27.ユニコーンダービー
スタンピードが起きてから一ヵ月が経った。
季節は春になり穏やかな日差しが降り注いでいる。
街の外壁の修繕も終わり、街に競馬場も完成した。
競馬場には大勢の観客が押しかけ、自分の推しユニコーン達へ資金を賭けている。
朝から完成式典が模様され、朝から競馬が盛んに行われていた。
競馬場内には、私が発案し、リアムとホプキンが作製したスピーカーが設置されており、観客はアナウンサーの実況中継を聞いて一喜一憂していた。
時刻は昼過ぎとなり、これより記念すべき第一回、ユニコーンダービーが開催される。
私、オリビア、グレース、リアム、ホプキンの五人は三階の特別席で競馬を観戦していた。
午前中のレースから賭けをしていたリアムは既に資金が尽きようとしていた。
「頼むグレース、少し金を回してくれ! 後で給金で支払うから」
「ダメヨ。賭けに没頭しすぎたのがいけないのよ。リアムって賭け事で身を亡ぼすタイプね。もう止めておきなさい」
「そんなー! エマ様、少し資金を貸してー!」
「邸の金庫番はグレースだから、私に言っても無理だからね」
私だって朝からみんなと一緒に賭けていたから、そんなに余裕のある資金はないのよ。
リアムって堅実なタイプに見えたのに、賭けに狂うタイプだったのね……
いつも豪快なホプキンは賭けになると賭けの倍率の小さい、確実に勝てるレースばかりの馬券を買うタイプだなんて、人ってわからないものね。
ユニコン達がパドックに集まってきた。
十六頭のユニコーン達が尻尾を優雅に振りながらパドックを歩く。
リアムは眼鏡をクイっと押し上げて、ニヤリと微笑む。
「おれは三番のイーサンホークを推すよ。あの脚のプリプリした筋肉の張りがいい。今度こそ私が当たるに違いない」
「さっきも同じようなことを言ってなかったかしら?」
「今後こそ本当だ!」
リアムは馬券を握りしめて椅子から立ち上がる。
こんなに興奮しているリアムを見るのは初めてだわ……
私は隣で黙っているホプキンへ声をかける。
「ホプキンは馬券を買ったの?」
「うむ、ワシの狙いはド本命のオッズ二倍のイナズマカイオウじゃ。銀貨三枚が銀貨六枚になるんだぞ。ワハハハ」
オッズ二倍に銀貨三枚……セコイ!
男なら、もっとドーンと賭けて散ってほしいわよね。
ホプキンは私が握りしてしめている馬券をチラリと見る。
「エマ、お主も馬券を買ったんじゃろう? 何を買ったんじゃ?」
「私は十二番人気のイケメンポップよ。なんといってもイケメンだもん」
「ユニコーン族のイケメンとは、ワシにはよくわからんが、エマが良いならそれでいいだろう」
人もイケメンも関係ない……イケメンこそ正義よ!
ユニコン達がゲートに並び出した。角笛の音で同時にゲートから飛び出していく。
リアムが馬券を買ったイーサンホークが先頭で逃げを打つ。
その後ろを手堅くイナズマカイオウ四番手で追う。
イケメンポップは中団の後ろをジッと走っていた。
レースが開始されると、リアムが大きな声で叫ぶ。
「イケー、イーサンホーク、そのまま大逃げだー!」
「何を言ってるの、私が馬券を買ったクレストファームが二番手よ。必ず差すわ」
リアム負けまいとグレースも声を張り上げる。
グレースが馬券を買ったユニコーンは二番手だったのか。
二人共レースに熱くなるタイプなのね。
普段、おっとりした表情が多いグレースなのに、レースに熱が入るなんて意外だわ……
ホプキンは胸を拳でドンと叩いて、ユニコーンを応援する。
「イケーい、イナズマカイオウ! ワシがついておるぞ!」
四コーナーを回った時点で、イーサンホーク、クレストファーム、イナズマカイオウの三頭が先頭で横並びになった。
みんなの盛り上がりは最高潮だ。
「イーサンホーク! 失速するなー! 俺の全財産がかかってるんだー!」
「クレストファーム! イーサンホークを負かしちゃえー!」
「イナズマカイオウ! 直進を駆けぬけろー!」
ゴール手前でイーサンホークが失速し、段々と後退していく。
クレストファームとイナズマカイオウの争いと思われたが、横から黒い影が一気に二頭を追い抜いた。
そして、そのまま無印のライリライリーがゴール!
え……レース終わっちゃったの? 私が応援していたイケメンポップはどこへ行ったの?
ああー、騎手のハーフリンク族が落馬して一番後ろを走ってる……
私、グレース、リアム、ホプキンの四人はドンヨリとした表情で椅子に座る。
「グレース、お金を貸してくれ」
「人に貸すお金なんてないわよ。私だって全財産なくなっちゃったから……」
リアムとグレースは今後、賭け事は禁止ね。
ホプキンは長い息を吐き、アゴひげを触って微笑む。
「賭けには負けたが、今日は楽しかったぞい」
「いくら負けたの?」
「銀貨三枚じゃ!」
勝っても銀貨六枚、負けても銀貨三枚……セコイ……
私達がレースに負けて、邸に戻ろうと立ち上がると、
換金所から戻ってきたオリビアがニヤリを微笑む。
そういえば今日一日、オリビアって一言も喋ってなかったわ。
「オリビアもレースをしてたの?」
「ええ一レースからずっとね。馬券を転がしてたのよ」
転がす……専門用語を言われても、よくわからないんですけど?
「それで幾ら勝ったの? もしかして負けた?」
「フフフ……こんなものよ」
オリビアは余裕の笑みを見せ、懐から金貨の入った革袋を取りだす。
その革袋はパンパンに膨れ上がっていた。
私は革袋を見て、喉がカラカラに乾く。
「いったい……幾ら勝ったの?」
「金貨百枚よ……今日は奢ってあげるわ」
こんな所に本物のギャンブラーがいるとは思わなかったわ!




