28.トロール族と友達になろう
クレタの街の競馬場は毎日のように開催され、大盛況をおさめた。
スタンピードの影響で暗かった街の人々の表情にも笑顔が戻ってきた。
クレタの街に人が溢れている、この状況を何とかしないと……
邸に住んでいる皆を集めて、クレタの街の組織編成を作り直すこととなった。
政務局、土木建築局、教育局、警備局、運搬局、農水産局、産業局、軍事局、種族局という九つの局ができた。
政務局……クレタの街の内政を行う局。
土木建築局……街の拡張や補修など、街の色々なインフラや建築を整える局。
教育局……街の人々の識字率などを向上させる局。
警備局……街の中の警備。
運搬局……近隣の街や村への運搬
農水産局……養殖場、飼育場、畑の整備や管理。
産業局……工場・娯楽施設の運営管理。
軍事局……クレタの街の防衛。
種族局……人族、亜人、獣人の種族間トラブルを管理。
グレースは各局を決めると、体の力を抜いて手の平をヒラヒラと振る。
「私は内政局長をおりるわよ。もう後任は育ててあるから」
「ワシも土木建築局の局長は辞めるわい。自由に色々なモノを作れんからのー」
グレースとホプキンには今まで無理を頼んできたからね……
「それで局長をおりて、二人はこれから何をするの?」
「「エマの世話!」」
やめてよ……なんだか私がすっごく手間のかかる子供みたいじゃない。
私が頬を膨らませていると、リアムがニヤニヤと微笑む。
「一人にしておくと、エマは何を始めるかわからないからね」
「みんな、エマ様のことが大好きなのよ」
オリビアは楽しそうにニッコリと笑う。
みんなで楽しく談笑していると、エドモンドは口に手を当て一つ咳をする。
「『漆黒の森』の魔族のことや、『暗闇の森』の三種族達についてはどうするんですか?」
……せっかく考えないようにしていたのに……
「三種族がもしクレタの街へ進軍したきたら、その時は受けて立つわよ。この街を壊されたくないもの。そのための軍備強化はしておくつもり」
「ゴブリン族、コボルト族を中心に兵士も増強している。ケンタウロス族やユニコーン族から軍への参加を希望する者達も多い。みんな『暗闇の森』に帰りたいのよ」
人族にとっては怖い森でも、『暗闇の森』は亜人達の住み家だもん。
やっぱり住み慣れた場所へ戻りないって思うよね。
私は椅子から立ち上がり、外へ向けて指をビシと差す。
「一度、オーク、トロール、オーガの三種族に会いにいってみる」
「トロール族とオーク族へ会いに行くのは止めたほうがよいぞ。奴等は知能も低く、女とみると見境がない。エマなど取って喰われるわい」
「うん、『暗闇の森』へ行く時はガイアに付き添ってもらうつもり」
「ガイアだけでは危険だわ。私達も一緒に同行するわよ」
オリビアは胸の下で両腕を組む。
邸のみんなで話し合いをおこなってから一週間が過ぎた。
街の各局は順調に稼働をはじめた。
私、オリビア、エドモンド、ホプキン、ゴンベ、グレース、ジドウの七人は、武装して『暗闇の森』へ向かった。
シドとガイアは空の上から周囲を警戒してくれている。
一時間ほど歩き、疲れた私はゴンベの背負子に座る。
やっぱりゴンベの背中が一番安心するわ……
三時間ほど森の中を歩いていくと、オリビアが腰の鞘から剣を抜く。
「森の音が騒がしくなった。周囲に何かいる。みんな警戒しろ」
「風の匂いが変わりやがった。何か潜んでるぜ」
「エマ様、オラの後ろへ隠れるだ」
私は背負子から降りて、周囲をうかがう。
樹々が音を鳴らして曲がり、茂みの中から三体の巨漢が現れた。
「トロール族だ。みんな迎撃態勢を取れ」
オリビアの号令に、みんなは武器を構えて臨戦態勢を取る。
「ギャオーン! ギャアオーン!」
《エマに指一本、触れさせぬぞ》
上空から咆哮が聞こえ、ガイアが樹々をバキバキと折って森の中を滑空し、トロール一体を口に加えると、上空へと戻っていった。
そしてシドが上空から急降下してきて、一体のトロ―ルの腕を両手で握ると、急上昇して空へと飛んでいく。
トロール一体に向けてオリビア、エドモンドは剣を向け、ホプキンは大戦斧を構えた。
私はゴンベの背中に隠れながら、トロールを説得する。
「残っているのはあなた一人よ。私達は争うつもりはないの。だから話しを聞いてくれないかな?」
トロールはこん棒を握ったまま、私達をジロジロと見る。
そしてドシドシと前に歩いてきて、こん棒を放り投げた。
「ワシの負けだ。煮るなり焼くなり、好きにしろ」
「そんなつもりはないわ。私達は『暗闇の森』の外にあるクレタの街の者なんだけど、あなた達トロール族と話をしたくて、ここまで来たの。族長と合わせてもらえないかしら?」
「族長と会ってどうする? 族長を殺すのか?」
「そんなことはしないわ。あなた達と友達になりたいだけ」
「嘘を言うな。人族はいつもワシ等を迫害してきたではないか」
トロール族って、魔族の眷属として人族から嫌われているのよね。
近くで見ると迫力はあるけど、それほど怖い雰囲気じゃないんだけど……
ゴンベの背中から離れ、私はトロールへ向けて歩く。
そしてトロールの大きな足に手を添えた。
「ほら私は嫌ってないでしょ。ドロール族って体も大きいし、頼もしいと思うわ」
「エマ様、危ないから後ろへ下がって!」
「大丈夫よ。このトロールさん、優しそうな目をしてるもの」
オリビアは警戒するけど、私にはトロール族って怖いイメージないのよね。
トロールはゆっくりと腕を下げ、私の足元に手の平を置く。
私が腕につかまって、手の平の上に乗ると、ゆっくりと腕をあげていく。
「お前のこと気に入った。ワシの名前はデカダンだ」
「私はエマ、友達になりましょ」




