の奥深くで暮らしていたという。
森の浅い所へ出てきたのは今回が初めてらしい。
疲れきって休んでいたところをオオケラに襲われたのだという。
幾日か経つと、段々と元気を取り戻したエラは、土から二本の足を抜いて、部屋の中を自由に歩けるまでとなった。
私は寝転んで、鉢植えにいるエラに声をかける。
「元気になったし『暗闇の森』へ帰る?」
「うーん、森には母様とお姉ちゃん達もいるから、私は帰らなくてもいいかな?」
「それじゃあ、この村にずっと一緒にいてくれる?」
「うん、エマとずっと一緒にいるわ」
思わず鉢植えを抱きしめていると、オリビアはニヤリと微笑む。
「よかったですね。友達一号ができて……フフフ」
悪かったわね、今まで友達がいなくて!
だって仕方ないじゃない……貴族の女子ってみんなプライドの張り合いなんだもん。
村にエラが来てから二週間が経った。
朝、布団でヌクヌク寝ていると、村の鐘がカンカンカンとけたたましく鳴り響く。
その音に驚いて布団を跳ね飛ばす。
「いったい何が起こったの?」
「トレントの群れが村の中へ侵入しようとしています」
そう言い残して、ジンベは玄関から飛び出していった。
慌てて、外套を羽織って表に出ると、村の中に入ってきたトレントとコリンが戦っていた。
トレントの枝の攻撃を、コリンは素早くかわして、トレントの顏の部分へ牙を立てる。
村を守っている木の壁は破壊されており、次々とトレントが村の中へと入ってくる。
ゴンベは枝を鋭い爪で薙ぎ払い、トレントの一体を拳で殴り飛ばす。
それぞれの獣人達がトレントと戦っていた。
みんな、すごく強い!
やっぱり獣人って屈強なのね!
私が戦況を眺めていると、オリビアが走ってきた。
「こら、ぼーっとするな。今、この村は戦場なのよ! 家の中へ入ってなさい」
悔しいけど、私は戦いなんてしたことがない。
みんなに協力することもできない。
ここはオリビアの指示に従って、家の中へ避難しよう。
オリビアに守られながら、私は家に戻った。
一時間ほどの戦闘で、村へ入ってきたトレントは獣人達によって討伐された。
戦闘が終わった村の外へ出ると、木の外壁は崩壊し、家々も壊されている。
畑もめちゃめちゃに踏み荒らされていた。
私の肩に乗っていたエラが申し訳なさそうに話す。
「私が村にいたからトレント達が集まってきたのかも……」
「エラが悪いわけじゃないよ。トレントの話しを聞いていたのに、平和ボケしていたのは私だから。これは村長としての私の責任よ」
でも、こんなに村が荒されてしまって……
これから、どうやって再建すればいいのよ……




