5.ドワーフ族のホプキン
糸が手に入るとわかった私は、ジンベにドワーフ族の村へ行こうと提案した。
するとジンベは胸の前で両腕を組んで難しい表情をする。
「ドワーフは頑固者ばかりですから、協力してくれるかわかりませんよ」
「そんなの行ってみないとわからないわよ」
やっぱりドワーフって融通が効かないのね。
お金ではドワーフは動かないって前世の日本の記憶にあったわ。
でも……好奇心旺盛だから、新しいことには反応するはず。
私は薄い胸板をドンと手で叩く。
「私に任せてらっしゃい」
私、ジンベの二人がドワーフ達の村へ行くと言うと、オリビアとエドモンドも一緒に来ることになった。
「エマ様を一人で村の外へ行かせるわけないでしょ」
「私はオリビア様に、どこまでもついて行きます」
エドモンドって本当にわかりやすい性格よね。
今もチラチラとオリビアの顔を胸を盗み見してるし……
獣人族の村から徒歩で二時間ほど森の中を歩いていくと、ドワーフの村はあった。
村の周りは土壁で覆われ、村の中からは黙々と煙が立ち昇っている。
ジンベの後に続いてドワーフの村の中へと入る。
するとドワーフ達はセカセカと働いていた。
ある一軒の家の前に立ち止まると、ジンベはゆっくりと玄関の扉を開ける。
「おーい、ホプキンいるかーい?」
「おお、狸が何のようじゃ?」
「狸ではなくレッサーパンダだ!」
家の奥から出てきたドワーフと、ジンベが口喧嘩を始めた。
とても仲が良さそうね。
口喧嘩が終わったところで、ジンベがドワーフの自己紹介をする。
ドワーフの名前はホプキンらしい。
この村でも腕利きの鍛冶職人だという。
「ワシに何の用じゃ?」
「はたおり機を作ってほしいの」
「以前に作ったモノは壊れたのか?」
「織布工場を作りたいの、だから、沢山はたおり機が欲しいのよ」
「金のためか、くだらん。そんな考えは好かん。帰ってくれ」
やっぱりジンベの言う通り、上手くいかなかったかー。
でも、ここで断られるのは想定内よ。
私はホプキンに近づき、耳元で囁く。
「歯車って知ってる? すごい発明なんだよ」
「何、発明とな! 詳しく聞かせてくれ!」
この異世界には精密な機械なんてない。
滑車みたいな機器はあるけど、歯車ってないんだよね。
前世の記憶では、機械の進歩って歯車の発明から始まったと思うのよ。
私は地面に枝で歯車の絵を描き、歯車の効果をホプキンに伝える。
その説明を聞いて、ホプキンは興奮して頬を赤くする。
「これはスゴイ発明じゃぞい。歯車があれば、紐を使う必要もないわい」
「私の話、聞いちゃったよね。タダで歯車の話しを聞くなんて、ドワーフはしないわよね」
「うむ。話しだけ聞いて帰らせるのは、ドワーフの誇りに関わるぞい。はたおり機を作ってやろう。もう一つ聞きたいんじゃが、歯車のことはどこで知った?」
「え? 古代文明に関する書物よ。私、これでも古代文明に造詣が深いの」
「なるほど、歯車は古代文明の遺産であったか!」
口からデマカセなんだけど、本当に古代文明ってあったんだ!?
だって、前世で日本に暮らしてましたって言っても、こっちの人には意味が通じないし、これぐらいの嘘は仕方ないよね。
ホプキンは家の奥へ歩いていくと、背負い袋を担いで戻ってきた。
「ワシが、そっちの村へ行って、はたおり機を作ってやるぞい」
三時間かけて村に戻った私は、ジンベにお願いして、村のみんなを広場に集めた。
「ここにいるホプキンが村のためにはたおり機をたくさん作ってくれるって。みんな拍手」
村の獣人達は大きな拍手をホプキンへ送る。
それを聞いたホプキンは照れて髪をかいた。
ドワーフって頑固だけど、褒められるのに弱いみたいね。
これで工場を作ってもらえるわ。
「みんな、ホプキンに協力して織布工場を造るのよ」
「「「「「「おう!」」」」」
それから十日後、村の外れに大きな工場の建物ができた。
そしてホプキンが私を呼んでいるという。
工場の中へ入ってみると、ホプキンは満開の笑みを浮かべている。
「新しいはたおり機じゃ。歯車を利用して、ペダルを踏めば機械が動くように工夫したぞい」
「それって半分は自動ってことよね。スゴイじゃない」
「ワシの手にかかれば簡単じゃ」
隣のはたおり機でコリンがスイスイと布を織っていく。
機械に近づいて、布地に触ってみる。
うわぁー、絹のようにサラサラ、気持ちいいわ。
織布工場が本格的に布の量産を始めたのは、それから一週間後のことだった。
できあがったゴウラの布の反物を背負い袋に詰め、私、オリビア、エドモンド、コリン、ジンベ、ゴンベの六人はネージンの街へ向かった。
もちろん、私は背負子に座って、ゴンベに運んでもらったわよ。
ネージンの街へ到着したジンベはスタスタと市の方へ歩いて行こうとする。
「ちょっと待って! 今日は市じゃないわよ!」
「え? この街では市のほかに売り場なんてないですよ?」
「黙って付いてきて」
私はそういうと大通りを歩いていく。
そして一軒の商会の店の前に立って、腰に手を当てる。
「ここが布を売る店よ」
「え! 商会じゃないですか! 私達のような物の品なんて扱ってくれないですよ!」
市で、ゴザの上で布を売っても、買いたたかれるだけじゃない。
この布は絹にも劣らない品なんだから、ちゃんとした商会に買い取ってもらわないとね。
私はオリビアを見てから、店に向けてビシっと指差す。
「オリビア、やっちゃってちょうだい!」
「やっぱり私の出番なの。ちょっと気が引けるわね」
「いいから、やっちゃって!」
オリビアは大きく息を吐いて、表情をキリとさせて店の中へと入っていく。
その後ろに私達も続く。
オリビアは店員を見つけると、無表情で懐から家紋入りの短剣を見せる。
「私はメイナード侯爵家、専属私兵軍のオリビアという。ここの支店長に会いたい」




